オールシーズン秋の空 ~last winter~

文字数 1,967文字



 洗濯物を干そうと外へと出ると、またしても発見してしまった……。
 
 洗濯竿の足元にあるコンクリートから、根性で生えたたんぽぽの、綿毛タイプがいたのだ。
 こんな寒い時期にも、たんぽぽは子孫繁栄を目論んでいるらしい。
 たんぽぽとは、大抵春に咲く雑草の花だ。
 雑草の花だからか、とても根性がある。
 わざわざコンクリートの隙間を狙って、もしくはコンクリートを突き破って存在を主張し、黄色い可憐な花を咲かせては、人々に勇気と感動を与えるのだ。
 それはやがて白い綿毛となり、新たな分身を残そうと、風に吹かれるのを待つ。
 それから風に吹かれてハゲ頭となり、分身の種に夢と希望を抱きながら、ひっそりと枯れていくのだ。
 それはとても美しい一生だと、半年前は思っていた。
 
 そして時が経ち、夏から冬になった今。
 ハゲ頭になって萎れている茎の横に、新たな綿毛タイプが生えているのを発見し、私は、ヒィーッ! と声にならない声を上げた。
 
 黄色い花 → 綿毛 → 飛ぶ → ハゲ頭。
 
 という工程でたんぽぽの一生は一旦終わるはずだ。なのに、私はここ最近その綿毛の前工程である黄色い花を見た記憶が無い。
 ある日突然ヤツは、洗濯物を干す私を下から見上げていたのだ。目が合いドキリとさせられた。

『おはよう。かなさん。覚えてるわよね? ワタシよ。綿毛。また来ちゃった。うふふふふ……』

 私には、たんぽぽの綿毛タイプがそう言っているように思えた。
 普通たんぽぽの綿毛は春に見るもの。
 それがなぜだか半年前の夏にもみられ、季節外れのたんぽぽだと感動させられた。
 それから半年後の寒くなった冬の今、まだ季節外れのたんぽぽは季節を越えに越え、現在進行形のままなのだ。なぜだ!?

 これはある意味ホラーだと思った。

 工程① の花の時期を飛ばして、工程② の綿毛タイプがそこにある。そんな状況を幾度となく目にすると、さすがにこの種が恐ろしく感じてしまったのだ。
 しかも今はとても寒い時期だ。
 こんな時期にたんぽぽが有るのも奇妙だ。
 もしやこのたんぽぽは、子孫繁栄に特化した、四季なんて関係ないオールシーズンで咲き続ける突然変異のたんぽぽなのかもしれない。とにかく種を増やしたいという、繁栄に対して強き念を持つ種だ。
 花を咲かせる面倒な時期はすっ飛ばし、さっさと綿毛になり種を飛ばしたい。とにかく自由に飛ばしまくる事しか考えていないのだ。
 飛ばして沢山の仲間を増やす。更に増えた仲間たちはブワーと綿毛を飛ばしまくる。そしてまた増えたそれらが、ブワーと……。その繰り返しだ。

『ひゃひゃひゃひゃ~、ワタシたちの仲間がたっくさん!! これからもっともっと季節感無く増やすわよ~!! ヒャッハ~!!』

 とはしゃぎながら、膨大に仲間を増やしていくのだと妄想した。

 オールシーズンで綿毛を生み出すたんぽぽは、繁栄に特化した強いたんぽぽだ。きっと綿毛の八割は何処かの土地で根付くのだろう。
 そんな妄想に妄想を重ねたら、私は、たんぽぽが不気味で怖い植物としか思えなくなってしまったのだ。
 
 洗濯物を干しながら綿毛を見下ろした。
 いっぽん……、にほん……、さんぼん……と、その傍らにはハゲ頭となって萎れた茎達が横たわっている。
 ハゲて萎れたら、その隣から新たな綿毛が召喚される事を何度か私は見てきた。恐るべし強固な株だ。
 まさかコイツは、私の住む町を種で溢れさせ乗っ取るつもりなのだろうか……。
 コイツには、そう恐れさせる底なしの勢いがある。
 私のような強い人間をこんなにもびびらせるとは、このたんぽぽは相当な株だ。脅威でしかない。
 今の私は、以前抱いていたたんぽぽのイメージとは真逆な思考へと変化してしまったようだ。
 コンクリートから頑張って生えるたんぽぽが健気で美しいと感じていた私だが、今、この植物に対し以前のように『たんぽぽ』という可愛い名前では呼べなくなったのだ。
 可能な限り文字の全てに濁点を着けたくなるほどに嫌悪している。
 
 ダンボボ!! だ。 
 
 私の心は昔から、オールシーズンでコロコロと変わってしまうのだ。
 変わってしまっても私は、過去の私の思考に引っ張られることも、黒い思考に変化した自分を責めることも無い。時が流れる限り、心の移り変わりはあって当然のものだからだ。
 
 春になって一斉にダンボボが黄色い花を咲かせた時、私の心に根付いたホラーイメージのダンボボは健気で可愛いたんぽぽへとイメージチェンジできるのだろうか……。

 未来の私の気分なんて、その時にならないと分からない。考えるだけ無駄だった。
 
 ダンボボのワダゲ!!
 
 今はそう呼びたい気分。太めの声で。
 これから先、その呼び名が変化するのかは謎だ。
 今は、このダンボボへの気持ちを綿毛のように軽く受け止めておくことにした。




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