epilogue jinx (6)

文字数 835文字

 でも、そもそもなんで映画を観に来たんだっけ。

「観るのはどれにする?」

「どれって、どういうことですか?」

 ミストレスは珈琲のメニューと同じように、紙に書かれた映画のリストを渡してくれた。

「観たいものを上映するわ」

「すっげぇ!」

「ハウスシアターみたいに部屋全体を映画の空間にはできないけれど、映画館独特の臨場感も捨てたものじゃないわよ」

 ミストレスはちょっと自慢気なウィンクをする。

「陸くんどれがいい?」

「知らねぇのばっかだけど、やっぱアクションだろ!」

 陸くんなら、やっぱりそうだよねえ。

 う~んと、悩んでいたわたしにミストレスがそっと耳打ちしてきた。

「ジンクスを信じてるのなら、これがいいわよ」

 そうだった、ジンクスだった。それが目的で映画に来たんだった。

 ミストレスは『マイガール』というタイトルを指している。

「どういうお話なんですか?」

「悲しいシーンもあるけど、とってもいい映画よ。11才の女の子が恋と死を通して成長する物語。架純ちゃんと爛真くんもこれを見たわよ」

 突然、お姉ちゃんとお兄ちゃんの名前が出て、わたしは頭がこんがらがる。

「なんで!?」

「あなた、架純ちゃん達の妹さんでしょ。そっくりですもの」ミストレスはにっこりと言っている。「自慢じゃないけど、一度でも来てくれたお客さんは忘れないの」と、パチっとまた自慢気なウィンクをした。

 この人はプロだ。でもお姉ちゃんとお兄ちゃんもこれを観たんだ。わたしも観たい。でも陸くんがなぁ。

「茜がそれ観たいなら、それにしようぜ!」

 わたしは突然の提案に耳を疑う。

「いいの?陸くん」

「茜が観たいものなら、俺も観たい」

 これだ。いつもは遅刻ばかりして、わたしのことなんか何も考えてくれなさそうなのに、時折女心をくすぐるようなことを言う。

 ああ、やっぱりわたし陸くんが好きだ。

「じゃあ準備をするわね」

 そう言うと、ミストレスは古いT-phoneを取り出して、誰かに電話を掛け始めた。

「すぐ準備できるから、いらっしゃいですって」

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