第19話 ターリー特定作業、開始

文字数 2,480文字

 ドリワンのスタッフをしていたことから、ターリーがサークルの会員であることはほぼ確実となった。次にターリーの特定に取り掛かる。これは、後で復讐する際の脅しに使えるためだ。

 いつもの通りSNSのアカウント特定から始める。「ターリー」でユーザー名検索したところ、Twitterのアカウントはすぐに見つけることができた。しかし、残念ながらツイートの内容はほぼスマホゲームの連動ツイートであり、唯一錦糸町駅の画像が上がっている以外はめぼしい情報がなかった。ターリーは亀戸に住んでいると言っていたため、アカウント自体は本人のものだと思われただけに残念である。

 次にFacebookのアカウントを特定するため、市村のフレンド一覧をしらみつぶしに見ていく。勉強会の打ち上げで市村とはFacebookのフレンドになっていた。同じ団体に所属していることから、ターリーと市村はフレンドの可能性が高い。「ターリー」というニックネームから、田○とか○足といった名字の人物はいないかと探したものの、そのような人物は見当たらなかった。

 TwitterもFacebookも収穫なし。この時点でほぼ一週間ほど費やしており、特定作業に手詰まり感が出てきていた。何か他に手がかりはないか……。そう思った済は再びターリーに関する記憶を洗った。すると、ターリーと会話した「無仁会」に思い至った。周囲から洗うと何か出てくるかもしれないと思い、市村から飛んできた案内メッセージを引っ張り出す。

 「★☆★2月無仁会★☆★
 日時:2/9(土)19:00-21:00
 会費:3,500円
 形式:立食、料理、飲み放題
 お店:プロント秋葉原店
 スケジュール:
 18:45/ 入店開始
 19:00/ 連絡事項など説明(司会)
 19:03/ 乾杯(こしじさん)
 19:05/ スタート
 20:00/ 誕生日企画
 20:55/ 終了&挨拶(司会、こしじさん)
 21:00/ 退店開始

 以上です(≧∇≦)」

 案内メッセージを読んでいた目が、「こしじさん」というニックネームの場所で止まった。無仁会の途中で、市村から「僕の師匠なんですよ。」と紹介されたのを思い出したのだ。こしじは四十歳手前に見える男性で、草野球をしているらしく日に焼けていた。人当たりの良さそうな顔で落ち着いた雰囲気があり、初対面でも安心感を与えるタイプだ。簡単な挨拶程度にしか話をしていないが、元々システムエンジニアをやっており、二十代後半で脱サラしたため、済の参考になるかもしれないと言っていた。その時はあまり気に留めなかったが、今思えば新橋のユウスケによく似た経歴である。サークルの仕組みが分かった今では「師匠」という言葉と、紹介してきた行為が全く違う意味に取れる。当時はまだ済を勧誘のカモとして見ており、恐らく日報で情報が上がっていただろう。ターリーの調査に疲れていたこともあり、まずはこの人物から調べてみることにした。

 「こしじ ニューステージ ドリームランド」、「こしじ 起業家集団 サークル」といったキーワードで検索してみると、本名と思われる情報が見つかった。ドリームランドの脱会者達が書き込んでいる掲示板にニックネームと本名の対応表が載っており、その中にこしじの名前もあったのだ。本名として記載されていた名前は「越島隆弘」。名前と全く関係のないニックネームを付けている人物も多い中、名字を元にした分かりやすいものだった。その表に記載されていたのはサークルの中でもダウンを沢山抱える大物らしく、越島隆弘も上のほうのポジションにいると考えられた。

 掲示板に書かれていた人物がこしじと同一人物かどうか確認するため、「越島隆弘」で検索する。するとあっさりInstagramが見つかり、アイコンが本人画像になっていた。彼ほどのポジションになると素性をあまり隠さないのか、あるいは単に脇が甘いだけなのか。アイコンに写っていた人物は、間違いなくあの日紹介された男だった。

 さらに、情報収集用のTwitterアカウントで情報を探してみたところ、あるアカウントが「秋葉原にあるこのカレー屋はドリームランドのこしじさんのお店です!」とツイートしているのが見つかった。この店の名前は「ストーンオーブン AKIHABARA」。この名前で検索したところ、Facebookにページが存在していることが分かった。更新は止まっているが、アップロードされていた写真は残っている。その中に、開店パーティーの写真があった。一枚ずつ確認していくと、終わりのほうの一枚に目が止まる。それはパーティー終わりの集合写真だった。一番後ろでピースしているのは……紛れもなくこしじその人だ。さらに前列に座っている女性にも見覚えがある。しばらく記憶を辿っていて思い出した。オタク飲み会常連の音ゲー好き女性で、何度か話したことがある。彼女もグルだったのだろう。

 本名が分かってしまえば他の特定も早い。すぐにFacebookのアカウントも探り当て、フレンドリストをチェックする。リストは千人分近くあるため流し見に近い感覚でリストを洗っていたところ、見覚えのある顔があった。彼の名前は「佐々木 洋一」。オタク飲み会を主催していたサスケだった。経歴を見てみると、大学卒業後、大手システム開発企業に就職、その後大手コスプレイベント運営企業に転職していた。オタク飲み会で話していた経歴はどうやら本当のようだ。ところが、その後何の仕事をしているかは記載されておらず、また投稿も二年前で止まっていた。これまでの経験から、二年ほど前にサークルに入会したものと考えられる。サークルではネット上の悪評を会員に見せないため、ネットの利用を制限していた。このあたりもカルト宗教のやり方に近いものがある。

 残念ながら越島隆弘のフレンドリストにもターリーは見当たらなかったものの、徐々に本人に近づいていることを感じながら、済はさらに調査を続けた。
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登場人物紹介

青山済 東西大学出身、大日本データ勤務のSE。マルチ商法信者にFacebookで絡まれるが、黎明期のインターネットで培った特定スキルと祭りスキルで相手を再起不能にする。ところが、それをきっかけに現在進行系で危険な団体と絡んでいることを知ることになる。

吉井大介 東西大学出身、帝国化学勤務の研究者。済とは学生時代の同期であると共に、インターネット黎明期に特定祭りに参加していた「特定班」だった。マルチ商法女再起不能作戦に協力したり、危ない団体にスパイとして潜り込んだりと、様々な面でサポートしてくれる存在。大阪で二人の同期、山崎が新興宗教にハマっていることを知るが...。元ラグビー部の動けるぽっちゃり。


杉永陽子 東西大学出身、毎朝テレビの記者。済とは学生時代、一緒に政治活動をやっていた仲。両親共に共産党員で、子供の頃からデモに行っていたバリバリの左翼サラブレッド。済のマルチもどき団体吊し上げ会に参加するが、これをきっかけに妹が怪しい自己啓発セミナーにハマっているのではないかと疑う。

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