2020年4月11日

文字数 3,787文字

2020年4月11日
 新型コロナウイルスはエボラ出血熱やインフルエンザよりもリスクが本当に高いのかという疑問が生じる。それは感染力や症状の重さ、致死率、予防法・治療法の有無、地域封鎖に伴う経済的・社会的影響などから総合的に判断される。世界がパニックに陥り、医療崩壊の危機が叫ばれるのかについて海外のメディアはよくまとまった記事を発表している。『Sputnik日本語』は、2020年4月10日20時42分更新「なぜ医療システムはインフルエンザには対応できて新型コロナには対応できないのか パンデミックはいつ終わるのか 生物学者の意見」と題して、米ジョージ・メイソン大学システム生物学院のアンチャ・バラノバ教授への次のようなインタビュー記事を掲載している。

Q:医師たちは、新型コロナウイルスと同じような流行やパンデミックはインフルエンザでも生じると話していますが、なぜ医療システムは新型コロナウイルスに対応できないのでしょうか?
A:私たちはインフルエンザの季節に医療援助が必要となる人数を予想することができます。その季節の流行の程度によって医師の仕事量は変わる可能性があります。たとえば、2年前、米国ではインフルエンザが非常に流行し、病院は患者でいっぱいになりました。それにも関わらず、インフルエンザに関しては、肺疾患の患者数はどのくらいになるか、発熱して自宅で療養する人は何人か、医療機関を受診する人はどれくらいか、また死者数などを、私たちは予想します。たとえば、季節にもよりますが、米国ではインフルエンザで約1万6000人が亡くなっています。少ない数ではありませんが、これが予想される規模なのです。新型コロナウイルスの場合は、病気の症状がない時に人々が互いに感染し合うため感染が急速に広がり、そのため、発症者数はインフルエンザの場合よりはるかに早く増加するのです。私たちができることは未来を描き出すことと、感染者数を予想することです。こうした未来予測を私たちはイタリアや他の国の動向にもとづいて行っています。イタリアと同じような流行曲線をたどることを望んでいる人は誰もいません。各国は流行の時間を引き延ばすことで、イタリアのような状態になることを防ごうとしています。
 感染速度を遅らせなければならない理由は2つあります。まず、新しい宿主の体内環境に大きく適応するためにウイルスが進化することから、時間とともにウイルスによって引き起こされる疾患の重症化が軽減するという良いチャンスが存在します。次に、世界各国の保健システムはこのような患者数を想定していません。予想していたインフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)の患者に、予想していなかった新型コロナウイルスの患者が加えられると、その総数はあまりにも大きくなります。こうした感染症患者は特に集中治療室の病床を占めるため、同じように救急医療を必要とする人々を受け入れることができなくなってしまいます。私が言おうとしているのは、予定された手術ではなく、脳卒中や心筋梗塞で助けを必要とする人たちの予想数や、交通事故の被害者、また、腫瘍患者などのおおよその数のことです。
 すべての保健システムはいくつかの計算されたモデルに従って機能しています。いかなる社会も実際に必要とされる数の100倍の病床を予備として維持することはできません。国によって違いはあるものの、少量の予備病床はあります。しかし、その予備も、いつそのすべてがなくなるのかはわかっています。そのため、新型コロナウイルス対策に関するすべての戦略は、どのようにして流行の時間を引き延ばすかということに関係しています。1日の発症者数をより少なくし、それらの患者に対応し、治療の確保を可能とするためです。
Q:エボラ出血熱は新型コロナウイルスよりはるかに危険でしたが、各国は封鎖措置を取りませんでしたよね?
A:エボラ出血熱は致死率が高く、ほとんどの場合が非常に深刻な症状で進行します。エボラ出血熱を発症すると、ただ横になって療養するしかないため、このウイルスを広めることはできません。ウイルスそのものが自らを制限しているのです。人間が近所の人、ましてや他の大陸にウイルスを拡散させることはなく、健全な人は誰も病人に近づきません。しかし、多くの場合、新型コロナウイルスは軽症であるため、感染が拡大してしまうのです。
 コロナウイルスはすでに存在していました。2003年のSARS、また、2012年のMERSがこれにあたり、MERSの致死率は35%でした。まさにそれゆえに、MERSは急速に収束に向かったのです。すぐに発症し、明らかにもうどこにも行くことができなくなったからです。一方、今回は軽症であることが多いため、人々はウイルスをまき散らしてしまったのです。
Q:どういう条件のもとで流行は終わるのでしょうか。
A:そこには2つのプロセスがあります。1つはウイルスの進化のプロセスです。新たな宿主の体内で、なお、ウイルスにとっての新たな宿主は人間ですが、その新たな宿主の体内でウイルスの弱体化が起こることを私たちは知っています。私たちは、コロナウイルスを含む他のウイルスでこのプロセスを観測しました。コウモリのウイルスが人間に感染し、人から人への伝播がウイルスの突然変異を引き起こし、通常、それがウイルスを弱体化させます。新型コロナウイルスは現在、人間に適応しているところです。これにどれだけの時間がかかるかは分かりません。このウイルスはC型肝炎よりも早く進化していますが、インフルエンザほど早くはありません。これが1つ目のプロセスで、2つ目は人間が免疫を得ること、つまり、自然の「予防接種」が行われるということです。このほか、あらゆるウイルスが温度に敏感で、暑さの下では1時間で乾燥してしまいます。夏には流行が収まるでしょう、これは確かです。完全に終息するのか、それとも再流行するのか?という質問ですが、ウイルスが屋外で急速に乾燥するためには、温度が30度以上である必要があります。この温度の下では、ウイルスのリボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)が破壊されてしまいます。

 よくまとまっている記事だ。ただ、不明な点も多い新型ウイルスなので、この予想がどこまで当たるかはわからない。夏に感染が減少するというのも、暑い東南アジアやアフリカにおいても報告があるから、希望的観測のように思える。しばしば悲観主義が現実主義である。

 もちろん、日本のメディアにも参考になるものがある。2020年4月10日、NHKはBS1で『パンデミックとどう闘うか2「調査報告 新型インフルエンザの恐怖」』を放送している。これは、2008年のNHKスペシャル『調査報告 新型インフルエンザの恐怖』の再放送に、田代眞人元国立感染症研究所センター長等が今回のパンデミックにおいてその対策がいかに機能し、しなかったのかについて語る番組である。

 今回問題になった人工呼吸器の不足や発熱外来の分離などは当時からすでに指摘されている。また、新型インフルの際に、米国では議論を通じて人工呼吸器の優先順位のコンセンサスが形成されているが、日本においてはそれもあまり知られていない。

 加えて、今回の新型コロナウイルスへの日本政府の対応には新型インフルエンザの戦略にとらわれたことがあるように思える。一例を挙げると、PCR検査の抑制的実施の方針である。新型インフルエンザには無症状感染はない。また、タミフルを代表に治療薬がすでにある。感染者ではなく、発症者だけを考えればよい。そのため、流行が始まったら、対策はPCR検査の実施を重症者に限定、発症者に治療薬を投与するというものだ。

 一方、新型コロナウイルスは感染しても無症状・軽症が多いが、治療薬がないため、重症化すると、死に至る危険性がある。しかも、無症状でも感染力がある。治療薬がないから、重症化すれば、死亡リスクが高くなってしまう。発症者だけでなく、感染者を考えなければならない。このような疾病に対しては、新型インフルの戦略にとらわれず、重症化させないためにPCR検査を大胆に実施して早期発見早期隔離に変更する必要があろう。

 近代日本の組織体は戦術的思考に優れているものの、戦略的それに劣る傾向がしばしば認められる。日本政府の新型コロナウイルス対応は、二重の戦略の失敗があるように思える。新型インフル対応の際に検証された戦略の変更がおろそかで、なおかつそこで新たに建てられたそれに囚われている。新興感染症対応は受験問題の傾向と対策とは違う。戦術的思考で対処できるものではない。習慣は災禍によっても簡単には変わらないものだ。

 夕食は八宝菜、ニンジンと豆腐の中華スープ、野菜サラダ、食後はコーヒーと干し柿。ウォーキングは10499歩。都内の新規陽性者数は197人。

参照文献
「なぜ医療システムはインフルエンザには対応できて新型コロナには対応できないのか パンデミックはいつ終わるのか 生物学者の意見」、『Sputnik日本語』、2020年4月10日20時42分更新
https://jp.sputniknews.com/covid-19/202004107353566/

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