第11話

文字数 1,282文字

 私の住む宮崎市には一九四〇年頃に作られた八紘一宇の塔がある。別名「平和の塔」なのだが、正面に八紘一宇と書かれてあるので平和目的で作られなかった事は間違いはない。

 諸説はあるものの、どう考えても世界征服を目論んでいた頃の日本の象徴的な塔であり、土台となる石も中国やアジアの侵略した国から削って持って来た物だ。人の念や暗い時代背景は滲み出るもので、小学生の時、遠足で初めて行った時も「気味の悪い塔」と思った事を覚えている。平和を謳うにはあまりにも不気味で、石に刻まれている文字にも不吉さを感じた。
 しかし黒歴史ともいわれるあの時代の産物が忠実に残っているってのは日本中探しても珍しい。戦後に悉くその手の建造物は破壊されたからだ。辺境の地だった宮崎だからこそ残ったとも思える。

 実際、終戦後GHQに占領された時には破壊を恐れ、八紘一宇の看板の石は宮崎神宮に隠したらしい。その後、元のままの姿に戻されたのは一九六五年になってからだ。ちなみに昭和天皇が来た時には塔の上で記念撮影をして一周させようとしたらしいのだが、嫌だと断られた。そりゃそうだろう、大日本帝国憲法で記載されている通り「国の総指導者、決済者」である。うまく戦犯で殺されずに済んだのに塔の前に立って記念撮影もないだろう。要は全て知っていたという事である。

 中には石膏に彫られた絵なども残っており、戦前、日本人は元々西洋文化が好きだったんだろうって事も見て取れる。土台となった石は万里の長城から削り出した物もあり、当時、前線部隊では占領した土地の石を送る事が手柄であったらしく瞬く間に集まったらしいが。

 あまり語られないエピソードとして、あまり客も来ない塔でもあり三六〜七メートルも高さがあるので一時期はロッククライミングの練習場になっていた。ちなみに塔前の駐車場と少し下った所に大駐車場があるので、今でも営業マンの昼寝の聖地でもある。皆、塔には興味はないのだが昼寝には最高の環境が揃っている。
 
 最近、理研のスパコンが世界一になったって報道があって、中国人が「日本人は核開発でもするつもりじゃないか? 」と言っていたらしい。多分、中国人には「日本人は優秀で凶暴」というイメージが若い世代にもあるようだ。話をすると三井や三菱っていった昔の軍事企業の話も出てくる。その根底の基本がこの八紘一宇の塔ではないかと私は思う。日本はあのナポレオンもヒトラーも落とせなかったロシア(ソビエト)に勝った国でもある。中国人が恐れるのも分かる気がする。日本の歴史報道についてはいい加減なもので、私が八〇年代初頭に聞いた話で元日本軍の軍部にいたという老人は「あの頃は楽しかったな。毎晩、銀座で飲んでたぜ」なんて言っていた。決して日本人全部が極貧状態で爪の先に火を灯すように暮らしていた訳ではないのだ。
 
 韓国人のようにひれ伏してきた中国王朝の遺跡を屈辱の碑とするのもどうかとは思うが、明らかに加害者側の塔である八紘一宇の塔。今度、日本に永くいる在日中国人でも誘って見に行こうかとも思う。何て言うだろ? 。
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