謎じじぃ現る
文字数 4,092文字
私、サミィ。アメリカのJK、たぶん16歳。
浮気した彼氏と別れたお姉ちゃんを元気づけるため、幼なじみのシンディと三人でビーチにサマーヴァカンスに来たら、巨大な白いサメがサーファーを食べる瞬間を目撃。
警告したけど誰も信じてくれない。
(これがサメ映画だと私だけが知っている)
どうしよう。このままじゃサメに食べられちゃう!
あの手この手で死亡フラグを回避しても、回避しても、ビーチとビキニから逃れられない。
小手先のジャブじゃあダメなんだ、決定打を打たないと!
焦っていたらラッキー、お姉ちゃんの浮気性の元彼と掠奪愛したネックレスビキニチアリーダーと遭遇。
意味もなければ解決もしない口げんかを延々と続けて尺稼ぎをしてたんだけど……
(これがサメ映画だと私だけが知っている)
大好きなお姉ちゃんがいじめられて怒り心頭。
何も考えず流されてるだけのビキニ娘が、三人そろって口答えする番狂わせが発生。クズ男はゴミ箱に沈みキャットファイトぼっ発!
ああ、何てこと。
前世でためこんだサメ映画知識を駆使して、サメ映画のお約束を利用して生き延びようとしていた。なのに自分でお約束を破壊してしまった!
どうしよう、もう先の展開が読めない……。
自分で生存率、下げちゃった!
ただでさえ低いのに、もうどん底だぁあ!
※
「いっかーん! 海に入ってはいっかーん!」
その人は突然そこにいた。歩いてくる描写、前触れ、一切無し。1カットも無し。切り替わったらそこに居た。ものすごい唐突に、宙から湧いて出た。さすが、さすがのヒルイラム、またしてもつなぎとか整合性とか一切合切考慮無し!
「うえっ?」
「誰?」
激突直前のシンディとネックレスビキニチアリーダーの間に割って入ったその人は、もじゃもじゃの白い髪に白い髭のおじいさん。陽に焼けた赤らんだザラザラの肌、色あせた船員帽子、横縞のシャツ、どぎついオレンジのカッパを羽織ってる。季節性より『船乗り』ってキャラクター性を優先したコーディネイト。パイプはくわえてない。多分全年齢作品だから。(こう言う木彫りの人形、見たことある)
「海に入ってはいっかーん! サメがっ、ホワイトシャークが来るぞーっ」
「あっ」
思わず声が出た。
サメ映画のお約束、「何か過去のおぞましい秘密を知ってそうな謎の老船員」、略して謎おじぃキターっ!
「サメじゃあああ! サメが来るぞー」
くわっと目を見開いて、しゃがれた声をしぼりだす。まるで地の底から響くような不吉な声。
「いくら美しく飾り付けても無駄じゃ、無駄無駄無駄ぁッ! 我らが祖先が海底におしこめた、おぞましき秘密からは……誰も、誰も逃れられんのじゃーっ!」
あっ、やっぱり何か知ってるんだ。
「何この人キモい」
後ずさりするネックレスビキニチアリーダー。危ない、気持ちは何となくわかるけど、もうちょっとで波に足が触れる。触れたら一分で、ううん、カップルだから三十秒でサメが来る! ほら、何かサメが来そうなBGMが聞こえるし……ん、BGM?
そっか、一回めの不意打ちと違って、今度は観客もサメが来るって察してる。だからBGMつきなんだ。音でサメの存在を観客の中に植え付ける。上手い演出だな、さすがヒルイラム!
よく聞くと、音の合間に「シャーク、シャーク、シャーク……」と囁く声が入ってる。あどけない子供の声で、微妙に調子を外してるとこがさりげなく危機感をあおってくる。
って感心してる場合じゃないよぉ。映画が優れてるってことは、どんなに逃げまくってもスピーディな展開でサクサクと巧妙にサメの口の中に追い込まれるってことじゃん! ピンチだ。ピンチ倍増だ!
「いっかーん! 戻れ、戻れーっ」
知っている。この人はまちがいなくサメ真実を知っている。血相変えてネックレスビキニチアリーダーの手首をつかみ、波打ち際から引き戻した。
「あ」
BGMが、消えた。
不吉な「シャーク!」ウィスパーが、消えた。
今、この瞬間、命を救われたことをネックレスビキニチアリーダーは知らない。金切り声で怒鳴りつける。
「離せ、離せっつってんだよ、このクソじじいがぁっ!」
いかにも言いそうな台詞吐いた! って言うかチアリーダー、キャラ変わってない?
「その手を離したまえ!」
二股彼氏復活。
うーわー、最低。相手が弱いと強気に出るんだこの人。浮気男が謎おじぃの胸ぐらをひっつかんで、蹴りつけた。
「ごふっ!」
鳩尾に入った。手加減無しのヤクザキック! 下劣! 卑劣! お姉ちゃん別れて正解。
「あっ」
「ああっ」
一回、二回、三回めで蹴り飛ばす! おじいさん鼻血吹いてるよ、これ放送コード的にどうなの? 全年齢対象映画だよ?
蹴り飛ばされた謎おじぃは積みあげられたドリンクの空き瓶に盛大につっこんだ。派手な音をたててすっ飛ぶガラスビン、そしてたおれる謎おじぃ。
「大丈夫ですかっ」
とっさに駆け寄った。
「ふん、気分が悪いわ」
「行こうか、ハニー。気分直しにヨットでクルージングだ」
鼻で笑って去って行く二人。何か何かさりげなく死亡フラグが聞こえたけど今それどこじゃない。
「お怪我はありませんかっ」
膝をついて謎おじぃを助け起こす。
「お、おお、ありがとうお嬢さん……ううっ」
「あっ血が出てる!」
「大丈夫じゃ、これぐらいの鼻血、海の男は屁でもないわ! げぇっふ、ごふ、ぶふぅっ」
謎おじぃはハンカチを出して鼻血を拭ってる。その手から血がしたたって、地面に落ちる。
ぽたっ、ぽたっ、ぽたり。
白い砂に血の雫が三つ。(白雪姫かっ!)
「って、こっちは鼻血じゃないですーっ」
「Oh!」
お姉ちゃんとシンディが駆け寄ってくる。
「ちょっと待って」
シンディはぱきっとミネラルウォーターの封を切って(どっから出したの?)おじいさんの手のひらを洗った。
「傷そのものはきれいですね、ガラスで切ったかな」
「あの、これ」
お姉ちゃんがばんそうこうをさし出す。ウサギさんのついたピンク色の可愛いの(たぶん私のために持ち歩いてる)。すばやくむいて、傷が長いから三つ使って、おじいさんの手に貼った。けっこう傷大きいよこれ!
「おお、ありがとう、おじょうさん方。あんたたちは優しいのう」
おじいさんは、手を回して首にかけていたペンダントを外した。黒いワックスコードに水色のビーズと白いビーズ、青白い三角形の何かが編み込まれてる。ビーズと三角が触れ合って、カラカラカシャンと乾いた音がする。
「これを……お守りじゃ」
そうして私の手の中に。これってもしかしてハンドメイド? 音の割にずっしり重たいよ。けっこう年季が入ってるけど、ピカピカに磨かれてる。
「え、でもこんな大事そうなもの、頂く訳には」
「それは、おじょうちゃんが持つのにふさわしい」
おじいさん、じっと見てる。さっきまでとはけたちがいの目力を感じる。声も厳かで深みがある。逆らってはいけない。そんな気がした。
「はい、ありがとうございます」
素直に受け取る。
「これは、あなたに」
「あ、はい」
「これは、あなたに」
「ありがとう」
気がつけばお姉ちゃんとシンディにも一つずつ。合計三つのペンダントを渡すと、おじいさんは低い声でもう一度
「海に近づいてはいけないよ」
つぶやくと、去って行ゆく。岬の方へ。
「あ、あの!」
すぐに人ごみに紛れて見えなくなった。
影も形も見えない。
カットが切り替わるともういない。あの人は映画の登場人物だもの、フィルムのすき間に消えてしまったらお手上げ。
手の中には、三角のペンダント。まるで『老いたる船乗り』に会ったと言う、記憶そのものが渡したような遭遇と退場。
「そうだ、ペンダント」
改めて手にとって、しみじみ観察する。光沢のある青白い三角。ワックスコードが固定された根元の部分は三日月型にくぼんでいる。象牙……じゃあない。この形、どっかで見た。絶対見てる。確かに見てる。それもごく最近。縁に指をはわせる。ぞくっと背筋に悪寒が走り、肌にさぶいぼが浮いた。さぶいぼは嘘をつかない。まちがいない、これはっ!
「サメの歯だ」
「本物っぽいね」
「聞いたことあるよ。サメの歯はサメと戦った勇者の証、だからお守りになるんだって」
「あの人、いつも持ち歩いてるのかな」
「丁寧な細工だね」
「ハンドメイド作家さんかも?」
三人で手を開く。微妙にビーズの配色や、サメの歯の大きさと色がちがうけど、デザインは同じ。作風が同じ。
うなずいて、首にかけた。胸元でゆれるサメの歯三つ。
「おそろいだね」
「うん」
胸の奥がくすぐったい。
てれくさい、うれしい、やっぱりうれしい。
ざざーっと波の音。ミャア、ミャアとウミネコの声。
そうだ、ここはまだ墓場 ! 危険は去ってない、むしろこれから来る。尺稼ぎの『特に意味のない言い争い』のシーンが終わっちゃったから!
「どうする? あいつらと同じ海に入るの、何だか気が進まないなぁ」
「……そうね」
はっ、これは、チャンスですよ! 風向きが変わってる。いい方向に吹いてる!
ぐっとサメの歯のペンダントを握る。何となくあったかい。勇気づけられる。私のしてることは、正しいって。
「お姉ちゃん! シンディ! 海に出るの、今日はやめとかない?」
「Oh……」
よし、二人ともこっち見てる。すかさず続ける。
「年長者の言葉には、必ず蓄積された知恵のうらづけがあります!」
そう、少なくともあの人は知っている。ここには白いサメが出るって。
「どっか、別のとこ行かない?」
「あ……うん、サミィが言うなら」
「そうね、それじゃあ……」
ぐるっと見回す視線の先を、タイミングよくラッピングバスが通り過ぎる。
『クリスタルレイクビーチ記念館、本日リニューアルオープン!』
「あれ!」
浮気した彼氏と別れたお姉ちゃんを元気づけるため、幼なじみのシンディと三人でビーチにサマーヴァカンスに来たら、巨大な白いサメがサーファーを食べる瞬間を目撃。
警告したけど誰も信じてくれない。
(これがサメ映画だと私だけが知っている)
どうしよう。このままじゃサメに食べられちゃう!
あの手この手で死亡フラグを回避しても、回避しても、ビーチとビキニから逃れられない。
小手先のジャブじゃあダメなんだ、決定打を打たないと!
焦っていたらラッキー、お姉ちゃんの浮気性の元彼と掠奪愛したネックレスビキニチアリーダーと遭遇。
意味もなければ解決もしない口げんかを延々と続けて尺稼ぎをしてたんだけど……
(これがサメ映画だと私だけが知っている)
大好きなお姉ちゃんがいじめられて怒り心頭。
何も考えず流されてるだけのビキニ娘が、三人そろって口答えする番狂わせが発生。クズ男はゴミ箱に沈みキャットファイトぼっ発!
ああ、何てこと。
前世でためこんだサメ映画知識を駆使して、サメ映画のお約束を利用して生き延びようとしていた。なのに自分でお約束を破壊してしまった!
どうしよう、もう先の展開が読めない……。
自分で生存率、下げちゃった!
ただでさえ低いのに、もうどん底だぁあ!
※
「いっかーん! 海に入ってはいっかーん!」
その人は突然そこにいた。歩いてくる描写、前触れ、一切無し。1カットも無し。切り替わったらそこに居た。ものすごい唐突に、宙から湧いて出た。さすが、さすがのヒルイラム、またしてもつなぎとか整合性とか一切合切考慮無し!
「うえっ?」
「誰?」
激突直前のシンディとネックレスビキニチアリーダーの間に割って入ったその人は、もじゃもじゃの白い髪に白い髭のおじいさん。陽に焼けた赤らんだザラザラの肌、色あせた船員帽子、横縞のシャツ、どぎついオレンジのカッパを羽織ってる。季節性より『船乗り』ってキャラクター性を優先したコーディネイト。パイプはくわえてない。多分全年齢作品だから。(こう言う木彫りの人形、見たことある)
「海に入ってはいっかーん! サメがっ、ホワイトシャークが来るぞーっ」
「あっ」
思わず声が出た。
サメ映画のお約束、「何か過去のおぞましい秘密を知ってそうな謎の老船員」、略して謎おじぃキターっ!
「サメじゃあああ! サメが来るぞー」
くわっと目を見開いて、しゃがれた声をしぼりだす。まるで地の底から響くような不吉な声。
「いくら美しく飾り付けても無駄じゃ、無駄無駄無駄ぁッ! 我らが祖先が海底におしこめた、おぞましき秘密からは……誰も、誰も逃れられんのじゃーっ!」
あっ、やっぱり何か知ってるんだ。
「何この人キモい」
後ずさりするネックレスビキニチアリーダー。危ない、気持ちは何となくわかるけど、もうちょっとで波に足が触れる。触れたら一分で、ううん、カップルだから三十秒でサメが来る! ほら、何かサメが来そうなBGMが聞こえるし……ん、BGM?
そっか、一回めの不意打ちと違って、今度は観客もサメが来るって察してる。だからBGMつきなんだ。音でサメの存在を観客の中に植え付ける。上手い演出だな、さすがヒルイラム!
よく聞くと、音の合間に「シャーク、シャーク、シャーク……」と囁く声が入ってる。あどけない子供の声で、微妙に調子を外してるとこがさりげなく危機感をあおってくる。
って感心してる場合じゃないよぉ。映画が優れてるってことは、どんなに逃げまくってもスピーディな展開でサクサクと巧妙にサメの口の中に追い込まれるってことじゃん! ピンチだ。ピンチ倍増だ!
「いっかーん! 戻れ、戻れーっ」
知っている。この人はまちがいなくサメ真実を知っている。血相変えてネックレスビキニチアリーダーの手首をつかみ、波打ち際から引き戻した。
「あ」
BGMが、消えた。
不吉な「シャーク!」ウィスパーが、消えた。
今、この瞬間、命を救われたことをネックレスビキニチアリーダーは知らない。金切り声で怒鳴りつける。
「離せ、離せっつってんだよ、このクソじじいがぁっ!」
いかにも言いそうな台詞吐いた! って言うかチアリーダー、キャラ変わってない?
「その手を離したまえ!」
二股彼氏復活。
うーわー、最低。相手が弱いと強気に出るんだこの人。浮気男が謎おじぃの胸ぐらをひっつかんで、蹴りつけた。
「ごふっ!」
鳩尾に入った。手加減無しのヤクザキック! 下劣! 卑劣! お姉ちゃん別れて正解。
「あっ」
「ああっ」
一回、二回、三回めで蹴り飛ばす! おじいさん鼻血吹いてるよ、これ放送コード的にどうなの? 全年齢対象映画だよ?
蹴り飛ばされた謎おじぃは積みあげられたドリンクの空き瓶に盛大につっこんだ。派手な音をたててすっ飛ぶガラスビン、そしてたおれる謎おじぃ。
「大丈夫ですかっ」
とっさに駆け寄った。
「ふん、気分が悪いわ」
「行こうか、ハニー。気分直しにヨットでクルージングだ」
鼻で笑って去って行く二人。何か何かさりげなく死亡フラグが聞こえたけど今それどこじゃない。
「お怪我はありませんかっ」
膝をついて謎おじぃを助け起こす。
「お、おお、ありがとうお嬢さん……ううっ」
「あっ血が出てる!」
「大丈夫じゃ、これぐらいの鼻血、海の男は屁でもないわ! げぇっふ、ごふ、ぶふぅっ」
謎おじぃはハンカチを出して鼻血を拭ってる。その手から血がしたたって、地面に落ちる。
ぽたっ、ぽたっ、ぽたり。
白い砂に血の雫が三つ。(白雪姫かっ!)
「って、こっちは鼻血じゃないですーっ」
「Oh!」
お姉ちゃんとシンディが駆け寄ってくる。
「ちょっと待って」
シンディはぱきっとミネラルウォーターの封を切って(どっから出したの?)おじいさんの手のひらを洗った。
「傷そのものはきれいですね、ガラスで切ったかな」
「あの、これ」
お姉ちゃんがばんそうこうをさし出す。ウサギさんのついたピンク色の可愛いの(たぶん私のために持ち歩いてる)。すばやくむいて、傷が長いから三つ使って、おじいさんの手に貼った。けっこう傷大きいよこれ!
「おお、ありがとう、おじょうさん方。あんたたちは優しいのう」
おじいさんは、手を回して首にかけていたペンダントを外した。黒いワックスコードに水色のビーズと白いビーズ、青白い三角形の何かが編み込まれてる。ビーズと三角が触れ合って、カラカラカシャンと乾いた音がする。
「これを……お守りじゃ」
そうして私の手の中に。これってもしかしてハンドメイド? 音の割にずっしり重たいよ。けっこう年季が入ってるけど、ピカピカに磨かれてる。
「え、でもこんな大事そうなもの、頂く訳には」
「それは、おじょうちゃんが持つのにふさわしい」
おじいさん、じっと見てる。さっきまでとはけたちがいの目力を感じる。声も厳かで深みがある。逆らってはいけない。そんな気がした。
「はい、ありがとうございます」
素直に受け取る。
「これは、あなたに」
「あ、はい」
「これは、あなたに」
「ありがとう」
気がつけばお姉ちゃんとシンディにも一つずつ。合計三つのペンダントを渡すと、おじいさんは低い声でもう一度
「海に近づいてはいけないよ」
つぶやくと、去って行ゆく。岬の方へ。
「あ、あの!」
すぐに人ごみに紛れて見えなくなった。
影も形も見えない。
カットが切り替わるともういない。あの人は映画の登場人物だもの、フィルムのすき間に消えてしまったらお手上げ。
手の中には、三角のペンダント。まるで『老いたる船乗り』に会ったと言う、記憶そのものが渡したような遭遇と退場。
「そうだ、ペンダント」
改めて手にとって、しみじみ観察する。光沢のある青白い三角。ワックスコードが固定された根元の部分は三日月型にくぼんでいる。象牙……じゃあない。この形、どっかで見た。絶対見てる。確かに見てる。それもごく最近。縁に指をはわせる。ぞくっと背筋に悪寒が走り、肌にさぶいぼが浮いた。さぶいぼは嘘をつかない。まちがいない、これはっ!
「サメの歯だ」
「本物っぽいね」
「聞いたことあるよ。サメの歯はサメと戦った勇者の証、だからお守りになるんだって」
「あの人、いつも持ち歩いてるのかな」
「丁寧な細工だね」
「ハンドメイド作家さんかも?」
三人で手を開く。微妙にビーズの配色や、サメの歯の大きさと色がちがうけど、デザインは同じ。作風が同じ。
うなずいて、首にかけた。胸元でゆれるサメの歯三つ。
「おそろいだね」
「うん」
胸の奥がくすぐったい。
てれくさい、うれしい、やっぱりうれしい。
ざざーっと波の音。ミャア、ミャアとウミネコの声。
そうだ、ここはまだ
「どうする? あいつらと同じ海に入るの、何だか気が進まないなぁ」
「……そうね」
はっ、これは、チャンスですよ! 風向きが変わってる。いい方向に吹いてる!
ぐっとサメの歯のペンダントを握る。何となくあったかい。勇気づけられる。私のしてることは、正しいって。
「お姉ちゃん! シンディ! 海に出るの、今日はやめとかない?」
「Oh……」
よし、二人ともこっち見てる。すかさず続ける。
「年長者の言葉には、必ず蓄積された知恵のうらづけがあります!」
そう、少なくともあの人は知っている。ここには白いサメが出るって。
「どっか、別のとこ行かない?」
「あ……うん、サミィが言うなら」
「そうね、それじゃあ……」
ぐるっと見回す視線の先を、タイミングよくラッピングバスが通り過ぎる。
『クリスタルレイクビーチ記念館、本日リニューアルオープン!』
「あれ!」