第8話   第二章 『森のコテッジ』②  看護    

文字数 951文字

 一応、ドアをノックしてみる。
 ・・何も聞こえない。
 
 ノブを回し玄関の二重扉を開放すると、居間のドアは半分ほど開けて窺うように中を覗き込んだ。閉ざされた部屋の暗闇が外に溢れる明るい光と対照的だった。
 真っ先にソファに目をやる。

 (・・いない・・?!)

 慌てて部屋の中を見回す。暖炉の火も消え、室内は冷んやりとしている。
 ツカツカとソファに歩み寄り、力が抜けたようにドサッと座り込んだ。
 
 (・・いないわ・・) 

 が、ふと何かの気配にハッとして振り返る。ソファの後ろの暗がりにより深い影があった。
 侵入する光から身を守るように・・翼を広げて、ビバークしている。

「・・・ピアン・トウ・・」
 
 晃子は急いで入口のドアを閉めに行き、室内は再び・・傷ついた異形の者にとっての安全な闇に閉ざされる。

 暖炉に小さな炎がチラチラと見えた。しかし燃える上がる程の威力もなく消えた。

 晃子は急いで用意してきたキャンドルを取り出した。季節柄か、ゲレンデ近くの多くの店でおしゃれなキャンドルを扱っていた。

 夫々三つの筒状のロウソクに灯を点し、一つをソファの脇のテーブルに置き、もう一つを暖炉の傍、そしてソファの後ろに回ると、もう一つを翼のテントの近くの床に置いた。
 冷たい床にじかに寝ている。

 そっと触れた翼の感触が昨日と違う。かなり荒い。剥き出しの肩にも軽く手を触れた途端、晃子の身体はドッとした疲れのようなものに襲われた。ひどく熱い。
 
 折れた片翼を庇うようにうつ伏せになっているが・・たとえ、怪我をしていなくても背中にそんな飛び道具があったら・・。

 (・・仰向けでは・・寝られないわよね・・)

 救急用のセットを取り出すと、折れた翼の傷口の辺りにキャンドルの明かりを近づけてみる。
 化膿したように赤黒く腫れ上がって、ひどくグロテスク。思わず目を逸らした。

 (・・ひどい傷・・) 

 それから、消毒液のボトルを手に取った。落ちたのは雪の上だけど・・。

(・・破傷風?・・)
 
 まずは試しにとコットンに消毒液を少し垂らし、傷口にソッと押し当ててみた。
 特に何ともないようだ。
 それから今度はタップリと含ませ、傷口に当てた。

「・・ギャアッ!!」
 
 一瞬の後、闇をつん裂くような悲鳴が上がった。

「トウ・・!」
「ご、ごめんなさい・・」
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