6話:ヒーロー登場

文字数 1,512文字

 スカベンジャーが高速で動き回るなか、赤色の剛腕はそれを迷いなく捉え、殴った。

 殴って、殴って、殴った。四体の骸がバキバキと音を立てて壊れた。

「どう? 僕結構強いかな?」

「糸田くん……アンタ集中しなって!」

 コウの言うように油断できるような状態ではなかった。幾ら死霊と戦う手段を手に入れたとは言え、志朗がダフネより強くなった訳ではない。

 志朗が振り返ってコウに話し掛けた瞬間、ダフネは彼に近寄るスカベンジャーを倒していた。

「貴様、気を抜くな」

「あっ、ごめん……」

 次いでダフネは槍の先端を伸ばし死霊たちを掃討した。三又の刃がそれぞれ別の方向に飛び出しスカベンジャーの頭蓋骨に直撃する。

 志朗が一撃一撃全力で繰り出す必要があるのに対し、ダフネは要領よく急所を攻撃した。歴戦の猛者である彼女と、戦う力に目覚めたばかりの志朗とでは、その技に大きな差がある。

 ――だから、志朗は蹴り付けられた。

「くッ……」

 志朗の死角からスカベンジャーが蹴りを放った。背中を蹴られ、その肥大した赤い右腕ごと吹き飛ばされる。

 志朗はすぐに起き上がるが、その特徴的な攻撃に驚いた。

「そっか、足四本あるんだもんな……」

 このとき志朗は警戒を怠っていた訳ではない。寧ろ一度は蹴りを見切っていた。

 しかしスカベンジャーは両手両足が人間の倍も存在する化物、その連撃の多彩なバリエーションは人間を翻弄する。

「糸田!」

「見附くん、大丈夫だ」

 ダメージは薄い、まだいける。志朗はそう心で唱えた。心配してくれる仲間たちを思うと、彼は力が沸いたのを感じた。

 いや、実際のところ力は依然沸き続けている。志朗は戦いに目覚めたときから、自分の身体が自分のものではないような感覚を覚えていた。



「フッ!」

 ぐっ、と足に力を込めて飛び出した。志朗が踏み出した土は、手榴弾でも爆破したかのように弾け、先の戦いでダフネが見せた圧倒的な速度を更に上回る躍動を生み出した。

「なにッ!?」

 一行よりも驚いたのはダフネだった。志朗の重く鋭いタックルは、未だ戦う相手を定めていたスカベンジャーへ突き刺さった。

「すっげ……!」

 交通事故かと思うほど激しい体当たりに虎太郎は瞠目する。スカベンジャーの一体はこれまでにないほどに原型なく砕けた。

「フン、つくづく日向聡と言う男は……」

 聡が志朗に与えたのは身体強化――その攻撃力と防御力は、既に人間が持つ個性と呼べる枠を飛び越えている。

 殴れば人類最強、走れば人類最速。極論ではなくそうなる素質が志朗には宿っている。

 ダフネは気に入らないと思うも、彼女を含めたいまの一行に志朗の力は大きく寄与していた。

「……強いのがいるね」

 志朗は体当たりから立ち上がると、一体の死霊の間合いに入っていた。

 彼の発言をダフネ以外は理解できなかったが、志朗はスカベンジャーから漏れ出る魔力(マナ)から、その力量を見極めていた。

「スカベンジャーは魔力(マナ)を大きく吸い込んでいる者ほど強くなる。しかし喜べ、アレは先ほど空から飛来した者とは違う。貴様が戦いに目覚めたことで、新しく呼び寄せられたスカベンジャーだ」

「そうなんだ。嬉しいよ」

 志朗は全然嬉しくなかったが応じた。

「どうする? あれだけ強い死霊と貴様が戦う必要もない。代わろうか?」

「やるよ。僕はみんなの為に戦う。雑魚のままじゃあいられないからね」

「人間風情が」


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登場人物紹介

日向聡(ひゅうが そう)【主人公】

藤原西高校が誇る天才。全国高校学力テストで満点を取得し、陸上記録会では新記録を乱発、球技大会で全打席ホームランを放ち、その実績に裏付けられてか、高校二年生だと言うのに生徒会長に鎮座するカリスマ。

突如学校に眼帯をして現れるようになったが、その目の秘密については誰も知らない。異世界が人の数だけ存在していると言う事実に触れて以来、魔法・魔術・能力を駆使しながら77億の異世界を奔走する。一行に能力を分け与え、自分の葛藤にしがみつけと命じるも以来姿を消す。

黒咲コウ(くろさき こう)

藤原西高校が誇る秀才。人呼んで女版日向聡。校内で聡の言うことを唯一理解できる者と呼ばれる。聡と同時期から生徒会副会長に鎮座し、学内ではその性格の悪さゆえ恐れられている。信念が強く高い実行力を持つ。

その実態は人殺しの娘であり、それを一部の世間に知られることで不遇な生き方を強いられてきた。実は良い人として扱われることに羨望がある。小学校の同級生である虎太郎を尻に敷いている。

明日葉みる(あしたば みる)

半年前に姉の明日葉希来が行方不明となって以来それを悲しみ生きてきたが、聡から姉を探す方法があるならどうするかと持ち掛けられ提案に乗る。真面目な性格ゆえ姉のことになると猛進してしまう。

父親が飲酒運転した車に轢かれて以来下半身不随となり車椅子で生活している。轢き逃げをしようとした父親を警察に突き出した希来を自信の命の恩人として慕う。小学校の同級生である虎太郎にはよく車椅子を押してもらっている。

糸田志朗(いとだ しろう)

長身の巨漢。一見近寄りがたいが優しい性格の持ち主。藤原西高校でデビューを図ろうとした虎太郎が一見して絶対に戦いたくないと思うほどの体格で、コウからは西高で一番喧嘩が強い男と称される。

父親が暴力団員だが本人は暴力団を嫌悪している。その葛藤もありできることなら誰かから褒められたり、ヒーローになりたいと想っている。寡黙な性格だがあまりおだてると調子に乗る。

見附虎太郎(みつけ こたろう)

本作もう一人の主人公。明日葉希来が行方不明になるまでは彼女と付き合っていた。まだ手も繋いだこともない関係性ではあったが、秘かに希来のことを想い続けている。

中学時代は仲間に万引きをするよう命じられ、それを断って以来虐められていた。高校デビューを図り金髪とピアスで自分を飾るが、近寄りがたく想われ一握りしか友達がいない。龍見工業の社長御曹司で親元を離れてメイドと二人暮らしする。

桐原乃乃佳(きりはら ののか)

本作の元気印でバカ担当。頭は悪いがその圧倒的な個性で一行を翻弄するムードメーカー。

彼女もまた聡になにか持ち掛けられ一行に参戦するが自信のことについてはあまり語りたがらない。

ダフネ

聡が放つ強いマナ(魔力)に引き寄せられた人魚。変身能力で敵を一網打尽にする。一行を手引く案内人としての役割を担わされ能力の使い方を指南する。ギリシャ神話のダフネとは無関係だが自信が扱う能力のモチーフにはしている。

明日葉希来(あしたば きく)

明日葉みるの双子の姉。半年前に行方不明になる。

いる【作者】@ill_writer(twitter)

小説を書いているひきこもり。みなさんに楽しんでいただける作品を作れるように頑張ります。

※本作には登場しません

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