第24話 子どもは偉大
文字数 1,193文字
家に帰ると明美がいた。
明美は明美のままだった。
明美はネット配信の恋愛ドキュメンタリーを真剣に見ていた。
「いやー、思っていた以上によかった」
明美は未だに大学生と間違えられるくらいの童顔だが、少しおじさん臭い話し方をするところがあった。
正人が明美を見ると、正人が答える前に明美が口を開いた。
「ほら、この前、話してたやつ」
正人は何について話しているかすぐにわかった。
それを察したのか、明美は話しを進める。
「今まで他人の恋愛なんて見て何が楽しいんだって、見る前からバカにしてたんだけど、間違ってた」
そう明美は話すと、「いやー面白い」と何度も繰り返すのだった。
「そういえばあれどうだった?」
正人が「よかった」と話すと、明美は「やっぱり正人はあれだと思った。私は、あっちの方が好きなんだけどね」と答える。
明美はあれやこれと具体的な呼称を使わず話してくる。
でも不思議と正人には何が言いたいか分かってしまうのだった。
明美と正人がいる時、明美がしゃべり、正人は必要以上しゃべらない。
それが明美にとって普通だし、正人にとって普通だった。
そういう意味では、明美はいつも通り、だった。
でも正人は違った。
正人は急に聞いてみたくなった。
「明美は子ども欲しくないの?」
正人はドキュメンタリーを見る明美の背中を見ていた。
「そんなに急いでないよ」
明美の背中は答えた。
「親ってすごいね」
明美は言う。
その一言で優和と会ったのだと思った。
正人はその優和と先ほど会ってきたばかりだ。
そのことに気づいて話しているのだろうか。
正人は、別に隠しているわけではないけど、わざわざ話したいとも思わなかった。
正人はいつもなら分かる明美の言葉が分からなかった。
「親の背中を見て子どもが育つっていうけれど、みんながみんな親だからってそんな立派じゃないような気がするんだよね」
明美はゆっくり言葉を選びながら、少し言い直したいとでもいうかのように続けた。
「私は親だって子どもの背中を見て、一緒に育てられていけばいいと思う」
正人は勇を思い出していた。
相当傷つけてしまっただろう。
正人は勇を傷つけてしまった後、勇の顔が見られなかった。
ただ怖かったのだ。
正人は勇をどんな顔してみればいいか分からなかった。
勇が最後まで正人を見ないでいてくれたことに正直感謝していた。
勇が帰る時、正人は勇の背中は見た。
勇は正人にひどい言葉を浴びせるわけでもなく、ただ正人を受け入れていた。
その背中が見えなくなるまで、じっと見つめていた。
一度も勇は振り返らなかった。
ただずっと前を前を見続けていた。
その勇の背中に、最後には正人が励まされているのだった。
「子どもは偉大だよ」
正人は明美の言葉に付け加えた。
明美は明美のままだった。
明美はネット配信の恋愛ドキュメンタリーを真剣に見ていた。
「いやー、思っていた以上によかった」
明美は未だに大学生と間違えられるくらいの童顔だが、少しおじさん臭い話し方をするところがあった。
正人が明美を見ると、正人が答える前に明美が口を開いた。
「ほら、この前、話してたやつ」
正人は何について話しているかすぐにわかった。
それを察したのか、明美は話しを進める。
「今まで他人の恋愛なんて見て何が楽しいんだって、見る前からバカにしてたんだけど、間違ってた」
そう明美は話すと、「いやー面白い」と何度も繰り返すのだった。
「そういえばあれどうだった?」
正人が「よかった」と話すと、明美は「やっぱり正人はあれだと思った。私は、あっちの方が好きなんだけどね」と答える。
明美はあれやこれと具体的な呼称を使わず話してくる。
でも不思議と正人には何が言いたいか分かってしまうのだった。
明美と正人がいる時、明美がしゃべり、正人は必要以上しゃべらない。
それが明美にとって普通だし、正人にとって普通だった。
そういう意味では、明美はいつも通り、だった。
でも正人は違った。
正人は急に聞いてみたくなった。
「明美は子ども欲しくないの?」
正人はドキュメンタリーを見る明美の背中を見ていた。
「そんなに急いでないよ」
明美の背中は答えた。
「親ってすごいね」
明美は言う。
その一言で優和と会ったのだと思った。
正人はその優和と先ほど会ってきたばかりだ。
そのことに気づいて話しているのだろうか。
正人は、別に隠しているわけではないけど、わざわざ話したいとも思わなかった。
正人はいつもなら分かる明美の言葉が分からなかった。
「親の背中を見て子どもが育つっていうけれど、みんながみんな親だからってそんな立派じゃないような気がするんだよね」
明美はゆっくり言葉を選びながら、少し言い直したいとでもいうかのように続けた。
「私は親だって子どもの背中を見て、一緒に育てられていけばいいと思う」
正人は勇を思い出していた。
相当傷つけてしまっただろう。
正人は勇を傷つけてしまった後、勇の顔が見られなかった。
ただ怖かったのだ。
正人は勇をどんな顔してみればいいか分からなかった。
勇が最後まで正人を見ないでいてくれたことに正直感謝していた。
勇が帰る時、正人は勇の背中は見た。
勇は正人にひどい言葉を浴びせるわけでもなく、ただ正人を受け入れていた。
その背中が見えなくなるまで、じっと見つめていた。
一度も勇は振り返らなかった。
ただずっと前を前を見続けていた。
その勇の背中に、最後には正人が励まされているのだった。
「子どもは偉大だよ」
正人は明美の言葉に付け加えた。