アノ子ハセルセト人ダカラ
文字数 3,948文字
夜の中で、殺戮の熱狂が人間の姿となってカルプセス市街に押し寄せてきた。木兵たちがそれを押しとどめる脆弱な防波堤となり、ペニェフの市民とセルセト兵たちは、堀を越えて市庁舎に立てこもった。
「橋をあげろ!」
セルセト兵の叫びが木霊し、木兵たちが堀にかかる跳ね橋の鎖を巻く。橋は中央で割れ、上がり、そり立つ壁となる。爆薬つきの矢が放たれ、対岸の跳ね橋が破壊された。グロズナの工兵らが即席の橋を架けようとし、セルセト兵がそれを油壺と火矢で破壊した。攻防は果てしなく続いた。木兵達は互いの足を切り落とし、それを更に斧で切って、矢を作った。その前を油の壷が行き交って、布が浸され、矢に巻かれた。
ロロノイは火打ち石を鳴らし、戦友の矢に火をつけながら、頭の中に木霊するペシュミンの声と戦っていた。
ミハルはどこに行ったの!
ロロノイは答える。仕方がなかったんだ。子供だって殺さなきゃならないんだ。むしろ子供だから、殺さなきゃならなかった。子供を見逃すと将来の禍根となる。純粋であればあるほど大きな未来の脅威に。大人はもっと直接的な脅威だ。人質のグロズナ達を生かしておけば、グロズナ軍によって解放された後、剣をとりそれをペニェフに向ける。そうしないと、同胞の兵士に殺されるから。
彼らはグロズナだから死ななければならなかった。
俺たちも同じだよ、チビちゃん。あんたがペニェフだから、俺がセルセト人だから、殺されようとしていると同じなんだ。殺したいから殺すんじゃねえ、殺さないと殺されるんだ。誰だってそうなんだよ。
ペシュミンは市庁舎の奥で、ナザエに抱かれて目を開けている。目の奥で、たった一つの事だけ考えている。
花を探さないと。
自分と、母と、ミハルと、ミハルの伯父のために。
※
夜明け、リデルの鏃の残党のもとに出向いていた使者が戻ってきた。ミューモットに起こされて、ラプサーラは行軍に加わる。最前列の、いつもラプサーラの前にいたベリルの姿が今日は見当たらなかった。
「ベリルは?」
馬上のミューモットに尋ねる。
「お前の読みが当たったんだ。リデルの鏃の連中は人質交換を持ちかけてきた。交渉に応じると見せかけた囮部隊を時間稼ぎのために残している。奴はそこにいる」
ラプサーラはうなだれる。
もうどうだってよかった。不安にもならなければ、涙も出なかった。流れる汗が顔に残されたベリルの血と混ざりあい、首筋に伝い落ちて服を染める。
泣いたら駄目だと昨日言ってくれた兵士の姿も見えなかった。彼もベリルと共に残ったのだろう。
アーヴ。
名前など知らずにいればよかったと、少し思った。
※
ペニェフの男達が町を出てから、奇跡のような六日目の朝がカルプセスに訪れた。
消え残る夜の中で、兵士達は髭を剃り、互いの髪を切りあう。垢で汚れ、汗で臭い、互いの顔を見合っては自分も同じ状態であると悟り、恥じるように笑いあう。
木兵達は切り落とした足で矢を作っている。立てなくなった木兵は、右目から蜂の頭を覗かせて、しきりに首を傾げさせ、また目の奥に戻った。一体の木兵が腕で這い、仲間の前に身を投げた。仲間達は斧でその木兵を叩き割り、また矢を作る。住処を失った蜂が、さまようように仲間達の上を飛んだ。蜂は窓から出ていった。グロズナの攻撃はやんでいた。
薄明の光の中、なんて静かなのだろう。なんて静かなのだろう。
陥落が時間の問題である事に変わりはなかった。
朝は事態を変えはしない。
誰も救わない。
死の旅に向けて身繕いする兵士達も、隅の方で目を開けている市民達も、張りつめた静けさと希望を共有していた。
静けさは希望だった。
それがじき破られるとしても、それが何も変えないとしても、今この時、この場所で、確かに希望だった。
太陽が角度を変え、夜を焼き尽くした。
市民達は動いた。食糧を探した。隠し通路があるはずだという、出所のない話を共有し、それを探した。全員が地下で、厨房で、暖炉で、昔、時の権力者が市民を見捨てて逃げるのに使ったという、今でもあるかわからない、隠し通路を探した。
なんとしても生き延びるんだ。
静けさは破られ、希望は消えた。
※
カルプセスを出て六日目の昼、新シュトラトへ向かう特務治安部隊は、森の中で武装勢力による襲撃を受けた。あのおぞましい罠の平原を抜ければグロズナの手は及ばぬというデルレイの見立てにすがりついていたラプサーラは、すっかり嫌になってしまい、生きる気力を失った。民間人達は後方に移された。武装集団は正規のグロズナ軍ではない、弱小の民兵団の、とりわけ若い一団だった。血にはやり分別を失ったのだろう。あっと言う間に撃破され、倒れたグロズナの若者達の間を、ラプサーラは歩いた。
死体が怖いとも、臭いとも、不快だとさえ思わない。後続の人が隊旗を見て、リセラを包囲していた攻撃部隊の物だと言った。
リセラは陥落したのだろう。ならば、リセラより南のカルプセスにはもはや希望はない。仮に持ちこたえているとしても、完全に退路を失った。
あるいはリセラを攻め落としたグロズナ達は、この行軍を追うかもしれない。
だとしたら何だ?
連中がカルプセスに行くにしろこちらに来るにしろ、どんな害が自分に及ぶ? 何を失うものがある?
死が少し、怖い。それだけだ。
隣の男が喋っている。喋っているのはわかるのに、何を言っているかわからない。ラプサーラは男を見た。男はラプサーラに話しかけていたのだが、目が合うと硬直し、見てはいけないものを見たとばかりに、慌てて目をそらす。
私がどんな目をしているというの。
鈍磨した心で、ラプサーラは惰性で歩く。
ベリルはどうなるだろう。ふと思い、しかしそっと思いに蓋をする。心配などしたくなかった。気にかけたりなどしたら、彼が失われた時、とてもじゃないが耐えられない。
知った事ではない。誰が死のうと私には関係ない。知らない。知りたくない。
そう思い、そう振る舞うしかなかった。
この森を抜ければ、新シュトラトはすぐだ。
※
六日目の夜には本格的な戦闘が始まる。痩せてしまった男達の叫びが、肉厚な闇の壁に刺さる。兵士達に守られて膝を抱えるラプサーラは、自殺用のナイフが欲しいと願っている。セルセト兵達はそれを持っているのに、民間人に配ってくれないなんて、冷たい人達だ。
皆が皆、深い闇に抱かれ黙っている。敵に見つかりたくないからではない。死にたくないからではない。見つかっても殺されても、受け入れるしかないからだ。
それでも夜は明けて、兵士達が活気づく。
驚いた事に食糧が配られた。
「お肉だよ! お肉だよ!」
少女のような魔術師のドミネが、歌うように兵士に話しかけている。
「グロズナの連中から奪ったんだ。武器もあるよ!」
肉の薫製はラプサーラのもとにも回ってきた。武器は回ってこなかった。残念な事に。ラプサーラはのろのろと手を動かして、油紙に包まれた肉を受け取りはしたものの、包み紙をむいて口に運ぶ力は沸いてこなかった。
呆然と座りこんでいると、誰かが肩を揺すった。
「食え」
ミューモットだった。
「食え!」
ラプサーラは顔を背けたが、ミューモットは顎に手をかけて、強引に顔を上げさせた。
「いらない」
辛うじて答えた。
「行くなら、みんなで先に行って」
口を開けさせられた。ミューモットが腰袋から出した油紙を開き、擂り潰した木の実をラプサーラの舌に乗せる。それを葡萄酒で強引に飲みこませた。ラプサーラはされるがままだ。
「星占で何を見た」
辺りを憚り、ミューモットは低い声で話す。
「相が迫ってくると言ったな、全て消えていくと。それはどういう事だ。何が起きる」
「知らないわ」
みんな死ぬのだ。早いか遅いか、それだけ。
「星占のさなかの言葉は神の言葉よ。私が頭で考えた言葉じゃない。だから意味は知らない」
ミューモットは溜め息をついた。
「どうして私に構うの?」
二の腕を強い力で掴まれ、立ち上がらされた。ミューモットはラプサーラを自分の馬の所に連れて行き、ラプサーラを鞍にあげた。彼は手綱を引いて歩く。
「どうして?」
行軍が再開する。伝令が二人の横を走って行く。
ミューモットが下りるよう命じた。彼は馬の鞍に乗り、何も言わずに走らせる。すぐに姿が見えなくなった。
貝の笛が鳴らされた。民間人を集合させる合図だ。ラプサーラは路傍に蹲り、膝を抱えた。セルセト兵達は体力を失った民間人に構う余裕を失ったか、本当にラプサーラの姿が見えていないか、誰も声をかけようとしない。
「――でも、見ろよ。セルセト人だぞ」
誰かの声が聞こえた。兵士らが話し合っている。一人が歩み寄って来て、ラプサーラを肩に担ぎあげた。そういう事だ。セルセト人だから助けられる。
鬨の声が聞こえた。その響きで、もうすぐ森が終わるのだとわかった。
「グロズナの奴ら、こんな所にまで」
窪地に集められた民間人たちの中に、ラプサーラは連れて行かれ、下ろされた。誰かが言葉を続けた。
「これじゃ、新シュトラトはもう……」
その時、消えたと思っていた涙が、どうしてだか蘇り、頬を伝った。感じる事が出来ないだけで、恐怖も、心も、まだ重い体のどこかにあるらしかった。
剣の音は森の中にまで聞こえてきた。
「橋をあげろ!」
セルセト兵の叫びが木霊し、木兵たちが堀にかかる跳ね橋の鎖を巻く。橋は中央で割れ、上がり、そり立つ壁となる。爆薬つきの矢が放たれ、対岸の跳ね橋が破壊された。グロズナの工兵らが即席の橋を架けようとし、セルセト兵がそれを油壺と火矢で破壊した。攻防は果てしなく続いた。木兵達は互いの足を切り落とし、それを更に斧で切って、矢を作った。その前を油の壷が行き交って、布が浸され、矢に巻かれた。
ロロノイは火打ち石を鳴らし、戦友の矢に火をつけながら、頭の中に木霊するペシュミンの声と戦っていた。
ミハルはどこに行ったの!
ロロノイは答える。仕方がなかったんだ。子供だって殺さなきゃならないんだ。むしろ子供だから、殺さなきゃならなかった。子供を見逃すと将来の禍根となる。純粋であればあるほど大きな未来の脅威に。大人はもっと直接的な脅威だ。人質のグロズナ達を生かしておけば、グロズナ軍によって解放された後、剣をとりそれをペニェフに向ける。そうしないと、同胞の兵士に殺されるから。
彼らはグロズナだから死ななければならなかった。
俺たちも同じだよ、チビちゃん。あんたがペニェフだから、俺がセルセト人だから、殺されようとしていると同じなんだ。殺したいから殺すんじゃねえ、殺さないと殺されるんだ。誰だってそうなんだよ。
ペシュミンは市庁舎の奥で、ナザエに抱かれて目を開けている。目の奥で、たった一つの事だけ考えている。
花を探さないと。
自分と、母と、ミハルと、ミハルの伯父のために。
※
夜明け、リデルの鏃の残党のもとに出向いていた使者が戻ってきた。ミューモットに起こされて、ラプサーラは行軍に加わる。最前列の、いつもラプサーラの前にいたベリルの姿が今日は見当たらなかった。
「ベリルは?」
馬上のミューモットに尋ねる。
「お前の読みが当たったんだ。リデルの鏃の連中は人質交換を持ちかけてきた。交渉に応じると見せかけた囮部隊を時間稼ぎのために残している。奴はそこにいる」
ラプサーラはうなだれる。
もうどうだってよかった。不安にもならなければ、涙も出なかった。流れる汗が顔に残されたベリルの血と混ざりあい、首筋に伝い落ちて服を染める。
泣いたら駄目だと昨日言ってくれた兵士の姿も見えなかった。彼もベリルと共に残ったのだろう。
アーヴ。
名前など知らずにいればよかったと、少し思った。
※
ペニェフの男達が町を出てから、奇跡のような六日目の朝がカルプセスに訪れた。
消え残る夜の中で、兵士達は髭を剃り、互いの髪を切りあう。垢で汚れ、汗で臭い、互いの顔を見合っては自分も同じ状態であると悟り、恥じるように笑いあう。
木兵達は切り落とした足で矢を作っている。立てなくなった木兵は、右目から蜂の頭を覗かせて、しきりに首を傾げさせ、また目の奥に戻った。一体の木兵が腕で這い、仲間の前に身を投げた。仲間達は斧でその木兵を叩き割り、また矢を作る。住処を失った蜂が、さまようように仲間達の上を飛んだ。蜂は窓から出ていった。グロズナの攻撃はやんでいた。
薄明の光の中、なんて静かなのだろう。なんて静かなのだろう。
陥落が時間の問題である事に変わりはなかった。
朝は事態を変えはしない。
誰も救わない。
死の旅に向けて身繕いする兵士達も、隅の方で目を開けている市民達も、張りつめた静けさと希望を共有していた。
静けさは希望だった。
それがじき破られるとしても、それが何も変えないとしても、今この時、この場所で、確かに希望だった。
太陽が角度を変え、夜を焼き尽くした。
市民達は動いた。食糧を探した。隠し通路があるはずだという、出所のない話を共有し、それを探した。全員が地下で、厨房で、暖炉で、昔、時の権力者が市民を見捨てて逃げるのに使ったという、今でもあるかわからない、隠し通路を探した。
なんとしても生き延びるんだ。
静けさは破られ、希望は消えた。
※
カルプセスを出て六日目の昼、新シュトラトへ向かう特務治安部隊は、森の中で武装勢力による襲撃を受けた。あのおぞましい罠の平原を抜ければグロズナの手は及ばぬというデルレイの見立てにすがりついていたラプサーラは、すっかり嫌になってしまい、生きる気力を失った。民間人達は後方に移された。武装集団は正規のグロズナ軍ではない、弱小の民兵団の、とりわけ若い一団だった。血にはやり分別を失ったのだろう。あっと言う間に撃破され、倒れたグロズナの若者達の間を、ラプサーラは歩いた。
死体が怖いとも、臭いとも、不快だとさえ思わない。後続の人が隊旗を見て、リセラを包囲していた攻撃部隊の物だと言った。
リセラは陥落したのだろう。ならば、リセラより南のカルプセスにはもはや希望はない。仮に持ちこたえているとしても、完全に退路を失った。
あるいはリセラを攻め落としたグロズナ達は、この行軍を追うかもしれない。
だとしたら何だ?
連中がカルプセスに行くにしろこちらに来るにしろ、どんな害が自分に及ぶ? 何を失うものがある?
死が少し、怖い。それだけだ。
隣の男が喋っている。喋っているのはわかるのに、何を言っているかわからない。ラプサーラは男を見た。男はラプサーラに話しかけていたのだが、目が合うと硬直し、見てはいけないものを見たとばかりに、慌てて目をそらす。
私がどんな目をしているというの。
鈍磨した心で、ラプサーラは惰性で歩く。
ベリルはどうなるだろう。ふと思い、しかしそっと思いに蓋をする。心配などしたくなかった。気にかけたりなどしたら、彼が失われた時、とてもじゃないが耐えられない。
知った事ではない。誰が死のうと私には関係ない。知らない。知りたくない。
そう思い、そう振る舞うしかなかった。
この森を抜ければ、新シュトラトはすぐだ。
※
六日目の夜には本格的な戦闘が始まる。痩せてしまった男達の叫びが、肉厚な闇の壁に刺さる。兵士達に守られて膝を抱えるラプサーラは、自殺用のナイフが欲しいと願っている。セルセト兵達はそれを持っているのに、民間人に配ってくれないなんて、冷たい人達だ。
皆が皆、深い闇に抱かれ黙っている。敵に見つかりたくないからではない。死にたくないからではない。見つかっても殺されても、受け入れるしかないからだ。
それでも夜は明けて、兵士達が活気づく。
驚いた事に食糧が配られた。
「お肉だよ! お肉だよ!」
少女のような魔術師のドミネが、歌うように兵士に話しかけている。
「グロズナの連中から奪ったんだ。武器もあるよ!」
肉の薫製はラプサーラのもとにも回ってきた。武器は回ってこなかった。残念な事に。ラプサーラはのろのろと手を動かして、油紙に包まれた肉を受け取りはしたものの、包み紙をむいて口に運ぶ力は沸いてこなかった。
呆然と座りこんでいると、誰かが肩を揺すった。
「食え」
ミューモットだった。
「食え!」
ラプサーラは顔を背けたが、ミューモットは顎に手をかけて、強引に顔を上げさせた。
「いらない」
辛うじて答えた。
「行くなら、みんなで先に行って」
口を開けさせられた。ミューモットが腰袋から出した油紙を開き、擂り潰した木の実をラプサーラの舌に乗せる。それを葡萄酒で強引に飲みこませた。ラプサーラはされるがままだ。
「星占で何を見た」
辺りを憚り、ミューモットは低い声で話す。
「相が迫ってくると言ったな、全て消えていくと。それはどういう事だ。何が起きる」
「知らないわ」
みんな死ぬのだ。早いか遅いか、それだけ。
「星占のさなかの言葉は神の言葉よ。私が頭で考えた言葉じゃない。だから意味は知らない」
ミューモットは溜め息をついた。
「どうして私に構うの?」
二の腕を強い力で掴まれ、立ち上がらされた。ミューモットはラプサーラを自分の馬の所に連れて行き、ラプサーラを鞍にあげた。彼は手綱を引いて歩く。
「どうして?」
行軍が再開する。伝令が二人の横を走って行く。
ミューモットが下りるよう命じた。彼は馬の鞍に乗り、何も言わずに走らせる。すぐに姿が見えなくなった。
貝の笛が鳴らされた。民間人を集合させる合図だ。ラプサーラは路傍に蹲り、膝を抱えた。セルセト兵達は体力を失った民間人に構う余裕を失ったか、本当にラプサーラの姿が見えていないか、誰も声をかけようとしない。
「――でも、見ろよ。セルセト人だぞ」
誰かの声が聞こえた。兵士らが話し合っている。一人が歩み寄って来て、ラプサーラを肩に担ぎあげた。そういう事だ。セルセト人だから助けられる。
鬨の声が聞こえた。その響きで、もうすぐ森が終わるのだとわかった。
「グロズナの奴ら、こんな所にまで」
窪地に集められた民間人たちの中に、ラプサーラは連れて行かれ、下ろされた。誰かが言葉を続けた。
「これじゃ、新シュトラトはもう……」
その時、消えたと思っていた涙が、どうしてだか蘇り、頬を伝った。感じる事が出来ないだけで、恐怖も、心も、まだ重い体のどこかにあるらしかった。
剣の音は森の中にまで聞こえてきた。