第2話 妹たちの戦い

文字数 2,050文字

……

 桜とエレナは公園で待っていた。

 その入り口で、同じ制服を着た少女が長い髪を揺らしている。

えもー! こっち
エレナ

逃げずによく来たな。

さぁ、そっちにお座り

……あんた、なんのつもり?

 何故か、桜はシーソーに座っていた。

 しかも、エレナが動画モードのスマホを構える。

あんたのほうが重いって証拠を収めてやろうと思って
馬鹿じゃないの? 座るわけないじゃないっ
ちぇー。やっぱ引っかかんないか

えっ? 桜ちゃん本気だったの? 

私はてっきり、場を和ます冗談かと思ってたんだけど

なんで和ます必要があるの? 

わたしはこの尻乳女に、調子に乗るなと言いたいだけなんだよ?

鶏ガラになっても煩いわね、この鳥は
なによおっ!
言い返されただけなのに、普通に怒るところが桜ちゃんだよね
 どう考えても、桜のほうが悪かった。

とにかく! 

もうわたしのお兄ちゃんなんだから、遠慮してくんない?

本当に鳥頭なのね。あんたの馬鹿げた行いの所為で、お兄ちゃんがどれだけ傷ついたかわかってないの?
(高校生なのにどっちもブラコンだなぁ。そんなんだから彼氏ができないんだよ)
 二人は頭に血がのぼっているのか、エレナは堂々とその様子を動画に撮ることができていた。
お菓子に釣られてお兄ちゃんを孤立させたんでしょ? 馬鹿じゃない。だから、私が唯一の家族として支えてあげてるの

お菓子って言ってもマカロンだよ? それも高い奴だったんだから。それにあれはお兄ちゃんの策略だもん。わたしは騙された被害者だよ。

当時、幼気であ~んなに可愛かったわたしの気持ちを弄ぶなんて!

エルメのマカロンは一個三百円以上するもんね
そうそう
はっ! 馬鹿さここに極まれり、ね。まだ幼かった私たちと違って、当時のお兄ちゃんは多感な時期だったのよ。両親が離婚して新しい家族と同居なんて、辛かったに決まってるじゃない
それがそれが。面倒だったとは言ってたけど、辛かったとは一言も
確かに、お兄ちゃんは一人になれる環境を求めてたのかもしれない。でも、あの時一人にさせるべきじゃなかった。おかげでお兄ちゃん、人付き合いが上手くいっていないのか友達もいないんだよ
いやいや、あれは単に人嫌いなだけ
あんたに妹の資格はない。兄を支える気もなく、ただシチュエーションに酔っているだけ。まさかとは思うけど、あわよくばとか狙ってない? 安っぽい物語みたいな
はー? なに、決めつけてんの? もしかして、自分が禁断の恋とかに酔っちゃってるんじゃないですかぁ?

誰が! 私はこのままお兄ちゃんが一人ぼっちにならないか心配なだけよ。ただでさえ、ママの所為で女性不信になっている可能性もあるんだから!

んー、その割には随分と手馴れてたかな

本当ですかー? 

夜な夜な不埒な妄想に溺れて、自分を慰めてるんじゃないんですかぁ?

ななっ、なに言ってんのあんた? 頭腐ってんじゃない‽
じゃぁ、その乳は自分で育てたんじゃなくて男に育てて貰ったのか?
失礼ね! まだ誰にも触らせたこと――って揉むなっ!
揉んで貰っても、そこまでは大きくならないけどね

 理性的な言い合いではえもに分があったものの、感情的な悪口合戦では桜が上だった。

 しかし揃って、エレナの失言の数々に気づいていない模様。

とにかくっ! 私はあんたを許さない! 

特にその馬鹿さ加減は万死に値する! 死んで反省なさい!

わたしだって、許さないもん! あんたお尻が胸にいっているからか、随分軽くなってない? 今はわたしのお兄ちゃんなんだから、分際を弁えなさいよ!
なによこの鶏ガラ鳥頭!
うっさい尻軽尻乳女!

 互いに言い放ち、背を向ける――ふんっ、と。

 そうして、劇の一幕のように黙り込んだ。

終わったの? じゃぁ、私はデートがあるから行くね
 一部始終を動画に収めていたエレナは楽しそうな足取りで去って行った。
……思ったんだけど
 残された二人の内、えもが漏らす。
さっきエレナ、ちょいちょい変なこと言ってなかった?
知らなーい。なんか、お兄ちゃんに対して馴れ馴れしい気はしたけどさ

それよ。

私はエレナにお兄ちゃんを紹介したことないんだけど?

わたしもないよ
じゃぁ、お兄ちゃんのこと話したりは?

少しはするけど……あれ? 

そいや、なんでエレナはわたしが貰ったマカロンがエルメのって知ってたんだろう?

……
……
 これまで散々罵り合っていた二人は仲良く黙り込み、同時に顔を見合わせた。
――まさか!
――まさか!
 そして互いに悟ったのか、初めて友人を口汚く罵る。
――あの女!
――あの女!

 ここにきて、まさかの以心伝心。

 いや、そもそも五十歩百歩、どんぐりの背比べだった二人なればこそ――

――泥棒猫だったとは!
――泥棒猫だったとは!

 見事にハモるだけでなく、動きまで揃えて走り去る。

 おそろしいことにフォームまで一致しており――

 

 その光景をもし、少女たちの大好きなお兄ちゃんが見たらこう言い放つに違いない。

 ――まるで人体模型と骨格標本が仲良く走っているようだ、と。
あいつだけは絶対に許せない――!
あいつだけは絶対に許せない――!
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登場人物紹介

メロスの如く激怒している義妹、桜。

高校生で発育不良。たぶん馬鹿。

蔑称は鶏ガラ鳥頭。

幼い頃、お菓子に釣られて義兄に悪戯されたと嘘を吐いた経験あり。

義憤に燃えている妹、えも。

高校生で発育良好。たぶん良いコ。

蔑称は尻軽尻乳女。

桜の所為で兄が孤立したと思い、それを許せないでいる。

共通の友人、エレナ。

高校生で彼氏持ち。たぶん性悪。

デートを控えていながらも二人を引き合わせ、その現場に立ち会う。

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