オデット・ノート (7)
文字数 1,592文字
とか思って岸に上がったらパパからメールが来てて、桟橋まで来てって言うからしょうがないからまた泳いでいったの。
そしたらティートがいたのね。
これちょっと伝わりにくいかもしれないけど、あたし本当にティートがいると思ったの。神さまが、本当にティートを人間の男の子にしてくれたんだって。彼の髪は正確には金髪じゃないけど、光の加減で金茶色に見えるときがあります。それに大きいでしょ、背が。あたしああいう大きくって、飛び乗っても大丈夫そうな人がタイプなの。もちろん、本気で人間と犬とまちがえたわけじゃないからね、念のため。だけど見た瞬間思ったの。これは——あたしのための人だって。神さまがあたしにくれたプレゼントだって。ああもう、あたしほんと失礼。あのときもそうとう失礼なこと言ったみたいだけど正直覚えてなくて、名前もろくに聞いてなくてうわのそらだったから。ただあたしもう数々失敗してきてるから、あのとき、ああこの人を——この人を——何があっても愛していけたら、きっとあたしは生まれてきてよかったって神さまに認めてもらえたことになる。なんかへん。ちがうかもしれない。この人を、逃しちゃだめ。これもちがうな。幸せにしたい。それもちょっとちがう。とにかく、あたしは嬉しくて泣きそうで、とっても幸せで、神さまに感謝してたのです。
ひとことで言うと、有頂天。
いつもあとになって思うのね。ああ、また、やっちゃった、って。
全部パパが悪い。事前のインフォなさすぎ。あたしほんと正真正銘、大ぼけの大まぬけ。本当に気がついてなかった、彼が誰か。
パパもしばらく笑ってて、それから不思議そうな顔になった。パパとしては特大のサプライズをしかけたつもりで、それが不発だったなんて信じられなかったわけ。当然よね。
「パパの言ってたひとの息子さんでしょ」
「まさか、ほんとにわかってないの? 誰か」
「誰って?」
「彼だよ」
「彼って?」
「動画、保存してるじゃない」
なんでそれ知ってるの。
ううん、それより、
どういうこと。
彼?