文字数 285文字

()(もの)を ()りそこねたと (ふち)(ぬし)

<解説>

 わたしの家の近くに、深い(ふち)があります。

 昔話ではたいてい、淵の(ぬし)は大きな()(がに)であることが多いです。

 これはかなり危ない話ですが、わたしは精神状態が極限まで深刻になったとき、その淵にかかる橋の上に立って、眼下の川を見下ろし、ある種の緊張感でもって、不安をやわらげるのです。

 こういう行為はとても危険ですので、絶対に真似などしないでいただきたいですが、極限状態を回避するたび、淵の主である大蟹(おおがに)が、「また取りそこねたか」と舌打ちでもしているような気がして、落ち着いたあとには「絶対に食われてなるものか」と、必死で言い聞かせるのです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み