菖蒲湯の由来 -5月5日-

文字数 1,059文字

「むかしむかし、ある所にとても可愛らしい娘がおりました。
 そして、その娘に懸想する蛇が1匹。
 蛇は娘が恋しくて恋しくて我慢ができません。

 ついに蛇は、美しい人間の男に化けて娘に近づき、想いを告げました。
 娘も愛を乞うその男を好きになり、2人は恋仲になったのです。

 ある日、娘の友人が家へやってきました。
 いくら呼びかけても、娘が出てこないのを不審に思った友人は、心配になって家の中に入りました。

 すると、蛇に絡みつかれた娘を見つけたのです。
 何とかして助けようと、友人は縫い針で蛇の目を突き刺しました。
 蛇は慌てて草藪の中に這って逃げていきました。

 友人は蛇を追いかけました。
 薮の中には複数の蛇がいて何やら会話をしています。
『おい、お前。そんなに血だらけになって大丈夫かよ。瀕死じゃないか』
『いや、どんなに血にまみれても、俺はあの(ひと)との間に子を成すことができたんだ。もう死んだって悔いはないよ』

 これは大変だ。
 娘が蛇の子を宿しているなんて。
 友人は心配して、何とかならないかと物知りに相談をしました。

『五月の節句の菖蒲湯に入れば、人間の子のほかは落ちてしまうだろう。心配なさるな』
 物知りはそう助言しました。

 節句の日、菖蒲とヨモギ摘んできて、風呂を沸かし、腹の膨れてきた娘を入れました。
 すると娘から、蛇の子がゾロゾロゾロゾロ出てきて落ちました。
 人々は良かった良かったと喜びました。

 このことが人から人へと伝わり、五月の節句には女性の薬になるということから、今でも菖蒲湯に入るようになったのです。」

  〜民話「菖蒲湯由来」 碧月の意訳〜



 地元に伝わる菖蒲湯の由来の物語はこんな感じです。
 
「蛇と娘は仲良くなった」は体の関係を子供向けにやんわりと表現しただけで、心は通い合っていなかったなら、まだいいんだけど、本当に好きあっていたら…… 。

 菖蒲湯は邪を祓う。という伝承だとは分かっていても、節句の時期にこの話を聞くにつけ、なんか蛇が可哀想な気がするなぁとか。
 娘さんはどんな気持ちだったんだろう? 人々と同じように、ああ良かったって思ったのかしら? とか。
 色々考えてしまう私がいます。

 そして、蛇に同情してしまう私は、娘さんと蛇が穏やかな幸せを手に入れる、ハッピーエンドの恋物語を勝手に妄想してしまったりするのです。


 菖蒲湯に、このような由来があるので、こちらでは、菖蒲と蓬を束ねたものをお湯に入れます。
 (ちなみに、旧暦の5月5日にやる人が多いかな。)

 皆さんの地域では、どんな菖蒲湯に入るのでしょうか。
 
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登場人物紹介

あづき


歴史とロマンスと甘味を好む小さな生き物です。

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