肩書の書き換えられとYouTube試験

文字数 2,920文字

 フリーのシナリオライターは仕事が安定しているとは到底言えない。普段から文筆系の仕事を探している。空白時間ができたら、即仕事探し。こうしていかないと仕事がなくなる。
いくらシナリオ会社と契約していても、だ。
 ハッキングされたあと、とりあえず仕事を納品した私は、大手転職サイトにアクセスしてみた。大手広告会社Rだ。アクセスした私はたまげた。

 肩書が……書き換えられてる~!?

 私の登録していた肩書は、『ゲームシナリオライター』のはずだった。それが、『クリエイティブディレクター』、『コピーライター』、『脚本家』だ。しかもそれだけではない。私が忘れていたような学生時代のアルバイト経歴まで載せられていた。
 
 学生時代、私は国分寺のWeb広告会社みたいなところで営業と執筆のアルバイトをしていた。そのときライティングしたものが実績として載っていたのだ。しかもご丁寧に、「これ以外のものは彼女の上司が書きました」と書かれていた。彼女……私? っていうか、他人が書き換えてるじゃん、これ。

 落ち着け。なんで書き換えられている? それでも私は冷静ではなかった。だって、『クリエイティブディレクター』だぞ? コピーライターと脚本家は100歩譲ってまだわかる。一応成田空港に出したらしいポスターのキャッチコピーを書いたり、そういった経歴もぼちぼちあったし、脚本はまだそのころ実績発表が許される前だったとはいえ、経験している。

 ただ、クリエイティブディレクター。心当たりがまったくない。

 ゲームで企画書を持って行ったことはあるが、そのことか? とも思った。でもそれとも違う。というか、私には不釣り合いすぎるキラキラ肩書だ。

 しかし私は気がついた。「あ、R社はD系だ」と。

 大手広告会社D社。私はハッキングされる前にTwitterでいささか目立った行為をした。
 当時某D社(広告会社のD社とは違う会社)のチャットノベルの宣伝を独断でしたのだが、フォロワー数100でいいね、RTなしなのに起承転結4ツイートで10000インプレッションを獲得してしまったのだ。しかもこの広告ツイートはよくできすぎていた上に、広告会社D社がバックにいるであろう他社のチャットノベルアプリ発表にぶつけたのだ。

 それだけでなんで私が目をつけられたとわかったかというと、私は宣伝会議コピーライター養成講座というところに学生時代通っていた。宣伝会議。そこの主催する宣伝会議賞というものがある。その受賞者は糸井重里氏や林真理子氏。私の代の講座講師には『NO MUSIC,NO LIFE』でおなじみの箭内道彦氏、福里真一氏、映画『ジャッジ!』の澤本嘉光氏、高崎卓馬氏などなど、有名人が多数いた。
 コピーライター養成講座での成績はそこそこ。学生時代は広告業界に行きたくて、就活でH社のグループ会社のエントリーシートに合格して面接も受けたことがある。

 私の下の名前は珍しい。「エミイ」というのは本名だ。珍しいから、印象に残る。それに、養成講座の同期でコピーライターのHさんという方がいたのだが、その方がゲーム業界にも少し足を踏み込んでいた。その上、箭内道彦氏と親交の深いミュージシャン、SさんにTwitterをなぜか一時期フォローされたり、引用RTをされていた。ともかく、どういうわけか一方的に知られていたのではないか? という疑いが濃厚だった。

 広告会社D社に不意打ちを食らわせただろうTwitter広告。ハッキングは多分、そのせいだと思った。それでも何度も言う。なんでクリエイティブディレクターなんだ? 確かにコピーライターが出世するとクリエイティブディレクターになる。しかし、私はコピーライターとしてはそこまでの実績はない。

 意味わからん、と思いつつも、「もしかしてこれは転職しろという啓示か!?」とも思った。ずいぶんな楽観主義者である。

 シナリオの納品が終わり、しばらく時間ができたのはいい。しかし、ハッキングのショックでテレビも見られない、DVDを借りて見る気もしない。

 ハッキングと同時に、不可解なことも起きた。アパートの大家に部屋の前で「さいたまの名士だぁぁぁ!!」と叫ばれたり、不自然な葬儀屋の広告が何枚も入っていて恐怖を感じたりしていた。葬儀屋の広告には「夫婦ふたりで同じ棺に入れます」などと書かれていた。当時私は結婚していて、二人暮らしだったからただただ怖かった。

 私が何をした? もちろん、当時の結婚相手には相談したが、広告業界やゲーム業界について無知であった。何を言っても「は?」とわかってくれようともしない。

 ともかく。異常事態が起きたり、書き換えられた肩書を見たあと、ハッキングされて内容が変わってしまったGoogleドライブを見た。この某バンドMのMV画像。これをどうすればいいのだろうか。この中に現状起きていることのヒントが隠されているのかもしれない。
 だが、それを知っても意味がないだろう。そんなことを思いながら、Youtubeを開いたら。

「あなたならここにたどり着くと思っていた」というような動画がトップに出てきた。私は当時、Youtubeよりもニコニコ動画派だったのだが、これは『正解』だったらしい。そして、たくさんの海外ミュージシャンのMVのサムネイルが表示された。多くは米国の大手レーベルのものであった。その一連のことで察した。これはYoutubeを使った試験だ、と。
 なんでそんな試験を受けさせられるのかわからなかったけども。

 ひとつ、投稿者の名前に目が行った。『Don’t think,Feel』。ブルース・リーの言葉だ。考えるな、感じろ。私はまず、動画の再生数に目をやった。この中から、売れ筋のものを見抜く。これが『試験』だ。
 私は次々にMVを再生していった。しかし、『自分の私情』……つまり、数字から売れると思うものではなく、自分の趣味で選んだ動画を再生すると、サムネイルが一気に包丁だらけになる。怖かった。包丁サムネで埋め尽くされると、不正解だ。
 3時間ほどだろうか。この作業を続けて正直集中力も切れ、疲れた。私はYoutube音声検索にこう問いかけた。

「そろそろ正解出していい?」

 そしたら私が書いたホラー系チャットノベルの実況動画が出てきた。このチャットノベルなのだが、実は書いて納品した後に類似した事件が実際に起きてしまったので発表は匿名にしてもらったのだ。脅迫されているようだったが、関係ないと思った。

 私は遠慮なく、バンドMのある曲のタイトルを音声検索に吹き込んだ。

 これが【正解】だ。バンドMのこの曲をYoutubeで再生すること。アメリカの大手レーベルやGoogleがなぜか私に出したテスト。

 曲をすべて流した後、私は忘年会で深夜に帰ってきた夫を出迎えた。

 バンドMが大手レーベルのアメリカ本社に目をつけられていたということは、このときに気がついていた。しかし、正式に発表されたのは2021年に入ってからであった。

 また違う晩、私宛に読んだら消える「2020年まで一緒に頑張りましょう」という謎のメールが届いていたことは、また別の話。
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