第19話 最後の審判

文字数 1,150文字

 奇しくも、全てのタイミングが悪かった。
 
 豊穣神は怒りに呑まれ、植物の声が耳に入らなかった。
 創造神は約束に縛られ、違和感を覚えながらも見過ごした。
 そして狩猟神は取り乱し、冷静さを失っていた。
 
 創世神の三人が、いるべき場所にいなかった。クロノスの城に、街にいなかった。
 
 三人がいたのは森の中――豊穣神は戦神を目指して、創造神は豊穣神を追って、狩猟神は逃げる足に任して、その場にいた。
 
 結果、気付くのが致命的に遅れてしまった。
 いや、場所が悪かっただけではない。
 それも原因の一つではあるが、全てではなかった。
 
 現に、創造神はいち早くその気配を察した。近くにいた戦神や鍛冶神よりも先に、対の力に反応を示していた。
 ただ、航海神が窮地に陥ってしまったので、駆け付けることも喚起を告げることもできなかった。豊穣神も同じだ。
 
 それにより、二柱に遅れを取ったはずの狩猟神が、戦場に一番乗りとなった。
 
 果たして、戦況はというと――上空から見下す限り、猖獗(しょうけつ)を極めていた。
 
 防衛線を食い破られたのか、皇子たちの陣容は内部から蹂躙され、全滅状態。指揮系統も絶たれたのか、混乱の真っただ中に幾つもの部隊が取り残されている。
 どれほど数で勝っていようとも、集団で戦うことができなければ軍勢は弱い。また、軍勢は一度瓦解してしまうと、集団としての弱さに呑まれてしまう。
 
 最早、これまで……壊滅は免れない。
 誰もがそう思った時、奇跡が起こった。
 
 ――絶唱。
 
 完璧に合わさった兵たちの歌声が、凄愴たる戦場の隅々まで網羅してく。励ますように優しく、鼓舞するように力強く聖歌は響き渡り、混乱した軍勢を導いていった。
 全滅の憂き目に遭っていた兵たちが、たちまち息を吹き返し、戦場の至る所で鬨の声が上がる。
 
 その中心には、二人の英雄の姿があった。
 
 それでも、旗色を翻すには至らない。戦神と鍛冶神の両雄が並び立ってなお、防戦一方。態勢を立て直すのがやっとで、戦況は変わらない。
 
 何故なら、そこには一柱の神がいた。
 全てを壊す破壊の神が、皇帝の陣営に立っていた。
 
 彼は一人で軍勢を生み出し、支配する。動物を、昆虫を、草花を、大地を魔物に変えて、次々と戦場へと投下していく。
 
 神がいる限り、人に勝機はない。
 
 運よく逃れることはできても、勝つことはできやしない。
 非情で残酷。
 間違いなく、虐殺と呼ばれる所業であろう――人が、行ったのであれば。
 
 されど、これは神の御業。
 虐殺などという、野蛮な言葉で片付けられるものではない。
 
 神が執行する以上、これは――
 
 そう、これは――審判なのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

戦神の成聖者、リルトリア(16歳)。ミセク帝国の皇子だが、継承権は下位。


聖寵:戦場の声を聴く(身の危険を察する)

聖別:対象は武具。使用者に重さを感じさせなくする

聖奠:王権。兵たちを意識レベルから支配し、操る


創世神の1柱でもある狩猟神の成聖者、クローネス(17歳)。ファルスウッド王国の王女。


聖寵:動物の声を聴く

聖別:対象は動物。文字通り、使役する

聖奠:投擲。あらゆるモノを〝矢〟として放つ狩猟神の〝弓〟を召喚

鍛冶神の成聖者、レイド(26歳)。身分違いの恋から逃げるよう放浪中。


聖寵:鉄の声を聴く(金属強度・疲労を理解)

聖別:対象は鉄。形を自在に変える

聖奠:鍛冶場の形成。金属を切り裂く武器を生み出す

この世界の最高神でもある創造神の成聖者、シャルル(11歳)。仲間たちと破壊神の行方を追っている。


聖寵:大地の声を聴く

聖別:対象は大地。文字通り、自在に操る

聖奠:天地創造。あらゆるモノを凌駕する創造神の゛手〟を召喚

創世神1柱でもある豊穣神の成聖者、シア(22歳)。同じく、破壊神の行方を追っている。


聖寵:植物の声を聴く

聖別:対象は植物。文字通り、使役する

聖奠:水源。水を生み出す、豊穣神の〝甕〟を召喚


航海神の成聖者、ペルイ(30歳)。破壊神の行方を追う、2人の保護者。


聖寵:潮読み。波風の声を聴く

聖別:対象は船。波風を軽減する

聖奠:嵐を呼ぶ(制御はできない)

医神の成聖者、エディン(28歳)。新大陸を目指して、海上を旅している。


聖寵:往診。身体の状態を聴く

聖別:対象は医療器具。消毒、清潔に保つ

聖奠:治癒

慈愛神の成聖者、テスティア(18歳)。その力を失い、現在はただの人として働いている。


聖寵:愛の程度を聴く(他者がどれだけ神に愛されているか――その力の多寡、気配を察する)

聖別:対象は神に愛された人。神の力――聖寵、聖別、聖奠を増幅させる

聖奠:結界。愛情の深さに応じた防御壁の形成

正義神の成聖者、ジェイル(16歳)。先の戦いで謎の死を遂げている


聖寵:神託。神の声を聴く

聖別:対象は人と物。穢れを払い、加護を与える

聖奠:神の裁き。自らの行い、立場が善であればあるほど力を増す

この世界の最高神でもある、破壊神の成聖者。名前も年齢も不明。先の戦いで唯一生き延びた邪神の1柱。


聖寵:壊れる声を聴く

聖別:対象はあらゆるモノ。異形の魔物へと変える。もしくは灰燼と帰す

聖奠:あらゆるモノを打ち砕く破壊神の〝鎚〟を召喚

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み