とんで跳んで飛んで

文字数 2,352文字

1.

拝啓。
愛するお父さん、お母さん。
先立つ不孝をお許しください。
まさかこんなことになるとは考えたこともなく。

・・・思い起こせば、俺が命とか死ぬとかを身近に感じたのは小2のころでしたか・・・
隣の席のみよちゃんに『え、ジュン君とかないんですけど。』と公開処刑された時も死にたくなったし、中二の時、自作の魔道書を拾われて掲示板に貼られたときもリアル死にたくなりましたっけ。

・・・けれども、俺が本当に死んだ、を体験したのは高三のクリスマスで。
道歩くカップルの群れにいたたまれなくなり、ふらっと入った教会の礼拝で、でした。
あの時、俺は、正に己の小ささ、リア充ども死ねやぁああああああ!という己の心の狭さ、己の愛のなさに気が付いたのです・・・
そしてこんな俺を愛してくれたキリストの愛に。
自己に死に、神の愛に生まれた瞬間だったのです。

その場でキリスト教を信じ、洗礼を受けたい!
そして将来はこの道に進みたいーできれば宣教師とか!

と、張り切って伝えた俺に、親父、あなたは初めて激昂しましたね。
「墓はどうするんだ、墓は!家は仏教だろうが!」
「お父さん、私の家系は神道ですよ、前からその件についてはお話ししないといけないと思っていました。」
「母さん、そんなこといってる場合か!ジュンが、バテレンになると言ってるんだぞ!」
「親父、バテレンとか時代劇かよ!クリスチャンって言うんだよ!」
「クリスちゃんになるなんてとにかく許さんぞ!」
「お父さん、クリスちゃんだと違う意味になるような・・・そういえば、あなた、昔そういう名前の彼女がいましたわねぇぇぇええ!」
「母さん、いちいちまぜっかえさんでくれぇええええ!」

・・・あのときは阿鼻叫喚でしたね。

あの日から、親父は俺によそよそしく接するようになったし、お袋は他の見聞も広げてから決めなさい、と俺をあちこちの神社や仏閣に連れていったけど。
それでも、俺が神学校に行く、と進路を決めたときには諦めもついたのか一切、口を挟まなくなりましたね。
賛成してくれたわけではなかったけど、夜中まで何度も夫婦で話し合って、最後には好きなようにさせてやろう、という結論を出してくれたようで。

二人が許してくれなければ、二度と会わない覚悟で家を出て、神学校の寮に入るつもりだったから、言えなかったけど、とても嬉しかった。

俺の人生はもうキリストのものだけど、いつか、親父とお袋にも、この福音が伝わることを願っています・・・!

と、歩みだした俺の人生、念願の神学校に入学して数か月。

まさか、こんなことが。

トラックがつっこんできて、うん、ああいう時って痛いというか、ドッカン!と体に衝撃がきて、そのままブラックアウトするものなんだね。

そう、だから、拝啓?敬具?
お父さん、お母さん、先立つ不孝を・・・どうか・・・お許し・・・くだ・・・
がくっっつ。














2.

・・・目が覚めると、そこは待ち望んだ神の大庭・・・
ではなく、なんか。

石畳の上に自分は倒れていた。
え?天国、石畳? ってか、固いな?

体をおこすと、どこも怪我はなく。
周りを見渡すと、・・・井戸?
そして、日本じゃないカンジの建物がたくさん・・・
どっかでみたぞ、この景色・・・

この、中世風というかドラクエ的というか、最近やたらと書店の小説コーナーにあったりアニメで見た感じの雰囲気の・・・

そもそも、俺、あんとき、死んだよね?
天使のお迎えは?よく聞く天国の門的なものは???

と。
背後から、超かわいい声がした。
「まぁああああ!とうとう、『来た人』を発見しましたわぁあぁ!」
そして、後ろから勢いよく抱きつかれた。
「ようこそ、わたくしどもの国へ!
ええと、ここはあなたがたの世界の言葉で、『イ世界』で、私はこちらに『来た人』に仕えるために代々召された巫女の家系のものですっ!」
「へ?」
「もう、ずっと、ずっと、お会いできる日を待ち焦がれておりました!」
「へ?」
ビビりながら握られた手を放して、その巫女?という彼女をまじまじと見る。
クリーム色の髪の毛を両側にゆるく巻いていて、服装はピラピラの白いブラウスに赤いスカート、ブーツと恰好がもう、まさに異世界風なカンジで。
・・・ええ?
「もぉーう、お姉ちゃん、少しは落ち着かないと、この人かなりびっくりしてるから。」
そういって建物も陰からもう一人、現れた。
・・・妹さん?目の前の人物と似た容姿の小さい子で、違うのはスカートの色と髪の色で
どちらも青色だった。
・・・ええ?
なんか、魔法使いがもつみたいな杖もってるし。

「・・・すていたす・おーぷん・・・」
ぼそっとつぶやいてみたが、何も表示されなかった。
・・・不便な世界だな。

けれど、これはもしかしてもしかして、アレだろうか。
一時期やたらと流行った異世界ものというか、あのトラックに違う世界にはじき飛ばされるという使い古された設定な気がするアレかしら。

「ささ、ぜひ、わたくしどもの家にお越しくださいませっ!心をこめて、お世話させていただきますから!」
「え?え?」
ぐいぐいと赤いスカートの彼女に腕を引っ張られる。
「諦めて。お姉ちゃん、ずっと遭遇したがっていたし。もう舞い上がってるから。」
青いスカートの子に諭され、とりあえずついていくことにした。

どうやら、歓迎?されているようだし、ここが本当に異世界ならまずはラッキーなスタートだと思うことにして。

あと、俺が不安なことは一つだけ。

・・・そもそも、聖書に異世界って載ってましたっけ?
ここは聖書の世界観でいうとどこなんだろう・・・。
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