質問は以上だ。
文字数 1,931文字
6
しゅるっぽん、という心地よい受信音と共にスマートフォンにメッセージが届いた。
『お前、今日桜木町にいるんだよな?』
メールの送り主は、同級生の森巣 だった。学校一の美女が小此木さんだとすれば、学校一の美男子は彼だろう。
森巣は人前では外見を利用し、好青年ぶっている癖に本当の彼は腹黒く、計算高い奴だ。小此木さんと森巣は幼馴染のようで、裏表があることは知っているし、そんな彼に一目置いているようだった。頭が切れるという意味では、小此木さんをしのぐだろう。彼には計り知れない明晰な頭脳があり、いくつか彼とトラブルや事件を解決したことがある。
封筒の中身が百万円だったとわかった瞬間、森巣に相談するか? と脳裏によぎった。が、しなかった。その理由は、彼が快く相談に乗ってくれる気がしなかったことと、百万円を掠め取られるのではないか? と思ったからだ。森巣は事件を解決することもあるが、正義のためにやっているわけではない。
小此木さんに、「森巣から、桜木町にいるのかってメッセージが来ました」と伝える。
「わたしもいるよ」
『いるよ。小此木さんも一緒』と、メッセージに返信する。
『これから馬車道に行って、人に会ってきてくれ。電車が遅れてるみたいだが、歩いていける距離だ』
『悪いけど、僕も今大変なんだ。事件に巻き込まれていて』
スマートフォンの画面を小此木さんに向け、「お遣いをさせられそうです」とこぼす。
「どうする? 良ちゃんに答え合わせしてもらう?」
全然揃わないと思っていたルービックキューブを取り上げられ、ガチャガチャっと弄んで「ほらよ」と返される予感を覚える。だけど、時限式で相手を殺すトリックなんて、僕がいくらここで頭を抱えても思いつける気がしない。
「でも、森巣が素直に相談に乗ってくれますかね」
「そこは、そのお遣いに行く代わりに、こっちの相談にも乗ってほしいって言えばいんじゃないかな」
果たしてやってくれるだろうか、と案じながら、画面を指でなぞり、文字を入力する。
『こっちの事件を解決してくれたら、そのお遣いに行くけど、どうだい?』
どうでしょうね、とスマートフォンを二人で覗いていたら、『話せよ』と短いメッセージが返ってきた。
ほっと胸を撫で下ろし、十三時に駅前に着いたこと、十五時から弾き語りをしたこと、百万円の入った封筒を受け取ったこと、その男が戻ってきてフラッシュソロをしたこと、遅れて小此木さんが来たこと、裸の王様が物騒な男たちに連れて行かれたこと、女子高生から名刺を受け取って何かを頼まれたこと、などを細かく入力し、メッセージを送信した。
「わたしたちの推理も送らないと」
「あっ、そうでした」と慌てて、文字を入力していると、森巣からメッセージが返ってきた。
『質問一、金を入れた男はモテそうだったか?』
小此木さんが、なにこの質問と眉根に皺を寄せた。「僕たちのことを、おちょくってるんですよ」
『真面目に相談してるんだ。ふざけないでくれ』
『真面目だ』
二人で顔を見合わせ、どうだったかと思い返す。
「わたしは、あんな感じしか見てないから、なんとも言えないんだけど、どうだった?」
「普通でしたよ。いや、太っていたしぶすっとした顔だったし、モテそうではないですけど」
『外見だけで、異性からモテるかを判断すると、モテるとは思えない』
こんな感じでいいだろうか、と画面を睨んでいると、すぐに次のメッセージが飛んできた。
『質問二、そいつを連れて行った男たちに、刺青はあったか?」
これは、刺青の種類でどこの組の奴らかを特定する、ということなのだろうか。小此木さんに、「覚えてますか?」と訪ねると、僕と同様のようで首をかしげるばかりだった。
「刺青あったっけ?」
「覚えてないですよね。あったような、なかったような」
『二人とも覚えてない』
『質問三、その辺に大道芸人はいるか?』
桜木町は野毛が近く、大道芸のイベントがよく開催されている。そうでなくても、休日は駅前や公園で大道芸をしている人をよく見る。
「一部始終を見ていた人がいるか、知りたいんじゃないかな? 大道芸人さんなら、駅前にずっといたと思ってるのかも」
質問の意図はわからないが、素直に『今は一人いるけど、僕が弾き語りをしているときにはいなかった。フラッシュソロは見ていたけど、一部始終を見ていたわけじゃないよ』と返信をする。
二人でスマートフォンを見つめ、さあ次はどんな質問が飛んでくるのだろうか、と固唾を飲んで待つ。
『質問は以上だ。なるほどな』
しゅるっぽん、という心地よい受信音と共にスマートフォンにメッセージが届いた。
『お前、今日桜木町にいるんだよな?』
メールの送り主は、同級生の
森巣は人前では外見を利用し、好青年ぶっている癖に本当の彼は腹黒く、計算高い奴だ。小此木さんと森巣は幼馴染のようで、裏表があることは知っているし、そんな彼に一目置いているようだった。頭が切れるという意味では、小此木さんをしのぐだろう。彼には計り知れない明晰な頭脳があり、いくつか彼とトラブルや事件を解決したことがある。
封筒の中身が百万円だったとわかった瞬間、森巣に相談するか? と脳裏によぎった。が、しなかった。その理由は、彼が快く相談に乗ってくれる気がしなかったことと、百万円を掠め取られるのではないか? と思ったからだ。森巣は事件を解決することもあるが、正義のためにやっているわけではない。
小此木さんに、「森巣から、桜木町にいるのかってメッセージが来ました」と伝える。
「わたしもいるよ」
『いるよ。小此木さんも一緒』と、メッセージに返信する。
『これから馬車道に行って、人に会ってきてくれ。電車が遅れてるみたいだが、歩いていける距離だ』
『悪いけど、僕も今大変なんだ。事件に巻き込まれていて』
スマートフォンの画面を小此木さんに向け、「お遣いをさせられそうです」とこぼす。
「どうする? 良ちゃんに答え合わせしてもらう?」
全然揃わないと思っていたルービックキューブを取り上げられ、ガチャガチャっと弄んで「ほらよ」と返される予感を覚える。だけど、時限式で相手を殺すトリックなんて、僕がいくらここで頭を抱えても思いつける気がしない。
「でも、森巣が素直に相談に乗ってくれますかね」
「そこは、そのお遣いに行く代わりに、こっちの相談にも乗ってほしいって言えばいんじゃないかな」
果たしてやってくれるだろうか、と案じながら、画面を指でなぞり、文字を入力する。
『こっちの事件を解決してくれたら、そのお遣いに行くけど、どうだい?』
どうでしょうね、とスマートフォンを二人で覗いていたら、『話せよ』と短いメッセージが返ってきた。
ほっと胸を撫で下ろし、十三時に駅前に着いたこと、十五時から弾き語りをしたこと、百万円の入った封筒を受け取ったこと、その男が戻ってきてフラッシュソロをしたこと、遅れて小此木さんが来たこと、裸の王様が物騒な男たちに連れて行かれたこと、女子高生から名刺を受け取って何かを頼まれたこと、などを細かく入力し、メッセージを送信した。
「わたしたちの推理も送らないと」
「あっ、そうでした」と慌てて、文字を入力していると、森巣からメッセージが返ってきた。
『質問一、金を入れた男はモテそうだったか?』
小此木さんが、なにこの質問と眉根に皺を寄せた。「僕たちのことを、おちょくってるんですよ」
『真面目に相談してるんだ。ふざけないでくれ』
『真面目だ』
二人で顔を見合わせ、どうだったかと思い返す。
「わたしは、あんな感じしか見てないから、なんとも言えないんだけど、どうだった?」
「普通でしたよ。いや、太っていたしぶすっとした顔だったし、モテそうではないですけど」
『外見だけで、異性からモテるかを判断すると、モテるとは思えない』
こんな感じでいいだろうか、と画面を睨んでいると、すぐに次のメッセージが飛んできた。
『質問二、そいつを連れて行った男たちに、刺青はあったか?」
これは、刺青の種類でどこの組の奴らかを特定する、ということなのだろうか。小此木さんに、「覚えてますか?」と訪ねると、僕と同様のようで首をかしげるばかりだった。
「刺青あったっけ?」
「覚えてないですよね。あったような、なかったような」
『二人とも覚えてない』
『質問三、その辺に大道芸人はいるか?』
桜木町は野毛が近く、大道芸のイベントがよく開催されている。そうでなくても、休日は駅前や公園で大道芸をしている人をよく見る。
「一部始終を見ていた人がいるか、知りたいんじゃないかな? 大道芸人さんなら、駅前にずっといたと思ってるのかも」
質問の意図はわからないが、素直に『今は一人いるけど、僕が弾き語りをしているときにはいなかった。フラッシュソロは見ていたけど、一部始終を見ていたわけじゃないよ』と返信をする。
二人でスマートフォンを見つめ、さあ次はどんな質問が飛んでくるのだろうか、と固唾を飲んで待つ。
『質問は以上だ。なるほどな』