第5話 なんて自分は愚かなんだろう

文字数 1,289文字

高校二年のクラス替えをしてしばらくは幸せだった。
毎日学校に行くのが楽しみでしょうがなかった。
優和といる時間はいつも笑っていた。
特別なことなんて何もなかった。
それでも毎日輝いていた。
こんな感情を友達に抱いたことは後にも先にもあの時しかない。
ただ一緒に過ごす時間が愛おしくて、誰よりも優和に知ってほしくて、誰よりも優和のことを知っていたい。
まるで恋愛に夢中になったかのように盲目だった。
明子は優和のことを否定的に思った自分を後悔した。
何て自分は失礼なこと思ってしまったんだろう。
明子はひどく自分を責めた。
いじめられる側に問題があったのだ。



その日は突然やってきた。
明美の番だった。

優和はとても繊細だった。
自己肯定感がかなり低かった。
というより承認欲求に飢えていたというべきか。
あの日もそうだった。
学校の帰り道だった。
優和は落ち込んでいた。
別れ際、明子は優和を見た。



「私はずっと一緒にいるよ」



優和を励ましたい一心だった。
優和には自分が必要だ。
ある意味それは友達の関係を越えた使命感だった。
それは明子の自信をつけた。




「約束だよ」




優和は明子がいる方を見た。
でも明子と目が合うことはなかった。
ただ遠くを見つめていた。
誰も私のことなんてわからないとでもいうかのように。
でも明子は気にしなかった。
それよりも自分の存在価値を見つけられたことが、嬉しかったのだ。


次の日、明子は風邪をひき、学校を休んだ。
熱が38度あった。
3日後、明子は、ようやく風邪が治り、登校した。



「嘘つき」



明子は言われもない優和からの言葉に驚いた。
すぐには何のことか分からなかった。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

知りたくない。



明美のそんな思いは伝わることもなく、残酷にも正人は真実を告白しようと意を固めたのだった。
明美の気持ちは間違いなく伝わっていた。
だからこそ、無理なのだと明美は悟った。
気持ちを演技できるほど、明美は器用ではなかった。

明美は正人を見た。
偽善者だと思った。
まるで明美のことを思って、これ以上嘘をつけないとでも言いたいかのような、そんな哀れみの目をしていた。
それは違うだろう。
明美は悔しかった。
それは明美のためではなく、結局、正人自身のためだろう。
少しでもいい人でいたい。
だから、もうこれ以上嘘はつけない。
良心が痛い。
全部自分を守るためだ。



なんて自分は愚かなんだろう。



明美は別に大したことはないと思わなければいけなかった。
それはまさに自分を守るためだった。
自分の気持ちを考えることは効率が悪いことだと思ってきた。
それくらい明美は生きることに余裕がなかったのだ。



正人は明美のオアシスだった。
最初から最後まで全部嘘だったのだろうか。



どうして正人だったんだろう。



行き着く答えはさらに明子を追い詰めるだけだった。



いくら探しても理由なんてなかった。
それくらい愛していたのだ。

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