第三十四章 『必ず、お姫様を、護る』、と、『合体技』、発動

エピソード文字数 2,670文字

 彪は、とっさに、暎蓮をしゃがませ、その上から覆いかぶさった。……残されている『聖気』の量は、そう多くはない。これは、やつを倒すために使わないと……!
 彪の背中に、『邪気』の塊がぶつかり、その強い不快感に、彼は息を詰まらせた。
「彪様!」
 暎蓮が、彼の腕の中で、彼を助けようと、身動きしようとするが、彪は、両腕に力を込めて、彼女を抑え込み、動かさせずに、その場で護った。
 『邪気』の発する靄の中から、『合』が、近づいてくる。……嗤いながら。
 彪は、吐き気をこらえながら、再び、後ろを振り向いた。
 ……俺の力だけじゃ、こいつを止めることは無理なのか?……だけど。
 たとえ、こいつと刺し違えてでも、お姫様だけは護らないと……!
 彪は、唇をかんだ。
 その、あせる彼の背に、暎蓮が手を当てる。……彼の体を、『神気(しんき)(『天帝』からの加護を強く受けているという『気』のこと)』を送り込んで、浄化してくれているのだ。
 『神気』の力で、彼の体が次第に楽になり、また、失われかけていた自分の『聖気』も、徐々に補填されてくる。
 思わず振り返ると、暎蓮は涙を浮かべた瞳で、彪を見つめていた。その彼女に、しっかりとうなずいてみせる。
 ……絶対に、護る。この人を。
 彼は、そう、心の中で固く誓うと、立ち上がった。暎蓮に、言う。
「……ありがとう、お姫様!」
 再び、『合』のほうを向いて、彼は、表情を厳しくした。
 とにかく、暎蓮の身を護るべく、再び前に出ようとした彪に、彼女が、突然、言った。
「彪様、お下がりください!」
「え?」
 彪は仰天して彼女の顔を見た。彼女の顔が、輝いている。
「代用品ありです!」
「ええ?」
「これです!この『布陣』をお敷きになってください、お早く!」
 暎蓮が示していたのは、先ほど彪が袖から落とした『退魔法』の布陣の設計図の一つだった。
「だ、だけど、それはまだ未完成で」
「いいのです、お早く!」
「う、……うん!」
 二人は、近づこうとする『合』から逃げるように、無駄だと知りつつ、『結界術』の壁を張りながら素早く後ろに下がった。
 ある程度下がったところで、彪は、呼吸を整え、自分と暎蓮を取り囲む形で、顔の前で両手を合わせ、未完成のままの『退魔法』の布陣を発動させた。
「……発!」
 地面に陣形が敷かれ、光を放って浮かび上がる。
 その『聖気』を伴った光に、『合』が少なからず、まぶしそうに片手で顔を押さえ、反応した。
 暎蓮は、その隙に、彪のまん前、陣形の真ん中に立った。もう一度、『弩』を取り出し、構える。
「彪様。……私の『矢』になってください」
「えっ」
 暎蓮は、彪に笑顔を向けた。
「私の右手に手を添えてください。……陣形を、外側の、あの始めから、渦巻くように、力を乗せて。『聖気』を、私の『気』に合わせて乗せて。そして、発射口に集中させてください。……お早く!」
「は、はい!」
 彪は、あわてて、彼女に寄り添い、暎蓮の右手に自分の右手を乗せた。言われたとおり、まず陣形全体に、自分の『聖気』を乗せ、陣形に描いてある、様々な方向性を向いた『力』を一つにまとめながら、ゆっくりと渦巻くように『聖気』を中心部まで動かした。  
 その力が、自分の右手に集約され、暎蓮の持つ『神気』と、重なり、溶けあう。
「…………!」
 彪が、かつて感じたことのない質の、そして、かつて感じたことのないほどの力が体にみなぎるのを感じた。その力は、彪の『聖気』と暎蓮の『神気』の完全に一体化した状態で、丸い、大きな光の塊となって、この世界に具現化された。
「な、なんだ、その『力』は……!?」
 『合』が、その彼らの具現化された力からの光を浴びただけで、苦しそうに、後ろに下がった。『合』の肉体が、少しずつ朽ちてゆく。
 部屋の外に張られた『結界術』の中にいる羅羅と妻が、その光の浄化作用だろう、照らされていくうちに、彼女たちからも『邪気』が少しずつ抜けていく気配を感じた。
「これは……!?」
 彪が、叫んだ。信じられないような、大きな『力』だった。
 暎蓮が、微笑む。
「……これが、私たちの『武力』です。これを、矢の代わりに、撃ち出します!」
 光の塊は、暎蓮の持つ『弩』にしみこんでいった。『弩』が七色に輝く。
「これなら、外しません。…………準備、完了です!」
 暎蓮が、彪に言った。
「彪様。引き金を。……私と一緒に」
 彪が、表情を引き締めて、うなずいた。彼女の右手の上から、自分も手を乗せ、一緒に引き金に指をかける。
 二人は、声を合わせた。
「三、二、一」
「いきます!」
 二人は、同時に、引き金にかけた指に力を込めて、引いた。
 『弩』の発射口から、七色に輝く大きな力の塊が、矢となって発射された。
 彪と暎蓮は、その衝撃に、後ろに吹き飛んだ。彪が、とっさに、彼女の体が地面に叩きつけられないように、彼女を受け止め、クッション代わりになる。
 彪と暎蓮では、身長は暎蓮のほうが高いが、彼女は細いので、体重は彪のほうが多いだろう。 どちらにしても、もとから頑丈なうえ、成長期である彪にとっては、大した衝撃ではなかった。
 しかし、暎蓮は、女性として、恥ずかしかったらしく、すぐに転がるように彪の上からどいた。そして、体を起こす彪に向かい、顔を真っ赤にして、
「ひゅ、彪様、ごめんなさい!重かったでしょう」
 と叫んだ。
 彪はにやっと笑って、
「いや、ぜんぜん」
 と言ったが、すぐに我に返り、前を向いて、
「……そんなことより、やつは!?」
 と言った。暎蓮も、座ったまま、振り返る。
 崩れ落ちていく、彪の張った『結界術』の壁の向こうで、『合』の肉体が、崩れ、肉は落ち、骨もばらばらになって、地面に向かい、音を立てて落下していくところだった。
 彪と暎蓮の『力』を具現化させた『矢』は、『仙士』の『邪術』である『符』を、見事に貫いたらしかった。
 『合』は、あの奇声を、長く、長くあげて消えてゆき、残されていた『邪念』もすべてが霧散してゆく。『合』の奇声は、ぞっとするほどいつまでも彪たちの耳に残った。
 ……だが。
「……滅せた……」
「はい。……私たち、『巫覡』の『武力』で……」
 暎蓮は、そう言って、彪に向かって、いつものように優しく微笑んだ。彼も、笑顔を返し、答える。
「うん」
 彪が立ち上がり、暎蓮に手を貸して、彼女も立たせた。
 ……戦いは、終わったのだ。
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登場人物紹介

白点 彪(はくてん ひゅう)

十三歳。『玉雲国』の『宮廷巫覡』で、強力な『術』を使える『術者』でもある。

この国の『斎姫』で初恋の相手、十一も年の違う憧れの『お姫様』である暎蓮を護るのに必死。

温和な性格。

甦 暎蓮(そ えいれん)

二十四歳。しかし、『斎姫』としての不老の力で、まだ少女にしか見えない。『玉雲国』の王である扇賢の妃。『傾国の斎姫』と言われるほどの美女。世間知らず。

彪が大のお気に入りで、いつも一緒にいたがる。しかし、夫の扇賢に一途な愛を注いでいる。

使う武器は、『破邪の懐剣』と『破邪の弩』。

桐 扇賢(とう せんけん)

十七歳。暎蓮の夫にして、『玉雲国』の王。『天帝の御使い』、『五彩の虎』の性を持つ。単純な性格ではあるが、武術や芸術を愛する繊細な面も。

生涯の女性は暎蓮一人と決めている。

彪とはいい兄弟づきあいをしている。愛刀は、『丹水(たんすい)』。

関 王音(せき おういん)

二十代後半。扇賢のもと・武術の師で、宮廷武術指南役。美しく、扇情的だが、『天地界』中にその名と顔が知れ渡っているほどの腕の『武術家』。

暎蓮にとっては、優しい姉のような存在。彪や扇賢にとっては、やや恐れられている?

愛刀は『散華(さんげ)』。

ウルブズ・トリッシュ・ナイト

二十代後半(王音より少し年下?)。扇賢のしもべで、『玉雲国』ただ一人の『騎士』を自称する、人間界の西方が出自の金髪美男。暎蓮に懸想しており、彪や扇賢とは好敵手関係?戦うときは銀の甲冑と大剣を持つ。マイペースな性格。

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