第13話 それは中国ウイルスなのか香港問題なのか

文字数 2,675文字

 2020年も後半に入り、愈々アメリカ大統領選の結果が出る時期になった。
 バイデン氏か、と、思いきや、ここに来てトランプ氏が敗北宣言を忌避。
 まさかの泥沼闘争に縺れ込んだ大統領選。
 何はともあれ自国の総理大臣を決める時なんかよりも、我が国では数倍大きな騒ぎだった。
 多くの日本人が自国の事をアメリカの属国だと思う、或いはそれが証左なのかも知れない。
 菅総理には悪いが事実だ。
 ひょっとすると菅総理自身も下馬評通りの自身の当選より、あのショータイムのようなアメリカ大統領選の方が興奮したかも知れない。
 無論私自身も楽しんだし、ほぼバイデン氏に決まりかも知れないが、トランプ氏の訴訟の判決の行方も気になる処だ。
 しかしその事よりも何よりも、霧散してしまった「中国ウイルス」、と、言う言葉の行方が私には気になって仕様のない重大事である。
 米大統領選挙戦開始当初マスコミの曰く、選挙のイメージ戦略の為に強く中国叩きをしたかったトランプ氏が好んで使っていた「中国ウイルス」、と、言うフレーズ。
 辞任前の総理だった安倍氏も、トランプ氏の「中国ウイルス」の直後に「ウイルスは中国から広がった」、と、公言した。
 その発言はストレートに「中国ウイルス」と迄辛辣な言葉でこそなくとも、トランプ氏に追従した事は明らかである。
 しかし世界中で「中国ウイルス」、と、断言したのはトランプ氏だけだったし、直後明らさまに追従したのも安倍元総理だけだった、
 何も安倍元総理を批判している訳ではない。
 日本の立場を考えれば、或いはそれが懸命な判断だったのかも知れない。
 何となれば安倍元総理のお蔭で大した負担を課される訳でもなく、日本はトランプ旋風を躱す事が出来たからである。
 しかし言い方を換えればトランプ氏が発言してくれたお蔭で、安倍元総理以外の世界中のリーダーは、声高に「中国ウイルス」などとハイリスクな言葉を口にする必要が無くなったとも言えよう。
 イラン核合意或いはWHOへの支援の打切り等と言うハイリスクな決断に於いても然り。
 トランプ氏が先にリスクを取ってくれたお蔭で、安倍元総理以外の世界のリーダー達は中国の牽制の為に、自ら進んでリスクを取る必要が無くなったのだ。
 最もそれが顕著なのは、ドイツのメルケル氏に於いてであろう。
 それは5G基地局の施設業者をフィンランドのノキアに限らず、中国のファーウェイを拒否しなかった政策にも表れている。
 欧州の覇者とは言え今後イギリスを欠いたE
         − 62 −

Uの舵を取るドイツに取り、経済や外交に於いて中国と反目する訳にいかないのは自明の理。
 本来ならば香港の一国ニ制度を脅かす国家安全維持法制定に対する批判や、昨今の民主派議員の資格剥奪など、民主主義を旨とするドイツは欧州を代表して批判するのが叱るべきだ。
 然るにその事については殆ど言及しない。
 否、言及できないのである。
 アメリカに於いても総選挙やコロナウイルスの蔓延の影に隠れて、香港の一国二制度が脅かされている事実は大して論じられる事もなくなった。
 その間にも中国に拠る香港の共産化は着々と進んでいるし、欧州でのファーウェイに拠る覇権の獲得の準備も着々と進んでいる。
 仮に習近平が失脚したとしても凡その民主主義国家の考えるように、共産党自体が瓦解する等と言う事は起こらないだろう。
 古くは日本が大陸に侵攻した大戦当時の中国に於いても、毛沢東は国民党だけを日本軍と戦わせ疲弊させる為に、国共合作に及んだほど強かだった。
 共産党は民主主義国家が考える程軟でも、また甘くもない。
 狡猾さと強かさを人民服の中に封じ込めた、
容易ならざる戦士の集団なのである。
 心して掛からなければビジネスマンのトランプ氏のディールで手懐けれるような、そんな容易な相手ではないのだ。
 このままだと10年後にGDPを始め、総ての規模で中国がアメリカを追い越すだろう。
 私は「中国ウイルス」、と、トランプ氏に言って貰って一番喜んでいるのは、当の中国のように思えて仕方がないのだ。
 そのお蔭で香港の主権を脅かす問題は二の次になり、しかも「人類共通の脅威を政治利用してはならない」、と、WHOに言わさしめた。
 恐らくトランプ氏は敗北するだろうし、バイデン氏が大統領になればWHOにも復帰する。
 ならば「中国ウイルス」と言うフレーズも当然この世から消え去るだろう。
 選挙の為のイメージ戦略であったのか、それとも本気で中国を糾弾する為にそう言ったかなど、そのフレーズを用いたトランプ氏の真意はさて置き。
 結果「中国ウイルス」と言うフレーズは、言われた自身が被害者だ、と、主張する大義名分を中国に与えただけのものではなかったか。
 それに「中国ウイルス」と言うフレーズを口にしたところで、日本に於いてもアメリカに於いても、或いは世界中で感染者は増加するばかりである。
 それならば「コロナウイルス」で良かったのではないか。
 何の為の「中国ウイルス」だったのだろう。
         − 63 −

 何故「香港問題」ではなかったのだろう。
 それは香港問題など対岸の火事だから。
 アメリカに直接関係ないから。
 否、それは勘違いである。
 もし心有るアメリカ国民が居るならば、聞き届けて貰いたい。
 これは決して対岸の火事ではない。
 アメリカファーストに直走ったこの4年間。
 それは10年後中国に追い越される脅威に震える余り、中国を負い落とす事ばかりに気が取られていた4年間でもある。
 しかし世界の中心に居るのは中国ではなく、アメリカだと何故その言葉を発してくれなかったのだろう。
 世界と手を取ろうと何故してくれなかったのだろうか。
 アメリカファーストが中国共産党を喜ばせていると、何故気付いてくれないのか。
 その為には日本を始め同盟国が力を貸さなければならないのは無論の事だが、アメリカもまた世界に手を差し伸べるべきだ。
 今からの4年間はそんな開かれたアメリカになる事を期待したい。
 アメリカ国民には決して「中国ウイルス」などと誤ったフレーズで中国を喜ばせることなく、「香港問題」をこそ論じて欲しい。
 そしてこのコロナ禍の混迷に、アメリカが中心になって終止符を打って欲しい。
 それが世界の中心に居るアメリカの、そしてアメリカ国民の責務ではなかろうか。
 そうすれば中国共産党が瓦解せずとも、アメリカは永遠に世界一の筈だ。
 永遠の1番。
 それはアメリカにこそ相応しい称号の筈だ。
 
         − 64 −

 
 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み