第18話 弓月の存在

エピソード文字数 1,084文字

「電話、誰からだったんですか?」
不思議そうな顔で弓月が、こちらを見つめてくる。
「うちの社長。名取をここに呼んでくれたのは社長だったんだよ」
「それで今までの事、今後の事を色々話してたんだ」
「そうだったんですね。
 内容はよく分からないですが、綾瀬さんが私の事を考えて
 くださっているのはよく分かりました」
嬉しそうに微笑む弓月を見ると、俺の心が洗われていく。
「いつのまにか、弓月の存在が大きくなってきているんだろうな」
「私の存在ですか?」

頭にクエスチョンマークを浮かべる弓月に、俺は慌てて独り言だと訂正するが、

たぶん俺の顔は真っ赤になっているに違いない。

『ただいまにゃー』
「お、ルキアお帰り。ちゃんと白猫を送り届けてきたか?」
『もちろんにゃ。僕はやるべき事はしっかりやる猫にゃよ?』
「そうだな。今回は色々ルキアにお世話になったし、後で魚屋に買い物に行こう」
「ルキア君は本当に良い子だね、ありがとう」

弓月がルキアをそっと抱き上げると、

ルキアはふにゃっと蕩けるように身を委ねた。

「それで社長が何かプレゼントがあるとか言っていたから机を確認してみよう」

弓月を二人並んで机に近づくと、そこには青のリボンのついた鍵と

赤のリボンのついた鍵が置かれていた。

「この部屋の鍵だろうけど……同棲じゃないんだから」
「同棲ってなんですか?」
『同棲とはにゃ……』
「弓月君はまだ知らなくてもいいのです!」

そう弓月は急がなくてもいい。

ゆっくりと色々知って行ってくれればいいのだから。

「それじゃ赤のリボンの方を弓月に渡しておくな。
 俺がバイトの時もあるだろうし、うちに来たくなったら勝手に上がっててくれ」
赤いリボンの鍵を弓月に手渡す。
「ありがとうございます。私大事にします」

嬉しそうに顔を寄せてくる弓月に俺も嬉しくなるが……

いや、顔が近い近い!


そんなこんなで、弓月葵との出会いの物語もこれでおしまい。


まだまだ前途多難。


恋?の方は……まあゆっくり行けばいいさ。

「メールが来たみたいだな。笠原さんか?」

スマホを取り出してメールを確認すると、「無事女の子が生まれた!」と記載されていた。

「弓月。サングラスの男の人、女の子が生まれたって!」
「女の子ですか。お父さんに似た心優しい子に育つのでしょうね。
 私も嬉しいです」
『笠原の兄貴もパパさんになったんにゃね!』

自分の事のように喜び、微笑む弓月。


この先どんな出来事が待ちうけているか分からないが、

この笑顔が絶えないよう隣で見守り続けたい。


そして弓月には、桔梗の花にこめられた想いを胸に歩んで行って欲しい。


そんな事を思いながら、俺は弓月の手を優しく握りしめるのだった。

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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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