第115話  記念すべき一日 3

エピソード文字数 3,789文字

 ※


 そこからは普通の話題になり、学校の事や同人の話。そして小説の話になる。

 ここぞとばかりに聞いたのが、俺のワンダーワールドの安否だった。

言わないでしゅよぉ。大丈夫です。異常ありませぬ。

美優チャックは鉄壁の巨人です!

そりゃしゅみませんですた
 こういう時の美優ちゃんはとても機嫌が良いのが分かってきた。クネクネすると更に良しである。  

だけど。なんで聖奈ちゃんには隠すの?

見てもらっても十分面白いと思いますよ

いや、あいつは……絶対ケチつけるだろうし……

あんまり言われると筆を折るガラスのハートの持ち主なので

 意外に繊細なんですよ。ほんと。


 などと俺が照れまくってる間に神妙な面持ちに変化した美優ちゃんは、そういえば……と前置きしてから、こんな事を言う。

聖奈ちゃんとは……お付き合いしないの?
ええっ? だ、ダメですって。ほら。学校でも言ったし、奴隷生活になってしまいます
本当に……そう思うですか?
うっ……ちょっとその、その話は……
聖奈ちゃんは、蓮君のこと。好きだと思うよ

 完全に沈黙してしまう俺。

 すると美優ちゃんも黙ってしまう。

しょ、正直な話、聖奈は……そんな風に思った事もないし、まだ俺にもよく分からなくて、だけどあいつは違う。恋人とかそう言うのではなく……もっとこう。なんて言うんだろう。分からない。


だけど……すごい大事な人です

 具体的な言葉で説明できない。

 だけど恋人とか、そんな枠組みに当てはまらない。


 もっと上の……存在というか。

 

それに付き合うとか。恋人とか、俺にはその……理解できてない部分があって……それに入れ替わり体質だし、自分には人と付き合うなんて、出来ないってずっと思ってたから
それ。わ、私も一緒だよ。こんな身体だから……誰にも理解してもらえないって思ってて……諦めてた
美優ちゃんも?
う、うん。私には恋愛は出来ないってずっと思ってました
その気持ち。凄い分かります
私も。だって……同じ入れ替わり体質だから

 俺と同じ立場でずっと生きて来た美優ちゃんなら、きっとこの気持ちも100%分かってくれると思った。


 それがどれだけ嬉しいのか。

 気が付けば、感動しっぱなしで身体が震えており、美優ちゃんまでガクガク震えちまってる。

【同じ入れ替わり体質】


 そんな言葉が脳内を駆け巡ると、何度もその言葉がリピートされる。


 何度も何度も……


蓮君。あの……私。女の子に見えますか?

男の子になっちゃうけど……女の子として見てくれますか?

もちろんです。そんなの俺だって……女になっちゃうんですよ?
見えるよ。蓮くんは……男の子です

俺も。美優ちゃんは女の子に見えます。

入れ替わったとしてもあなたは女の子ですよ

蓮くん。あなたは私の正体を知ってても……私を女の子だと見てくれる。


こんな身体の私を……

 嬉しい。その一言に尽きる。


 この気持ちが分かるのは、入れ替わる人間にしか分からないだろう。

 横にいる美優ちゃんはまるで……自分の姿のように思えてしまうのだった。

あの……さっきから凄いドキドキする。な、何でだろ……
俺もです。同じ症状に襲われています

 俺もそうだ。今までに感じた事の無い気持ち。


 ずっと美優ちゃんと視線を合わせていると、頭がおかしくなりそうだ。妙に美優ちゃんを意識してしまって。今俺がどんな顔してるのかも分からない。

ごめん。も、もう寝ましょう
は、はい! そうしましょう!

 咄嗟に口に出していた。

 というのも、あのまま二人でいると、いけないような。そんな気がした。


 部屋に戻る前で「おやすみ」と声を掛ける。



 お互いが顔を合わせるが、同じタイミングで下を向いていた。

 ※


 で、これは一体何なんだ?

 俺が布団で寝ようとすると、明らかに誰かが寝てる。っていうか聖奈なんだけど。


 いつの間に移動してきたのか考える前に、この布団に入る事は出来ないと思った俺は、華凛が寝てる布団へと普通に入っていく。


 こりゃ当然だ。そう思い華凛の背中に張り付くと、背中からもぞもぞと布団が擦れる音がする。



 既に嫌な予感はしたが、俺は無視して目を閉じると、予想通り布団に入って来た。

 聖奈は何も言わずに俺の背中に張り付くと、俺も何も言わなかった。



 やがて腰に手を回してくるが、俺は必死に華凛にしがみ付いていた。徐々に力が強くなって来たので、俺はあっさりとバンザイ降伏する。抵抗するだけ無駄だと。




 もう好きにしろよ。そう思っていると華凛の背中からひっぺがされ、仰向けになったと思えば、勝手に俺の腕に頭を乗せるとそのままソフトに抱きついてきやがる。




 あのさ、聖奈。

 俺。今男なんだけど、分かってるのか?


 などと質問する事も出来ない。すぐ近くで白竹姉妹が寝てるんだぞ。



 小声でも聞こえてしまうだろうし、布団に進入してきたのはきっとバレてると思うと、俺はこの状況で喋るわけにはいかず、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。



 あぁ。あんまり触るな。

 そうでなくとも、密着してるので、当たる。当たってるんだって。


 楓蓮なら気にならないのに、男だと妙に気になって、このまま絶対寝れねぇと思った。

ねぇ。美優と何喋ってたの?
別に。ちょっとおさらいがてらに情報を確かめ合っただけだよ
なにそれ
 大丈夫だ。俺も意味が分からないから。
まぁいいわ。よかったわね。あんたの仲間が増えたじゃん

 そう言われると目の前に聖奈の顔があっても、あまり焦らなくなった。

うん。本当によかった。ありがと聖奈。お前が上手く纏めてくれたから

 本当にそう思っている。


 もしミユマユちゃんと俺だけで話を進めていたとしても、これほど大団円になるとは思えないし、そういう意味ではお前があの時来てくれて、良かったと思うんだ。  

で? 美優ちゃんを狙うわけ?
…………
なんでそうなる
だって、同じ入れ替わり体質だし

 聖奈はそういいながらギュっと抱きしめてくるが、今まで以上に力強く感じた。普段なら絶対テンパるはずなのに、その時の俺は全然気にならなかった。


 そんなことよりも……

あのな聖奈。俺は彼女に対してそんな気持ちなんて持っていない。

まずはもっとお話して、理解して……仲良くありたい。それだけなんだ

 聖奈は何も言わないが、ずっと抱きしめてくるので、頭をゆっくり撫でながら俺は続ける。
前にも言っただろ? 俺はお前に……一番誤解されたくない
じゃあ……そのつもりはないの?

うん。無い。だけど……もっと色々と遊んでみたいし。

聖奈も美優ちゃんや魔優と仲良くできたら……嬉しい

……分かった
 素直な聖奈にこちらからも抱きしめると、さっきまでギュっと抱きしめていた聖奈の力が抜けていく。

なぁ聖奈。いつもありがと。いつもお前に助けられて……

だから、何かあったら……いつでも言って欲しい。


お前の為なら何でも出来る

 本当にそう思うんだ。聖奈に限っては……何でもできる気がする。
じゃあ……
何かある?
 催促するように聖奈の返事を待っていたが……
なんでもない
あるなら言えよ
 すると「んん~」と唸りながら抱きしめてくるので、俺も抱きしめ返す事態に発展していた。
あんたが言いなさいよ
え? なにを?

 俺が言う? 何の話? 

 などと考えている内に「もういいわっ!」とキレだしたぞ。


 ちょっと待てよ。意味が分からない上に制限時間二秒も無かったぞ。


 あんたが言う。あんたが言う?

 なんのこと?

ねぇ蓮。明日早いのよ。前みたいに……してよ。

それで許してあげる

 許す? 俺はお前に悪い事をしたのか?
分かった。もう寝よっか

 一回やってるからな。

 聖奈も抱擁を解くと、背中を向けていた。 


 その背中に抱きついて、腕枕をすると完成。

 スプーンみたいな形になると、この前よりもずっと強く抱きしめていた

あぁ……安心する
 お前とこうやって一緒に寝るのは、俺も安心するんだ。
おやすみ。聖奈
……うん

 あっさりと睡魔に襲われると、あっという間に落ちてゆく。

 聖奈の温もりを感じながら。


 ※


 こうして俺達黒澤家は、同じ入れ替わり体質の白竹家と仲良く付き合うようになった。


 この出会いは俺や凛だけではなく、もちろん美優ちゃんや魔優ちゃん。そして聖奈や平八さんにもきっと良い出会いだったと思いたい。



 ただし今回の件で終始後手後手に回った対応については反省しなければ。

 いつ何時でも冷静さを失ってはいけないという事が、嫌と言うほど分かった。


 結局聖奈に助けられ……上手く纏めてくれたが、またまたあいつに借りが出来てしまった事に、頭を悩ませる。




 なんかアイツに出来ることは無いのだろうか? 借りを作るたびに考えてしまう。



 でもな……あいつはマジで完全無欠な人間になっちまって、弱点もクソも見当たらないし、参った。ちょっと位ウィークポイントはねぇのかよ。

 



 ただ、今でも言えるのは……

 あいつの為なら、何でも出来る。



 ほら。よく言うじゃないか。

 もし……世界中を敵に回してもって下りが。

 アニメとかあんな感じの台詞。くっそ恥ずかしいけどさ……


 

 もし……世界中を敵に回しても、俺はずっと聖奈の味方であると。そう断言できる。 



 それは好きとか。愛してるとかじゃなくて……

 もっと上の。なんていうのかな……



 特別な存在。いうなれば聖奈一人だけしか座れないポジションにいる。そんな感じがするんだ。


――――――――――――


次回。白竹美優視点、今はまだ……

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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