第24話
文字数 1,238文字
竜の存在は騎士たちに知られてしまった。魔術師のような人もいた。女王も来ていた。だから、もしかしたら、もうすでに、自分の殺し方は知られているかもしれない。
もしそうなら、あとは遅いか早いか、誰から聞くか、その違いだけだ。
竜の子供は、口を開くのに、とても時間がかかったような気がした。
「今日、竜退治の、人達が来たんだ」
騎士という言葉を、すんでのところで言い換えた。従兄がその中にいたとオリヴィアが知れば、ショックを受けるかもしれないと思ったのだ。
『そんな…… 怪我は? 大丈夫なの?』
「うん。ありがとう、優しいオリヴィア。怪我はまったくないよ。あの人達では僕を殺すことも、傷つけることもできないから。それに、いまは洞窟に戻ってるから、あの人達は追いかけてこれないしね」
『そう、よかった…… 退治の人達が来て、恐ろしくて泣いていたの?』
「……そうだよ」
フィンレイは初めて、オリヴィアに嘘をついた。いや、嘘というほどの嘘ではない。恐ろしかったことも事実だ。ただ、泣いていた理由とは少し違うだけ。
『その人達は、また来るかしら。どうしましょう、もしあなたが大怪我をしたり、その、もっとひどいことになってしまったら、私…… ごめんなさい、貴方の方が怖いのに、私ばっかりこんなことを言って』
「気にしないで、オリヴィア。心配してくれて、とても嬉しい。それに、本当に大丈夫だよ。あの人達は、僕を殺すために必要なものを持っていないから。
この国ではね、嫌いだったり憎かったりする相手を、殺せないようになってるんだ」
『……どういうこと?』
「愛がないと殺せない。好きな相手しか傷つけられない。この国はずっとずっと昔から、そんな仕組みなんだ。どうしてかは、僕は知らないけど……
だからね、僕のこと退治しようと思ってる、そうとしか思ってない人達じゃ、僕には傷一つつけられないんだよ」
あるいは女王ならば、なぜこの国がそんな仕組みになってしまったのかを知っているかもしれない。けれどフィンレイにとって、そのことは重要ではなかった。重要なのは、いまからではこの仕組みを変えられないこと。そして、この条件に当てはまる存在が、ふたつの世界にたったひとりだけいるということだった。
『よくわからない仕組みだけど…… じゃあ、大丈夫なのね? その人達が何回来ても、フィンレイは絶対に怪我をしたりしないのね?』
「うん、大丈夫。あの人達では絶対に、僕は殺せない」
騎士たちは、竜を敵としか考えていない。
女王は、竜を哀れみこそすれ慈しんではいない。
『ああ、よかった。あなたが無事なら、それでいいわ。本当に、よかった』
少女だけが、竜を殺すことができる。
悲しくてたまらなくて、涙がこぼれる。泣いている声が彼女に聞こえませんようにと祈った。そうして結局、一番大切な、竜の呪いの話をできないままで、その日は終わってしまった。
フィンレイは自分の臆病さがますます嫌いになった。
もしそうなら、あとは遅いか早いか、誰から聞くか、その違いだけだ。
竜の子供は、口を開くのに、とても時間がかかったような気がした。
「今日、竜退治の、人達が来たんだ」
騎士という言葉を、すんでのところで言い換えた。従兄がその中にいたとオリヴィアが知れば、ショックを受けるかもしれないと思ったのだ。
『そんな…… 怪我は? 大丈夫なの?』
「うん。ありがとう、優しいオリヴィア。怪我はまったくないよ。あの人達では僕を殺すことも、傷つけることもできないから。それに、いまは洞窟に戻ってるから、あの人達は追いかけてこれないしね」
『そう、よかった…… 退治の人達が来て、恐ろしくて泣いていたの?』
「……そうだよ」
フィンレイは初めて、オリヴィアに嘘をついた。いや、嘘というほどの嘘ではない。恐ろしかったことも事実だ。ただ、泣いていた理由とは少し違うだけ。
『その人達は、また来るかしら。どうしましょう、もしあなたが大怪我をしたり、その、もっとひどいことになってしまったら、私…… ごめんなさい、貴方の方が怖いのに、私ばっかりこんなことを言って』
「気にしないで、オリヴィア。心配してくれて、とても嬉しい。それに、本当に大丈夫だよ。あの人達は、僕を殺すために必要なものを持っていないから。
この国ではね、嫌いだったり憎かったりする相手を、殺せないようになってるんだ」
『……どういうこと?』
「愛がないと殺せない。好きな相手しか傷つけられない。この国はずっとずっと昔から、そんな仕組みなんだ。どうしてかは、僕は知らないけど……
だからね、僕のこと退治しようと思ってる、そうとしか思ってない人達じゃ、僕には傷一つつけられないんだよ」
あるいは女王ならば、なぜこの国がそんな仕組みになってしまったのかを知っているかもしれない。けれどフィンレイにとって、そのことは重要ではなかった。重要なのは、いまからではこの仕組みを変えられないこと。そして、この条件に当てはまる存在が、ふたつの世界にたったひとりだけいるということだった。
『よくわからない仕組みだけど…… じゃあ、大丈夫なのね? その人達が何回来ても、フィンレイは絶対に怪我をしたりしないのね?』
「うん、大丈夫。あの人達では絶対に、僕は殺せない」
騎士たちは、竜を敵としか考えていない。
女王は、竜を哀れみこそすれ慈しんではいない。
『ああ、よかった。あなたが無事なら、それでいいわ。本当に、よかった』
少女だけが、竜を殺すことができる。
悲しくてたまらなくて、涙がこぼれる。泣いている声が彼女に聞こえませんようにと祈った。そうして結局、一番大切な、竜の呪いの話をできないままで、その日は終わってしまった。
フィンレイは自分の臆病さがますます嫌いになった。