第4話 食堂にて
文字数 1,369文字
食堂の中は生徒たちの賑やかな声に包まれていた。
建物の造作はかつての名残りを留めており、正面と奥側の出入り口の上部にそれぞれ填められた大きく美しいステンドグラスを、陽光が輝かせている。このステンドグラスは、イオンたちの学校のシンボルとして、街の人たちからも親しまれているものだ。
料理を注文する窓口にはすでに列ができていた。
先程我先にと走って行った連中だろうか。早くも食事を終えようとしている姿もある。早く食事を済ませればその分遊ぶ時間に回せるのだから、長い行列ができる前に食堂に滑り込めるかどうかは死活問題、と考える生徒たちがいるのも無理はないと言える。
イオンは鶏肉のローストを、ロランは予定通りザウエルブラーテンをそれぞれ注文し、明るい日差しが大きな窓から降り注ぐ窓際のテーブルについて、食事を始めた時だった。
「ここに座ってもいい?」
ルネが訊ねてきた。右手でサンドイッチを載せた木のトレイを持ち、左手でイオンの隣の席を指さしている。
「もちろん。遠慮なくどうぞ」
鶏肉を頬張っているイオンの代わりにロランが陽気に答えた。
「ありがとう」
そう言って腰を下ろすと、十四才の女の子の姿をした刺客は突然斬りつけてきた。
「朝の本の話だけど」
イオンは危うくむせ返りそうになった。
「何だっけ?」
とっさに惚けて見せたのだが、それしきのことで誤魔化せるはずはなかった。
「わかってるくせに。朝話してた本よ。お昼を食べ終わったら教室へ戻って続きを読んでね」
遊びに行く前に宿題を終わらせなさい、と言う時の母親のような口調で言い終えると、ルネはサンドイッチを齧った。
げんなりするイオンを見て、向かいの席に座ったロランが聞いてきた。
「本って何の? 」
「いいんだ。何でもないよ。それより聞いたかい? ベルナールの羽ペンの話。雷鳥の羽で作ったペンを手に入れたらしいよ」
イオンは可及的速やかに話題を切り替えるべく試みたのだが、
「流れ星の落ちる草原のことが書かれた本よ」
努力はあっさりとはねのけられた。それと悟ったルネが、サンドイッチを飲み込んで素早く口を挟んできたのである。
羽ペンの話に反応するつもりで開いたロランの口は、持ち主の意思に反して違う言葉を発した。
「何がどうする草原だって? 」
「ロランも興味ある? 流れ星が落ちる草原よ」
軽く微笑んで答えたルネはイオンに向き直った。
「あの本は大昔の人が書いた旅行記でね、この国のあちこちを旅してまわったらしいんだけど、そこにはこの地方のどこかに流れ星が落ちる草原があって、実際にその瞬間を目撃したという話が書かれているの。とても美しい光景で、あたり一面が七色に輝き、この世のものとは思えないほど素晴らしい体験だったそうよ」
ロランはフォークを握ったまましばらく空中を見据えている。
彼の聴覚を担当する器官は、もう一度ルネの言葉を反芻し改めて審査した上で、通ってよしとの判断を下して脳へと送り出したのだが、そこで動きは止まってしまった。
ほら見ろ。ロランだってきっと頭からバカにしてかかるに決まってる。
しかし、イオンの希望的観測は次の瞬間見事に裏切られた。
「凄いじゃないか!そんな場所があるなんて!」
「何だって?」
イオンは信じられない思いで友人を見た。まさしく後ろからナイフが飛んで来た思いだった。
建物の造作はかつての名残りを留めており、正面と奥側の出入り口の上部にそれぞれ填められた大きく美しいステンドグラスを、陽光が輝かせている。このステンドグラスは、イオンたちの学校のシンボルとして、街の人たちからも親しまれているものだ。
料理を注文する窓口にはすでに列ができていた。
先程我先にと走って行った連中だろうか。早くも食事を終えようとしている姿もある。早く食事を済ませればその分遊ぶ時間に回せるのだから、長い行列ができる前に食堂に滑り込めるかどうかは死活問題、と考える生徒たちがいるのも無理はないと言える。
イオンは鶏肉のローストを、ロランは予定通りザウエルブラーテンをそれぞれ注文し、明るい日差しが大きな窓から降り注ぐ窓際のテーブルについて、食事を始めた時だった。
「ここに座ってもいい?」
ルネが訊ねてきた。右手でサンドイッチを載せた木のトレイを持ち、左手でイオンの隣の席を指さしている。
「もちろん。遠慮なくどうぞ」
鶏肉を頬張っているイオンの代わりにロランが陽気に答えた。
「ありがとう」
そう言って腰を下ろすと、十四才の女の子の姿をした刺客は突然斬りつけてきた。
「朝の本の話だけど」
イオンは危うくむせ返りそうになった。
「何だっけ?」
とっさに惚けて見せたのだが、それしきのことで誤魔化せるはずはなかった。
「わかってるくせに。朝話してた本よ。お昼を食べ終わったら教室へ戻って続きを読んでね」
遊びに行く前に宿題を終わらせなさい、と言う時の母親のような口調で言い終えると、ルネはサンドイッチを齧った。
げんなりするイオンを見て、向かいの席に座ったロランが聞いてきた。
「本って何の? 」
「いいんだ。何でもないよ。それより聞いたかい? ベルナールの羽ペンの話。雷鳥の羽で作ったペンを手に入れたらしいよ」
イオンは可及的速やかに話題を切り替えるべく試みたのだが、
「流れ星の落ちる草原のことが書かれた本よ」
努力はあっさりとはねのけられた。それと悟ったルネが、サンドイッチを飲み込んで素早く口を挟んできたのである。
羽ペンの話に反応するつもりで開いたロランの口は、持ち主の意思に反して違う言葉を発した。
「何がどうする草原だって? 」
「ロランも興味ある? 流れ星が落ちる草原よ」
軽く微笑んで答えたルネはイオンに向き直った。
「あの本は大昔の人が書いた旅行記でね、この国のあちこちを旅してまわったらしいんだけど、そこにはこの地方のどこかに流れ星が落ちる草原があって、実際にその瞬間を目撃したという話が書かれているの。とても美しい光景で、あたり一面が七色に輝き、この世のものとは思えないほど素晴らしい体験だったそうよ」
ロランはフォークを握ったまましばらく空中を見据えている。
彼の聴覚を担当する器官は、もう一度ルネの言葉を反芻し改めて審査した上で、通ってよしとの判断を下して脳へと送り出したのだが、そこで動きは止まってしまった。
ほら見ろ。ロランだってきっと頭からバカにしてかかるに決まってる。
しかし、イオンの希望的観測は次の瞬間見事に裏切られた。
「凄いじゃないか!そんな場所があるなんて!」
「何だって?」
イオンは信じられない思いで友人を見た。まさしく後ろからナイフが飛んで来た思いだった。