第45話 僕の作ったレタス :2023年5月

文字数 1,360文字

(南山洋子は、駿河大輔に再会する)
2023年5月。東京。パンプキン・ベーカリーの近く。
「あれ。レタスさんだわ」
洋子は、先日「レタスを作っている」と言った男に気が付いた。あれから、パンプキン・ベーカリーにいって、レタス・サンドイッチを食べるたびに、あの男のことが、頭をよぎる。気になって、仕方がない状態になってしまった。これは、レタス・サンドイッチがトリガーになって、あの男のことが思い出される状態である。「せっかくの機会だから、頭の整理をしておこう」と洋子は考えた。
「レタスさん」
洋子が大きな声で呼んだ。
「レタスさん。また。会いましたね。ところで、前に、聞きそびれて、ずっと、気になっていたんです。あなたが、どうやってレタスを作っているのか、教えてもらえませんかしら。あのレタスはとっても美味しいし、あなたは、日に焼けていないし、ちっとも、お百姓さんらしく見えませんもの」
「いいですよ。ご説明します。でも、その前に、レタスさんと呼ぶのは止めてもらえますか。あまりに、人聞きが悪いですから。改めて自己紹介します。駿河大輔といいます。食品のトータルITの会社を起業しています。レタスは、わが社の栽培管理システムを使った植物工場で作ったものです。植物工場は、随分、昔から研究されています。それで、新しく検討する内容が残っていないかと言えば、僕は、そうではないと考えています」
「あなたは、起業家ですか」
洋子は、自分が起業家になれるか、なれないかの瀬戸際にいるので、思わず、尋ねずにはいられなかった。
「この仕事は、誰もやっていないので、起業しないとできないんです。
パンプキン・ベーカリーのレタスは、A社の植物工場で作っています。その植物工場には、わが社のシステムを使ってもらっています。この植物工場は、納入先に合わせた栽培ができます。この植物工場は、パンプキン・ベーカリーの他に、お弁当屋さんや、カレーのチェーン店にも、レタスを納入しています。レタスは、納入先に合わせて、全て、調整して、栽培しています。
つまり、パンプキン・ベーカリーに納品しているレタスは、フランスパンのサンドイッチに使うレタスとしては、世界一美味しいレタスです。このレタスを、お弁当に入れても、美味しくはありません。お弁当屋さんのレタスは、また、別の調整をして、育てたレタスです。そのレタスは、お弁当に入れて食べれば、美味しくなりますが、逆に、サンドイッチに入れても、美味しくありません。わが社のITは、生産から消費までを全てデータ化して、トータルな食の生産と消費システムを作ることなんです」
洋子は、言葉による説明と理解は、つねづね浅いものだと考えていた。いわゆる、百聞は一見に如かずである。そこで、洋子は聞いた。
「面白そうなお話ですこと。ところで、その植物工場を、見せてもらえませんかしら」
「ご質問に応えるには、レタス工場を見学していただくことが、ベストなのですが、あいにく、レタス工場は、無菌工場なので、人が入れないのです。
せっかくですから、もし、よろしければ、わが社の生産管理システムを導入しているワイナリーならば、ご案内できます」
「ワイナリー?場所は遠くありませんか」
「都心からですと、電車で、1時間いって、その後、車で20分くらいの場所にあります」

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