十二 芳川

文字数 1,044文字

 今日は鷹野良平の訃報のため、店に客は来なかった。いつもタバコ臭くなる髪も今日は匂わない。佐枝はバスルームで熱めのシャワーを浴びた。

 明日、店で話せるのに、なぜ、私は芳川に電話したのだろう。芳川が何をするか薄々わかっていたのに馬鹿な事をした・・・。
 鷹野良平が死亡した昨夜水曜はリンドウの定休日だ。芳川は、昨夜、何をしていたのだろう。一週間前に死亡した鷹野秀人の足取りを探っていたのだろう・・・。
 鷹野秀人が死亡した一週間後に鷹野良平が死亡した。芳川は今度は本気で二人が死亡した理由を調べるだろう・・・。
 佐枝はシャワーのバルブを閉めた。バスタオルで髪を拭いて髪と頭に捲き、もう一枚のバスタオルで身体を包みバスルームを出た。

 冷蔵庫からパーコレーターとサンドイッチを取りだしてダイニングテーブルに置き、グラスにコーヒーを注いで冷えたコーヒーを飲んだ。バーテンダーだからといって酒が好きなわけではない。バーテンダーは生きるための方便だ。
 テレビのスイッチを入れてニュースを見た。鷹野良平に関する報道はなかった。佐枝はサンドイッチを口に入れた。
 おそらく、芳川はリンドウの営業日には動かないだろう。動くの休日だ・・・。
 今日はゆっくり休もう・・・。明日、お客が来るだろうか?

 その頃。
 芳川は、北長野駅に近いアパートのダイニングキッチンでテーブルに向い、ロックでウィスキーを飲んでいた。
 佐枝は、なぜ、電話してきた?俺が何をするか知りたかったのか?佐枝はマダムと親しい。もしかしたら、俺の監視をマダムから頼まれたか?マダムは鷹野秀人の事を佐枝に話している。マダムは、鷹野良平から頼まれて動いたはずだ・・・。
 やはり、マダムは俺が鷹野良平から依頼された件を佐枝に話している。俺が危険な事をしないよう佐枝に監視を頼んだのだろう。明日出勤したら、佐枝の様子をみよう・・・。
 芳川は佐枝の電話の理由をそう判断した。

 グラスのウィスキーを飲み終えると芳川はグラスを洗って片づけて隣室へ行き、ベッドに入った。
 まだ、鷹野良平に頼まれた、死亡前の鷹野秀人の足取りを調べていない。鷹野秀人の足取りを探るのは、店が休みの時しかできそうにない。次の定休日、鷹野良平から教えてもらった、鷹野秀人が行っていた飲み屋を覗いてみよう。鷹野秀人の顔見知りに会えるかも知れない・・・。それとも鷹野秀人の高校時代の仲間を探るのが先か?ヤツの仲間に会って、それとなく足取りを探ってみよう・・・。そう思いながら、芳川は目を閉じた。
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