第7話 エピローグ

文字数 794文字

 深夜の病院は静かだ。明かりの落ちた廊下を通り抜け恋志穂(こしほ)は自動販売機の前の椅子に腰かける。
頬の痛みはとうになく、赤みが残るのみとなっていた。革靴の足音に彼女が顔を上げると菖蒲(あやめ)が立っている。

「ここにいたんですね」

柔和な笑みのまま座っても、と問う菖蒲(あやめ)恋志穂(こしほ)はうなずいた。
彼は恋志穂(こしほ)の隣に腰を下ろす。しばらく沈黙が続いた。

「きかないの?」

ああ、また質問してしまった、と恋志穂(こしほ)は思う。
菖蒲(あやめ)は優しく彼女を見つめて言った。

「話したいのなら」

優しいな、と彼女は思った。そして、それに甘えよう、とも。リノリウムの床を見つめて恋志穂(こしほ)は言う。

「お母さんに言ったの。私がしてるのは『 予言 』 じゃないって。霞末(かすえ)さんが言ったでしょう? たくさんの質問から予想してる、お医者さんと一緒だって」

そうしたらね、と言った彼女の声はふるえ、視界がにじみだす。

「私のせいで、できなくなったって。『 予言 』 が。お母さんには私がいらなかったんだ」

ほしいのは、お金だけ、と言うと恋志穂(こしほ)は顔をおおって泣き出した。途端、怒号がとんでくる。
それは菖蒲(あやめ)に向けられたもので、いつのまのか、いた鷹司(たかつかさ)が力いっぱい彼の頭にげんこつを落とした。お前のせいじゃねえか、という言葉とともに。
びっくりして涙も引っこんだ恋志穂(こしほ)が目を丸くして菖蒲(あやめ)鷹司(たかつかさ)を交互に見つめる。鷹司(たかつかさ)菖蒲(あやめ)を顎で指す。

「これは丈夫だから気にするな。屁でもねえよ」
「いや、すごく痛かったんですけど。おじいちゃんですよね?」

鷹司(たかつかさ)は抗議する菖蒲(あやめ)の耳をひっぱる。

「うるせえ。お前、どう責任、取るつもりだ」
「責任って ……。わかりました」

菖蒲(あやめ)恋志穂(こしほ)に向き直るとぐい、と彼女に顔をよせる。
近くで見ると、その整った目鼻立ちに圧倒され身を引いた恋志穂(こしほ)の肩を彼はつかんだ。

「困ったことがあれば、僕が必ず力になります」

満面の笑みで言う彼に彼女は高鳴る鼓動と別の意味で赤くなった頬でうなずいた。

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