Episode04: 夢ニ想フ

文字数 661文字

「アニキ! イイもの盗ってきた!」

 満面の笑みを浮かべるは武東慎司(むとうしんじ)――俺の弟だ。
 俺は何も答えず、頭を撫でてやる。

 あの頃は充実していた。
 やっていたことは人の道を外していたかもしれない。だが、下層(あそこ)には家族の温かさが確かに存在した。

「兄さん、私も」

 妹の結良(ゆら)が持ってきたのは、何枚かのコインだった。
 結良には追いはぎなんて所業はできないので、下層の隅々を回って猫糞(ネコババ)させていたのだ。

「よくやった」

 これで今日もメシが食える(・・・・・・・・・・・・)

 メシが食えなくなった時、人間は終わる。
 おとなしく死ぬか――もしくは抗って誰かを犠牲にするしかなくなる。

 その頃の俺は、誰も殺さずにメシが食えるのなら、それでいいのだと思っていた。
 義父(オヤジ)が、俺だけを(・・・・)を拾うまで……。

 下層――当時はまだ第二十五層まで存在した下層区域の底辺層、第二十二層。
 今も昔も変わらない――変わらないことでしか生きられない者たちの区画。
 俺は、こうして生きていたのだ。俺が拾われて、そして弟妹(あいつら)を見捨てるまで――。




*   *   *



夢から醒める。
酷く喪失感を覚えた。

「…………」

在りし日の記憶。
最近、また(・・)夢に見る頻度が増えてきた気がする。
第二十二層が水没すると聞いた日から――。


今日もクロノスへ行かなければならない。
気怠い体に鞭打って適当な朝食をとると、俺は家を出た。
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