第6話 「鍵なく打ち入る文字は逃がさない」

文字数 2,212文字

部屋には小林とiPad

向き合うには

椅子に正座くらいが丁度よい


小林の指圧を感知したキーボードが

iPadにセキュリティロック画面を表示させる


顔認証システムは小林を登録ユーザーではないとパスコードを求めるが

当の本人はおかまいなし

パス入力を閉じるように画面をスワイプさせ

メモ帳アプリのショートカットを表示させた

白紙のページから

メモをとるのに鍵はいらない


そして小林は

キーボードに向かって口遊(くちずさ)

なあなあオマエさん


ハッキングされちまったんだって?

唄の伴奏でも弾くかのように

語りに合わせてタイプする


小林には手広なキーボードの凸面(とつめん)

柔らかな指が縦横無尽に(へこ)ましていく


鳴りから耳を塞ぐように潜る光たち

この赤緑青の三原色に別された極小にして無数の点が織り模す白地に

ブラインドされた線が駆ける

よかったな、ハッキング


いいな〜、ハッキング

オメエとしちゃあ…

こんな使われ方

不本意かもしんねえけんどよ…

なんでこんな改造されちまったのか…よくわかんねえ小林がいうのもなんだとは思うんだけどな…
ちょっと(うらや)ましいんだぜ
ホントだって…


小林が()いちゃうくらいなんだぞ

先輩がな

ハッキングって言うのは

特別なことなんだ!

本来はクラッキング…?

というのが正しいそうなんだ


でもオマエさんにはハッキングと言った__

なぜだかわかるか?

それはだな

むかしむかしのある日…

さかのぼることの、ある日……

ある日ったら


ある日だッ!

先輩がクラッキングしているとき


小林はたずねた

「今日はいつにも増してニヤついてるっすね、なにがそんなに楽しいんすか?」

…と


したら先輩は__

「オレのために使いやすいよう変わっていくのがたまらん」

小林は

その意気込みにハッとして言ってやった

「ファックみたいっすね!」

すると先輩は少し考え込むようにして…

「……いいな、それ」

って、なんかウケてた!


ッな!ウケるだろ!

なんだかよくわかんねえけどさ

それからなんだぜ

ハッキングという言葉を使うようになったのは

先輩がさっきみたいな顔を向けたヤツにだけ…

…オメエの事だよキーボード

なぁ

クラックファック

どこか似てると思わねえ?

……ぬぁにを〜ッ

じゃ、これならどうだ?

♪Fuckin-Crackin♪

♪Crackin-Fuckin♪

♪Fuckin+Crackin=Hacking♪

♪ハッピンドゥ!

んなあ?


もうわかったな!

そうだよ

そうだよ

ソースだよ!

あ。


コレ新しい

じゃなくてッ


なんと、なああんと!

先輩にとってのハッキング

クラックファックの合体言葉だったのだ!

どうだ!
……


どういう意味だ?

__と

とにかく…


かくにもだ

先輩の特別に


小林ファックが入ったんだ…

捻じ込んでやった

言葉って


どういう字を書くかわかるか?

いいか?

こう書くんだぞお


“言“に”葉“と書いて


コトバなんだ

”葉“って字な


上にかむってるチョンチョンあるだろ

アレ“草かんむり”って言うんだぞ

は文字通り説明いらねーな

なんつーんだろうな…


コイツ…

…そして


そしてだ

“葉”の真ん中にあるのが“世”だ


世界の”世“

そこから伸びるのが


草と木なんだ……

それがどうしたって?

さてはおめえバカだな!

草木といったら


小林っきゃないだろう?

木木(きぎ)なら林だが


草木なら小林だッ

あっ

小林いまスゲーこと言った?

ウッケる〜♪

いいか!

このウケ具合が俗に言う草生えるってヤツだ

……じゃあ


木い生えるってなんだ?

…とにかく

小林ったら

小林だ

センパイ世界に

小林が入植誤植で植林だ!

満ちる広がる小林言葉!

……これで


先輩と一緒なんだ

隣に居られなくても


小林の響きで包めるんだ……

……感じるだろ?


生きてるって__

だからオマエは


小林にとっても特別なんだぞ

なにが特別だって?
っわ“!

咄嗟に仰け反る小林十本指

驚いている場合でないと

直ちに証拠隠滅へと動き出す


指達は沿った勢いをバネに

重力加速度を超えて堕ちる

研がれた爪の矛先は

【command】

【A】

【×】(別名BackSpace) のキー三点


同時に着弾し

これまでの独り言タイプ全文が選択され


そして削えた

どうした小林

うんん!


なんでも__

そう言いながら

トップボタンを押し

全ての光点を根こそぎ消し去る


黒紙に戻したガラス板が露わにするのは

バツの悪い己が顔と

鏡越しから視線を合わすように微笑する男とのツーショット

 

反射防止コーティングで写る光の98.2%が遮られても

認識(わか)る距離だった


丸見えである


直視に耐えかねた視線だけでも

ガラス板の外へ逃す

・・・ 
今にも吹き出しそうな男の息が

小林の髪を(くすぐ)

なーにやってたんだ?
うんんんn


なにんもー

なに俺のiPad使ってんだ?

小林にあげたのがあんだろ

……ダメなんだ


コイツじゃないとダメな__

__
なしっ


今の無し!

どれどれ…

フェイスIDが主人を認証し開錠する

最小限のアイコンで構成されたホーム画面が表示される

 

メモ…だったよな

メモ帳アプリが再起動される

タイトル不在の新規タイトルが開かれていた

(大丈夫……本文は残っていない…)
ホットしたのも束の間

アプリ閉じた後でも


こうするとだな__

【command】&【Z】キーが押されると

跡形も無く消し去ったはずの全文が復活した


一瞬の出来事に

小林背筋が凍りつく

効くんだな〜


やりなおし♪

・・・

マズイ


これは非常にマズイ状況だと

小林子顔がみるみるうちに赤味を帯びていく

 
 

小林思う


穴があったら落としたいって


この事だったんだと

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登場人物紹介

見た目は子供

中身はシュウトメ


ハタチ独身クソ美ッチ!


晩年片想いのあの人に…

ついつい意地ワルを説戒♪

特に思い入れ無い

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