疑惑の判定

エピソード文字数 953文字

 ここは夜の東京ドーム。いま、二人のキックボクサーが激闘の末、試合終了を告げるゴングが鳴り響いた。すると、レフェリーが両選手をリング中央へ呼びよせた。

「これより判定にはいります!」場内アナウンサーが叫んだ。
 
 場内は、しんと静まり返った。

「――ただいまの試合の判定結果をお知らせします!」場内アナウンサーの勇ましい声が静寂を破った。「ジャッジ――赤――魔冴華(まさか)――」「ジャッジ――青――爆弾小僧(ダイナマイツ・キッド)――」

 判定は真っ二つに分かれた。
 場内のファンは息をのむ。
 女性ファンは目をつぶって祈っている。

「――ジャッジ――赤――魔冴華」レフェリーが魔冴華の手を高らかにあげた。「二対一の判定を持ちまして――勝者!――マアー、サアァーーカアァーー!!」

 地響きのような大歓声があがった。
 勝者を讃える重厚な音楽が鳴った。
 女性たちは黄色い悲鳴をあげた。

「おい、いまの判定おかしくないか?」
「ぜったいおかしい」
 
 二階席にいた格闘技オタクの男たちが小声でささやいた。

「第一ラウンドは、キッドが魔冴華からダウンを奪ったから、採点は10対8だろう――残りの二ラウンドは、魔冴華が10対9で確実にポイントをとった――しかし、どう贔屓(ひいき)目にみても、この試合は引き分けのドローだぜ」
「疑惑の判定勝利だ! 2ちゃんねるにカキコするぞぉ! ごらあああぁぁぁ!!」

 すると、大勢の女性ファンは男たちを白い目で睨みつけた。

「――馬鹿、おまえ声がでかいよ」
「すまねぇ」男はしゅんとなった。「でも、どうして判定になると、いつも魔冴華が勝つんだ?」
「仮におれがこの試合のジャッジになったとしよう――こういう僅差の判定は非常に難しいものだ」
「ふむ、ふむ」
「そこで、おれはじっくりと考えこむ――まさか、あいつが負けるはずはない――だが、そのまさかも有り得る――いや、魔冴華の勝ちだ」
「そんな……まさか……」男のひとりは呆れた顔をした。
「それにしても、いいリングネームだよな――彼には人を惹きつける――魅力と魔力がある」
「ああ……」
「さあ、いこうか」

 まるで妖怪のような、ふたりの醜男たちは、しおらしく試合会場を立ち去った。





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