第13話

文字数 2,112文字

 よく日本三大美人と言われるのは「京都、秋田、博多」である。実際、人口比率からいって容姿端麗が多い訳ではなく、方言が奇麗だって理由だと思われる。
確かに秋田辺りだと寒いので毛穴も開かず、肌の綺麗な人が多い気もする。でも秋田に限らず東北は肌の綺麗な人が実際多い。私の住む宮崎は一年のうち寒いのは三ヶ月しかない。特に今の時期、口を開けていても暑い位なので、毛穴も開き肌も大味になるのは否めない。
逆に日本三大ブスといわれるのは、過去に私が聞いた話では「大分、愛媛、名古屋」であった。ちなみに諸説あり、最近では「水戸、仙台、名古屋」らしい。
大分などは「言うたらっかい」「もな、酷え事言うのお」等非常に汚い日本語を女の子が話すので頷ける。愛媛などの伊予地方も似た理由だと思われる。
水戸、仙台というのは実質的にブスが多いのでランク付けされたのかも知れないが、名古屋はずっと不動なので間違いないのかもしれない。
出張や出向で全国を廻った私の経験から言うと、確かに博多は美人が多かった。
何故、過去形かというと昭和の頃、博多は「ブスは歩いてはいけない街」であったからだ。そんな非人道的な街があるか! と言われるかもしれないが、五〇代以上の博多や久留米地方の男なら同じ事を言うだろう。ではブスはどうしていたか? 答えは家にいたのである。
だが、その文化も昭和と共に終わりを告げる。ブスが街を闊歩し始めたからだ。恐らく鹿児島や熊本辺りからの留学生が要因だと思われる。私の勝手な持論だが、ブスは鹿児島の天文館を起点に全国に拡がっていると思っている。特に天文館には着飾ったブスが多い。

本音でいうと美人とブスでどちらが性格の良い子が多いかと聞かれれば、間違いなく美人である。これは幼少期や思春期を通して、ブスだと良い目にあわずに捻くれるって事も原因だろうし、美人だと余り捻くれる必要もなかったと思われる。

南九州から京都に嫁いで来たお嫁さんがいた。彼女は東北女ほど色は白くはないが、大きな瞳を持つ南方系美人であった。
可愛らしいってのが皆の印象で、京都の姑も決して悪い気はしていなかった。見た目従順そうな子である。花嫁修業もそれなりにやってきているらしい。
長男の嫁であるからには、それなりに家風に馴染んでもらわねばならぬ。京では…… (姑の実家は神戸だけど)

長男は創業三〇〇年の造り酒屋の長男ではなく、創業千年の菓子屋の跡取りでもなく、平凡なサラリーマンではあるが。ここは京…… 。
家事や料理は好きだという嫁。ほう、それは楽しみだわい。何が出来る事やら

出て来た料理は京野菜を使ったお煮しめ、肉料理、鳥のから揚げ、サラダなどであった。見た目、決して悪くはない。いや、若い子にしては上出来と言えるであろう。
その日は、義父母と旦那の四人での食事であった。
一口食べた姑は「あれ? 甘い」と思った。
まあ、これが九州の味なのね。ところが、煮しめに限らず全ての料理がとにかく甘く、味が濃い。何かがおかしい。やがて出汁の部分が欠落している事に気づく。
とはいえ、いきなり叱る訳にもいかず、とにかくその場は我慢した。

ところが来る日も来る日も甘くて濃い料理が出続ける。決定的だったのは小姑夫婦を呼んでの食事だった。連れて来た息子が「このお米不味い」と言った。
それは嫁の実家から送って来た九州米であった。確かに不味かった。まるで溺死した米の様である。
どんな食生活送ってたんだ? いよいよ堪忍袋の緒が切れた。

それ以来、悉く姑は嫁の料理に口を出した。
それは日々、熾烈を極め「不味い」「濃い」「甘い」から「どういう味覚してるの? 」「何故、違いが分からないの」の連打であった。
そんな事言われても分からないものは分からない。とにかく薄くすれば「薄い」と言われ、出汁を取っても「不味い」と言われる。そもそも食は文化や経験である。経験に無いものを言われた所で理解は出来ぬ。

げっそりとなった嫁は同じように関西に嫁いだ友人に悩みを打ち明けた。
「ああ、私も似たような経験がある」
 と友人は言った。
「味の素使ってみたら? 」
「え? あれ化学薬品じゃない? 身体に悪そう」
「いつの時代の話よ。あれはアミノ酸だから大丈夫」
 昭和に出来た味の素はあまりに売れた為、自然の物ではないから身体に悪いって噂がたった。しかし、それはすぐにメーカーによって説明否定され未だに売れている。ところがそもそも味の変化に疎い南九州では根付く事なく現在に至る。大きなスーパーに行くとちょっとだけ置いてはいるが。
嫁は藁をも縋る気持ちで味の素を使ってみた。
するとあら不思議。姑が「ちょっとはマシになったわね」と言った。まさに魔法の調味料である。(まあ、姑の実家は神戸である)
粉物で食い倒れる大阪と馬鹿にしていた姑だったが、神戸も大阪の一つながり。
どこの地方も自分のところの食い物が一番旨いと思っているのだが。
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