1 ❀ 朝の森を翔る

エピソード文字数 1,946文字

ムカデ事件から一夜明けた。


朝、鏡で自分の顔を見た萌栄は、ぎょっとした。

目にくまが!? ああ、ムカデのやろうめ…

1階へ下りると、広間では酔いつぶれた大人たちが、ざこ寝していた。


萌栄は台所へ向かう。

おはよう、萌栄。眠れた?
全然。

あらあら。

朝ご飯、できてるわよ。

わぁ、おいしそう! いただきまーす
お味噌汁の色と味がちがう。おいしい!

食べ終わると、歯磨きを先にすませた。


すると、ピンポーンッと玄関のチャイムが鳴った。

まだ7時よ。こんな朝早くにだれかしら

萌栄、おいで~

呼ばれて玄関に行くと、そこには。

あの、おはよぉございまーす。

お母さんに言われて娘さんをむかえに来ました

あらあら、朝早くからありがとう。


じゃぁ、今日はよろしくね

萌栄は、両肩を後ろからつかまれ、「はいっ」と鋼の前へ突き出された。
また昨日のとこ!? いやよ、わたし!

昨日? ああ、塾のことね。

ちがうわよ、教室よりもずっと気持ちの良いところ

ウソね。
ほら、萌栄。鋼くん、待たせてるわよ
萌栄ちゃん、おいでよ。おれ、案内すっから
鋼は、溌剌としている。
朝早くから元気ねぇ。わたし、昨日ほとんど寝てないんだけど…
萌栄は目をこしこしとこすった。
萌栄と鋼は、朝もやに包まれた田んぼの畦道を並んで歩く。

ゆうべは大変やったっちゃろ?


うちん親父が、迷惑かけちょっちゃないかーって、おふくろが心配しちょったわ

あ~昨日ね。

アハハハッ、うんうん、もり上がっていたわよ。楽しそうだった

(昨日は冷めて見ていたけど、あのドンチャン騒ぎも、けっこうおもしろかったなぁ)
そういや萌栄ちゃん、大ムカデをマクラで打ちのめしたって?
なっ、なんで知ってるの!? どこで聞いたのよ!?

村長さんが〝うちの孫は大物や〟って、あっちこっちで話しよったよ。


前ん学校の武勇伝も聞いたよ。おれぁ、感心したわぁ~

(なんということ。発信源は、ジジィ放送局だったか!)
プロレスも上手いっちゃろ? タイガーモエって通り名がついてたって
その名はリングに捨てたはずなのに。
萌栄のいう「リング」とは、前の学校のことである。
さぁて、と。こっからどーすっかなぁ

草の生いしげった崖の前で、鋼が腕を組んだ。


ひらけた崖の上まで10メートルほどの高さがある。

ここを、こう…ひょいひょいっとのぼっていける?
できるわけないわ。いきなりなにを言い出すのよ
まぁ、ムリやわねぇ。最初はみんなそうやし。じゃあ…はい、のって

鋼は背中を出して、かがんだ。


おんぶの姿勢だ。

え? は、はずかしいよ
いいからのって
萌栄はしぶしぶ鋼の背中にのった。
しっかりつかまってて!

鋼は、ザリッと左足をふみこむ。

せーの! よ、ほ
萌栄を背負っているわりには軽々と跳ね、崖を駆けのぼる。
( なにこの人、すごい! 超人?

トン、トトンッとつま先が斜面とふれ合い、かすかな音を立てた。


あっという間に、上ににたどり着く。

うわぁ――っ、ひろーい! 風が気持ち良い~!!

さてと。こっから近道や!

鋼は、走り出した。


背中に翼があるように、森を翔る。

速い、速い! わわわ、ちょっと待って、わぁあ――!!

身体がふわりと浮いては下がり、また浮く


風が下から吹いたようでもあった。


萌栄は、鋼に必死でしがみつく。

はいっ、とうちゃーく!
あ…ありがとう。
萌栄は、鋼の背中から下りた。
どういたしまして。ほら、ここやわ
わあっ、きれい!!
萌栄ちゃん、こっちや
朱色(しゅいろ)の鳥居と、長い階段があった。

鳥居は一つではなく、二つ、三つ、四つ、五つと階段に連なっていた。


(せみ)(かご)稲荷(いなり)神社(じんじゃ)と書いてある。


階段をのぼっていくと、二体のお狐様の像があった。


正面に本殿、左手に休憩所と手水舎、右手に社務所があった。

綺麗な神社ね

そうやろ?

おれぁ、生まれた時からここの神さん、お参りしよった。

良い神さまや~

両手と口を清めて、本殿にお参りする。


本殿入り口の左右の柱に、勇ましい龍が彫られていた。

すごーい、この龍、生きているみたい!

あ、左の龍、なにか持ってる!

それは宝珠や。


あ、先生。おはよう!

すると社殿の中から、女性が現われた。

おはようございます
おはようございます
待っていましたよ、萌栄さん。
(私の名前を知ってる?)
わたしは(くろ)()(とも)()。この神社の者です。よろしくお願いしますね
(とも)()は頭を下げ、微笑んだ。



稲荷神社の挿絵


 西米良村「児原稲荷神社(こばるいなりじんじゃ)」にて撮影致しました。


 神社HP↓

 http://www.kobaru.jp/index.html


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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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