(一)
文字数 496文字
金魚屋の男から逃げた翌日、晴れやかな空とは裏腹に秋葉の気持ちはどんよりと曇っていた。
「アキ、どうした。今日も具合悪いのか」
「ううん。ちょっと考え事」
無理すんなよ、と隆志は扇子でぱたぱたと扇いでくれた。
倒れることが多くなってから隆志は扇子を持ち歩くようになっている。友人の優しさに気持ちも浮上したその時、大学という学び舎には似つかわしくない女性の歓声が聴こえてきた。
歓声の方を向くと、そこには多くの女生徒を引き連れている男がいた。それは――
「やあやあ。学んでいるかい、アキちゃん」
「あなた、金魚屋の」
「何。名前で呼ぶほど仲良くなったの?」
「え、い、いや……」
今日も女性用の着物を羽織っている。これは祭りを賑やかすためではなく日常的に着ているのだろうか。
それにしても何故大学にいるのだろう。三十五歳なら大学生ではないはずだ。
それ以前に秋葉は大学がどこかなど教えてはいない。まさか金魚に後を付けさせたのだろうか。金魚を操ることなど考えたこともなかったが、それくらいやってのけそうな怪しさをこの男からは感じていた。
「……何故俺の大学がここだと?」
「だって君これ落としたからさあ」
「え?」
「アキ、どうした。今日も具合悪いのか」
「ううん。ちょっと考え事」
無理すんなよ、と隆志は扇子でぱたぱたと扇いでくれた。
倒れることが多くなってから隆志は扇子を持ち歩くようになっている。友人の優しさに気持ちも浮上したその時、大学という学び舎には似つかわしくない女性の歓声が聴こえてきた。
歓声の方を向くと、そこには多くの女生徒を引き連れている男がいた。それは――
「やあやあ。学んでいるかい、アキちゃん」
「あなた、金魚屋の」
「何。名前で呼ぶほど仲良くなったの?」
「え、い、いや……」
今日も女性用の着物を羽織っている。これは祭りを賑やかすためではなく日常的に着ているのだろうか。
それにしても何故大学にいるのだろう。三十五歳なら大学生ではないはずだ。
それ以前に秋葉は大学がどこかなど教えてはいない。まさか金魚に後を付けさせたのだろうか。金魚を操ることなど考えたこともなかったが、それくらいやってのけそうな怪しさをこの男からは感じていた。
「……何故俺の大学がここだと?」
「だって君これ落としたからさあ」
「え?」