3日目

文字数 569文字

僕はまた同じ願いを口にして、その通りに叶えてもらった。まどろむ僕の横で、息も上げず汗ひとつ流さぬ綺麗な顔で彼は言った。

「人のカラダは単純だね。こうも簡単に感じられるのかい」

それは暗に僕が未熟だと言いたいのだろうか。少しだけ、気持ちを言葉にしたくなった。

「せめて敏感と言ってもらえますか」

「へえ。キミは、触覚には敏感なのに、己の命には感度零なんだね。どうして?」

「その感度を高めることに、興味がないからです」

「この世に人として生まれた以上、それが一番大事な感度だと思っていたよ。キミはそれを否定するんだね」

「大事だと思っていた時期もありました。でも、もうそれは、意味を成さないんです。命に、自分に向き合ったところで、そこには何もないことがわかりましたから。なのでこうして触覚が残っているだけで、十分です」



過去の僕は、最善を求めて周りを想い、周りに尽くし、自分を殺した。結果、自分という存在そして僕という価値は、風化してどこでもないどこかに消えた。そしてもう周りは、僕に何も求めない。

この国の人々は、無償の愛という色香を纏った極限の自己犠牲を演じている。それを唯一絶対のあるべき姿と盲信して。



全身に残る甘い快楽を味わいながら睡眠欲に身を任せる。これでいい。これがいい。愛などなくても、このカラダは感じてくれる。僕はもう、愛を感じる感度はゼロ。
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