第14話 命の選別と魔女様の事情

文字数 984文字

 ガウルさんまで、見捨てるという言葉を使っている。
 先ほどの男性と違って、穏やかな口調だけど内心は彼と同じ気持ちなのだろう。

 命の選別。
 瘴気や魔物どころか他国からの侵略までをも防ぐいにしえの魔女の結界に守られ、平和を満喫してきた人間達には理解できない事なのだと思う。
「すみません。子どもの戯言です。どうぞ治療を続けて下さい」
 説明をしたところで、どうせ分かってもらえない。
 ポーションが必要な全ての人間に行き渡らないのであれば、使う人間を選ぶしかない。それが命の選別につながる事だとしても。
 それをせず、やみくもにポーションを使い、足りなくなってしまったとしても私には関係無いし、今、この騒ぎで治療の手が止まっている事の方が問題なような気がした。

 だから私はガウルさんにぺこんとお辞儀をして、建物から出ていく事に決めた。
 騒ぎの元の私がいたら、支障が出るだろうから。

「待ってください。ナタリー様」
 私たちの元に集まってしまった人たちをかき分けながら、師団長がやって来る。
「お願いします。この場で治療を」
「無理でしょう。ケガ人を見捨てるような発言をした私の治療を受けたい人間がいるとは思いません」
「そんな事は……」
 私は師団長に捕まれた腕をスルッと外し、表に出た。
 ガウルさんは付いて来ていない。あの場に留まり治療をする事を選んだのだろう。

 師団長の方は、私に付いて表に出て来ていた。
「治療をしなくて良いのですか? 他に魔法を使える方々もここにはいないのに」
「ええ。かまいません。休憩を取らないと、魔力が枯渇してしまいますので……」
「……それは、大変ですね」
 私はすたすたと歩きだす。こんなところで、師団長との問答をする気は無かった。
「待ってください」
 どうして待たなければならないのか。ここの魔女は何もしていないのに。
「いにしえの魔女の結界があるという事は、魔女様がいるのでしょう? そのお方に何とかしてもらって下さい」
 そう言うと、師団長は何とも言えない……少し怖い顔をして私の顔を見た。

「知っているかも知れませんが、魔女様……ジャネット王女殿下には魔力が無いのです。結界の核を担っているにすぎません。魔力は……男の私の方に遺伝してしまいましたから」
 師団長は、苦しい顔をして告白してきた。
 いや、そんな意味ありげな告白をされても……って、言うかしないでください。
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