第20話 即妙(2)

文字数 1,299文字

夜が明けて、ロレンツォとナバイアが泊まるソルの朝。
狭いテーブルで食べるのは、ウッドストックが運んできたトルタ・サンドイッチである。
二人は、軽いパン生地をホット・コーヒーで流し込みながら、事件を整理した。そして今はロレンツォの時間。
「家の外の子供の世界は、事実を認めないことを無視すれば分かり易い。ディアス先生曰く、彼女は普通の女の子だ。友人関係も別に悪くない。子供関係の線はない。」
彼女とはエラ。小さく笑ったナバイアが続く。
「ブルズ・アイ。用水路はクリアだったが、先住民居留地は広い。こっちは、ネルソン団長にお任せでいい。」
ナバイアがサンドイッチを口に運ぶと、ロレンツォが後を受けた。
「彼女の場合、分かり易い問題は家の中。ミスターだ。ただ、あの壊れ方が臭い。やっておいての自己肯定で頭がまとまらない線も、最悪、なくはない。ただ、まずは彼の周りだ。」
ナバイアは、口の中のサンドイッチを急いで飲み込んだ。
「ブルズ・アイ。でも、シャビーには無理だろう。あいつがイヌをさらえたら、二十ドル払う。」
ロレンツォは小さく笑うと言葉を続けた。
「ブルズ・アイ。ただ、共犯なら、ありえる。ライト・ハウスの常連には怪しい奴が多い。」ロレンツォが真似たのは、同じフレーズの繰返しが気になったからに違いない。笑顔で頷いたナバイアは、自分達を遠くで見ているウッドストックを見つけると、手で追い払いながら、口を開いた。
「人殺しのアンヘリートは関係なさそうだったけどな。」
頷いたのはロレンツォ。
「まあ、個人的に一番不気味なのはミセスだ。何より、あのミスターと結婚する時点でどうかしてる。」
互いを人差し指で差し合った後、二人はコーヒーを口に含んだ。マディソン犯人説は、冗談として消えたのである。
サンドイッチに手を伸ばしたナバイアが、口を開いた。
「もっと大きい視点で物事を考えるとだ。敬愛するグッゲンハイム市長も言ってた通り、先住民居留地とクロノス事件が、この町の問題だ。」
ナバイアが本当に市長にかぶれているかは怪しいが、ロレンツォは小さく頷いた。
「先住民はほぼ君に限った問題だから我慢すればいいとして、クロノス事件はスノーフレークだ。」
地味にアイデンティティを傷つけられたナバイアの言葉は誠実になれない。
「クロノスのことは、ハンクに任せればいいんじゃないか。」
それはロレンツォの本音でもある。二人は、改めて、互いを人差し指で差し合った。
ロレンツォは、カップの中で揺れるコーヒーを、少しだけ眺めてから口を開いた。
「まあ、あとは若い奴らに任せて…。」
「だから、俺達だろう。」
ナバイアが言葉を重ねると二人は小さく笑ったが、不謹慎な言葉を口にしたロレンツォが、後を続けた。
「冗談だ。彼女はいつ事件に巻込まれてもおかしくなかった。問題山積の町だ。」
ナバイアがサンドイッチを手にしたまま頷くと、ロレンツォは言葉を続けた。
「彼女が出てくるまで、偉大なヘンリーのレポートでも読むか。州警察のもあるだろう。」
「出てくるまでか…。」
くすんだ天井を見上げて呟いたナバイアは、ゆっくりとサンドイッチを口に運びながら言葉を続けた。
「生きてるか、死んでるか。」
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