【西方怪談3】 ✿ からくりの名匠

文字数 1,489文字

家臣・黒木の言う「例の件」とは。


数日前、忠平はお殿様に、こう訊ねられたのであった。

忠平、そちはからくり和錠には通じておるかの?

恐れながら、わたくしは和錠職人大工の技に通じた忍びではございません。


それらの技については、古今東西の見聞を蓄積した程度にございます

左様か。実はの、忠平。


かねてより、新たに【蔵】をつくりたいと願っておったのじゃ

実は火事で、蔵にしまっておった書物や、いくつかの宝物が燃えてしもうてな。

なるほど、火事で蔵が。

それは一刻も早く、新しい蔵を建てなければなりませんね

名家なので、多くの宝があってな。


火事の前にも、曲者が殿の屋敷に忍び込み、蔵が何度も破られたのじゃ。

そうでしたか

忠平が屋敷に逃げこんだ時、それがしがおぬしを怪しんだのはそのような経緯もあってのことだった。


あの時は、大変すまぬことをした

とんでもございません。私こそ殿の屋敷とは知らずに、失礼を致しました。


兎も角、二度と破られぬ耐火性に優れた蔵を求められているのですね

うむ。なんとか便宜を図れぬかのう

(お殿様が、それほどまでに大事にしている宝とは一体。


 おそらく家宝だろう。守るための蔵が燃えては、宝は裸同然。


 これはなんとしても、殿のお役に立ちたい!! されど)

『からくり』について心得はあるが、職人の技に通じた忍びではない。

付け焼き刃で職人技を身につけ、見聞きしたからくりを作るにも年月を要します。


他家と同じからくりでは、お殿様の大事な宝を守ることにはなりません。

はっ!! 殿、おりました!


その道に通じた忍び大工です。あの男なら役に立ちます。


同じからくりは二度つけぬことを心得とした忍びの者でございます

ほう! して、その忍び大工はどこに?

江戸でございます。


今、江戸には多くの大工が集まっておりまする。

その中でも、選りすぐりの名匠でございます。

江戸の名匠とな。それは期待できそうじゃ。その匠を連れて参ることはできるだろうか
できまする。私と彼は旧い付き合い故。江戸に参り、話をすれば…

忠平は急に口をつぐんだ。

(それがしは「加藤清正 暗殺」の濡れ衣をかけられた忍びだ…)

道中無事でいられるだろうか。

どこの里から参ったか探られてお殿様に迷惑がかからないだろうか。

殿。恐れながら、忠平はしばらく里に身を隠した方がよいかと。


肥後での一件がありますゆえ、他藩への出入りを控えた方が…。

忠平の身の安全を考えればのう。なにもそう急ぐものではない。無理をさせるわけにはいかぬ。

殿、黒木様。お心遣い、かたじけのうございます。

それから数日後。


忍塾にやってきた黒木は、人のいないところで忠平に話し始めた。

忠平。例の「大工」だがな、それがしが江戸へ参り、話をしようと思うのじゃ
黒木様が!!

これから殿のところへ参り、了承を得次第、発つつもりだ。


して、その噂の忍び大工、名をなんと申すのじゃ?

はい。名は

西米良コラム


嘉永元年(1848年)12月6日。


城内で火事があり、38代当主・栄叙は「重宝なるものを忘れた」とはしごをかけあがった。


家臣・甲斐権右衛門も殿に従い、主従は「」を見つけたが逃げ道はなく、窓から飛び下りたものの二人は大火傷で亡くなった。


しかし「門外不出の重宝物」は焼却を免れた、とある。


  ❀  ❀  ❀


本エピソード発想の基となった「史実」です。


しかしながら、この【昔話】は、1612頃、大阪冬の陣が起こる2年前と時代を定めております。


  ❀  ❀  ❀


38代当主・栄叙がみまかられたあと、跡を継いだのが…↓

参考文献

 「菊池氏を中心とせる米良氏」中武安正著/昭和4年11月

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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