第12話 鬼退治

文字数 705文字

 「太郎さん、村のやつらを見返してやりてえんでしょ。」
 旅の男が桃太郎に話しかける。
 「いい話が、あるんですよ。山の上のあなたの実家。ありゃ、大泥棒五右衛門の子孫のうちでね。代々、盗人を生業にしている。だから、お宝もたんまりある。そいつを持ってかえりゃ、英雄でっせ。」

 小うるさい母親を出し抜き、財力で村人たちを自由にできる。息子となれば、気も抜くだろう。しかも、財産が出来れば、じじいどもが死んでも、この快適な居候生活が続けられる。悪い話じゃない。しかし、一人となると心もとない。
 「あっしは、旅のものですからね。村のごたごたには関わらねえことにしてやす。お上もよそ者には厳しいですから。」
 男はそう言い残すと立ち去って行った。

 「おら、鬼退治に行く。」
 桃太郎の宣言に、周囲は喜んだ。
 「一緒にいかねえ?」
 「お前んちの問題だろ。やだよ。」
 村人は誰も同行しない。ジジババは年で山道は無理だ。きびだんごをほおばりながら、桃太郎は旅に出た。

 残った、村人たちはその夜、太郎のうちで宴会を上げた。
 「あんなごく潰し、出て行ってよかったじゃねえか。おれたち農家は、年取って働けなくなっても、お上は手当てなんぞくれないよ。ちゃんとした跡継ぎがいりゃ、隠居になれば年貢だけは納めなくて済むがな。あいつじゃ、家督を継がせるわけにもいかないだろ。」
 近所は好き勝手なことを言って、盛り上がります。
 「老人二人。出来の悪い孫でも生きがいの足しにはなります。」
 「そういうもんかね。とりあえず、村の衆であんたらの面倒は見っからよ。」
 朝まで騒いで、みなニワトリの声と共に帰っていった。
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