3 ✿ あめ玉と泥棒

文字数 1,418文字



 閑静な住宅街を、良治はひとり歩いていた。
 途中、通学鞄や野球道具は家に置いてきたが、服はそのままだ。

「あっちぃー…。溶けないかな、これ」

 良治は、右手に提げた白い袋を見る。
 ビー玉のような美しい色彩の飴が、丸い籠に入っている。
 外国人が喜ぶお菓子だと、お菓子屋の店員が教えてくれたのだ。

「ここか、帯刀さん家。でっけ――…」

 左右にのびた塀や、塀の向こうにのぞく建物の屋根をあおぐ。

玄関、どこ? え、二つあんの?」

 母屋の玄関と、道場の玄関。
 どちらも南向きに設けられていたが、距離が二十メートルほどある。

「こっちが母屋かな?」

 少し緊張した面持ちで、良治はインターフォンを押した。
 ピンポーン。
 しばらく待ったが、返事がない。
 もう一度、フォンを押してみた。だがやはり、反応がない。

「おかしいなぁ」

 良治は、道場の門へ歩いていった。
 【帯刀剣術道場】と大きな看板と、観音開きの木戸がある。
 よく見ると木戸が少し開いていた。

「不用心だなぁ。あのぉ、すみませーん

 良治はすきまから、道場へ顔を出す。
 奥へのびた敷石の先、道場の玄関と靴箱が見えた。

「だれもいないのかな。どうしよう、これ」

 メモを添えて、お土産だけ置いていこうか。
 だがこの夏の暑さで、飴が溶けやしないかと、良治は考える。

 その時だった。
 屋敷の中から、大きな破裂音が聞こえ、敷地中に響きわたる。
 音は立て続けに何度も重なる。

「なんの音だ、いったい…?」

 ただごとではないと感じた良治は、中へ入る。
 音が聞こえるのは、道場ではなく母屋の方だ。
 風を通す為に開けられていた縁側から、良治は少し中をのぞいた。

 タッタッタッタッ…。

 廊下の奥から、足音が近づいてくる。
 廊下を曲がり、縁側に現れたのは顔面蒼白のマリーだった。

マリー!!
「良治さん!? どうしてここに…」
おまえに礼を…と思って」

 土産の紙袋を、マリーに見せる。

「さっきから、デケェ音が聞こえるけど、一体なにごと……うわっ!?」

 マリーが、良治へ飛び込んできたのだ。
 良治はマリーを受け止め、庭に尻餅をつく。

「い、いきなりなんだよ、マリー」

 バリン、と音がした。
 廊下の窓ガラスに丸穴が開き、ひびが入っている。

どこへ逃げたって無駄よ

 縁側から銃口を向ける、長袖の白シャツの女性。
 彼女の顔を見て良治は吃驚した。

「展示会の痴漢!? なんでここに!!

 マリーの描いた絵、そのままである。
 良治は口をぱくぱくさせ、マリーと痴漢犯へしきりに視線をやる。
 一方、痴漢犯は良治を見て、眉をひそめた。

「なんだ、あの時のガキか」

 忌々しそうに舌打ちし、視線をマリーへ移す。

「答えなさい、お嬢さん

 引き金に力をこめ、眦をつり上げる。

帯刀(たてわき) (さく)は、どこにいるの?

(くち)が裂けても言うもんですか

 マリーは「」と舌を出した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み