ひとつめ

文字数 503文字

彼女は、遥といった。
あの三人は特に友達ではないらしい。
「去年も同じ学校だっただけ。いつも鬱陶しい」
その程度の認識だそうだ。
「めんどくさい」
そう言って口を尖らせる。
拗ねた子猫みたいな彼女に私は聞いた。
「ね、あそこには居ないって事は、他には居るの?」
予想外の質問だったのか一瞬の間が開いてから、頷きが返る。
「へー。ねぇ、例えばどの辺」
単純に興味を隠せない私に、遥は階の違う踊り場の窓を指差した。
「あそこ」
視線を移したその瞬間、黒い影が窓の外を上から下へ通り過ぎ、最後に聞いた事の無い鈍い音がした。
「何か落ちた」
いや。
何か、ではなく、誰かか。
慌てて窓に駆け寄ろうとする私の制服の裾を遥が掴んだ。
「駄目だよ近寄っちゃ」
「え、でも」
じっとこちらを見たまま、首を横に振る。
「あれね、近寄っちゃ駄目なやつ」
窓を背にした私の後ろで再び鈍い音がする。
「毎日、ずっと落ちてるの」
音が、もう一度。
「窓辺に誰か居ないか探してるの」
反射的に振り返ったその瞬間、目の前を黒い影が通り過ぎる。
それは窓に向かい腕を伸ばし、瞼の無い大きな目で、忌々しげにこちらを睨みながら落ちていった。
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