第38話 女難 其の十六 R-18

文字数 4,511文字

十兵衛と撫子、たらちねが六条三筋町へ戻り、林家の前まで来たところで たらちねは十兵衛の肩車からピョンと飛び降りて、
「おぬしらは ゆっくりしてくるが()い」
と言いながら門内に駆け込んで行った。
「たらちね様?」
後を追おうとする撫子の手を握り引き寄せ、
「ゆっくりしてこいとの(おお)せだ。行こう」
と言う十兵衛を小首を(かし)げて見上げたが、柔らかな笑みを返されたので黙って腕に抱き付いて歩き始めた。
まだ昼間であるが、当時の花街は昼から商売が始まる。林家のような置き屋から、揚屋や茶屋といった貸し座敷へ向かう芸妓(げいこ)や遊女が行き交い独特な雰囲気が漂う。
「十兵衛さま、どちらへ……?」
たずねる撫子に ただ曖昧な顔で笑いながら脇の道に入り、長めの暖簾(のれん)提灯(ちょうちん)だけが()げられた店へ入った。
中は土間で、履き物を脱ぐ上がり口と二階への段梯子(だんばしご)があるのみ。
撫子はハッとして紅潮した顔を伏せた。この店の商売に思い当たる節があるのだ。
「先に昇れ」
十兵衛は段梯子に視線を流して撫子に言い、土間の横の板戸を叩いて
煙草盆(たばこぼん)を頼む」
と告げ、撫子の後から段梯子を昇り始めた。
「きゃっ!いけません。もぅ……」
先を昇る撫子の尻を触ってたしなめられるも、フフっと(たの)しげに笑って流す。
二階は段梯子の先に廊下と閉じられた唐紙(からかみ)があり、一枚の盆が置かれてある。
十兵衛はその盆の上に一朱銀(いっしゅぎん)三枚を置き、撫子の背後から伸ばした手で唐紙を開いて抱き締めるようにしながら中へ入り唐紙を閉じた。
すると、キシキシと段梯子を上がって来る音が聞こえ、唐紙の向こうで気配と小さな物音がしたかと思うと、またすぐに降りて行く。
再び唐紙を開けて見れば、そこには一朱銀の乗った盆が消えた代わりに煙草盆が置かれてあった。
部屋は二間続(ふたまつづ)きになっているらしく、煙草盆を取った十兵衛は撫子の腰を抱き寄せて奥への唐紙を引き開ける。
そこには鉄瓶の掛けられた火鉢と、枕が二つ置かれた(とこ)が延べられてあり、煙草盆を枕元に置いた十兵衛は床の上に安座し、そのまま後ろから撫子を膝に抱えた。
「じゅ、十兵衛さま、ここは……」
「盆屋ぐらい河原宿(かわはらのしゅく)にもあるではないか。知らぬではあるまい?」
するりと右の手を撫子の衿元に滑り込ませた十兵衛の声には、酒が入ったせいであろうか普段とは違う響きがある。
「でも……、二階に昇るなど、初めてに、ござります……」
乳をまさぐられ、撫子は湿り気を帯びた息を吐きながらも しおらしく目を伏せ()じらって見せた。
「まあ、そうであろうなあ。おまえは そういう初心(うぶ)なところが、たまらなく良いのよ」
撫子の耳を甘噛みして囁きながら十兵衛の左手はその裾を割り、すべらかな女割れにたどり着いた。
閉じたスジを押し開き指を滑り込ませると、熱い蜜がぬるりと絡みつく。
「んっ、んぅ……っはぁ、あぁっ」
蜜を(したた)らせてはいても、まだ固い ほと口に ゆっくりではあるが容赦なく中指を沈められて、蜜壷の中を かき回される。
「あ、あぁ、十兵衛さまぁ、……いやっ、お待ち下さり、ま、せ……やあ、あ、んっんっ……」
同時に手のひらで さねを擦り上げられて、気持ちの追い付かぬままに身体(からだ)だけが達してしまった。
強く弱く痙攣(けいれん)しながら己の指を締め付ける温かで柔らかな感触を、十兵衛は自分が気を遣ったかのような痺れる心地で楽しむ。
「もう気を遣ったか。気持ちは初心(うぶ)でも身体は(みだ)らで正直だな。どれ、その可愛ゆらしい顔を見せてくれ」
撫子が伏せていた顔を上げ、背後の十兵衛を見た。肩で息をしながら黒目がちの瞳に涙を溜めて、拗ねたように唇を尖らせている。紅を掃いたように色づいた様が艶かしい。
どちらともなく唇を重ね、互いに(むさぼ)るように舌を絡めて求め合う。
この時の撫子は()だ、十兵衛の隻眼に いつもの余裕は無く、ギラギラとした情欲の光が灯っている事に気付いていなかった。撫子が尻に当たる固いものに手を添えると、十兵衛は その胸元から手を離し もどかしげに袴の紐をほどき下帯の前袋の中に撫子の手を導く。
同時に十兵衛は撫子の蜜壷から中指を引き抜き、一度気を遣って敏感になった蜜壷へ薬指と重ね二指にして戻した。
「ひぁっ!」
思わず唇を離し声を上げる撫子が十兵衛の(ひざ)から逃れようとするも、押さえつけられ更に責められてしまう。
「おやめ、下さり……ませ、このような、あ、お許しを、いやぁぁ!あんっ」
「やめろ?おかしな事を言う。おまえの ほとは このように随喜(ずいき)の涙を流しておるではないか」
十兵衛はわざと くちゅくちゅと音を立てて指を使った。
そこで初めて いつもと様子が違うと悟るが、撫子は(あらが)いようのない快楽(けらく)の海に()(すべ)もなく飲み込まれる。
「いやっ、こん……なの、やぁぁ、あ、あ、は、あぁぁ……ぁ、ぁ……」
ビクン、ビクン、と跳ねた後に、きゅっと背筋を(こわ)ばらせて気を遣った撫子は前に倒れ込んだ。
十兵衛が半透明の蜜の糸を引いて指を抜いた ほと口は、誘うように赤みを差してヒクヒクと震えながら蜜を垂らして見せる。
起き上がろうと膝を立てた撫子は、しかし腕に力が入らず胸は(とこ)についたまま肩越しに十兵衛を見た。
「撫子……」
熱に浮かされたような声音(こわね)で呼ばわりながら(みずか)らの裾を開いて下帯の前袋をずらし、(あらわ)になった摩羅を いまだ痙攣する撫子の ほと口に(あて)がう。
「はっ、今は、だめっ……まだっ、」
這うようにして逃れようとする撫子の帯を片手で掴んで引き寄せ、もう片方の手で背中を押さえ潰し駒駆けで摩羅の根元まで一息に押し入った。
「!!!っあ、ひぃっ、だめったらぁぁ、いや、ぃやあ!あ!」
二度も気を遣らされた上、いきなり こつぼ口に摩羅を突き当てられて過ぎた快感に悲鳴にも似た声が上がる。
「可愛い撫子…、そのように、つれない事を、言わぬでくれ…」
息も荒く淫心にまかせ夢中で撫子の尻に腰を打ち付けていると、三度目の気を遣った撫子の膝が不意に崩れ、(とこ)の上に倒れた。
「な、撫子!?」
我に返った十兵衛が慌てて抱き起こすと、撫子は気を失っていたのだった。

「十兵衛さま……」
気がついた撫子が目を開けると、心配そうな表情の十兵衛が見える。
「撫子、気がついたのだな。良かった」
ホッとした面持ちになり、抱きかかえた撫子の口元に湯飲みをあて白湯を飲ませた。
「すまぬ。嫌がっておるのに あのような……、狼藉であった。許せ」
途方に暮れたような顔で、続ける。
「酒が入っておった、というのは言い訳にはならぬ。歳の取り甲斐もなく舞い上がって、我を忘れてしもうたのよ。なにせ、惚れた女と逢い引きなど、生まれて初めての事でな」
顔を赤らめた十兵衛の姿に、撫子の胸は高鳴った。
「口を吸うてくださりませ……」
「!……今はいかん」
「なぜにござりますか?」
「今はまだ、おれの身も心も冷めておらん。口を吸うたりすれば、堪えきれなくなるのは目に見えておる」
バツの悪そうに目を逸らした十兵衛は、まるで茹で上がったかのように首まで赤い。
「わたくしは、本当に嫌だったのではござりませんのよ?いつもと違う なさりように、少し、驚きましたのでござります。冷めておりませぬのは、わたくしも同じ……」
するりと十兵衛の首に柔らかな腕を巻き付けて、撫子は自分の方から十兵衛に口づけた。
十兵衛は抱きかかえていた撫子の唇を舌を吸いながら、優しく(とこ)の上に横たえ衿をくつろげた。
火鉢があるとはいえ温かいとまでは言えない室内のこと、粟立つ肌とともに ぷくんと紅い先端も固くなる。
「寒いか?」
「少し……。十兵衛さまの お手で、暖めてくださりませ」
少し困ったような笑顔で うなづいた十兵衛は、朝に付けた吸い跡に手を這わせ梅桃(ゆすらうめ)を思わせる先端を指と指の間に挟んでコリコリと(もてあそ)びながら、(てのひら)で包み込むようにして豊かな乳を揉みしだいた。
「はぁ、……あ、ぁあ……」
すぐに固さを増した紅い実を口へ含み舌で転がしてやると、撫子は吐息とも()がり声とも とれるものを吐き出す。
柔肌(やわはだ)の手触りを楽しむように、十兵衛の手は乳から腹へ滑り太腿(ふともも)の間に差し入って蜜の溢れる女割れをなぞり、小さな さねを探りあてた。
「あ、そこは……!」
撫子の背が跳ねて弓なりになり膝を立てて脚を閉じようとするも、十兵衛が素早く体を割り込ませ指を離す代わりに鈴口を さねに あてがい ゆるゆると擦り付けるように動く。
「ふっ……、うぅ……っ……」
(こら)えるように眉を寄せ切なげな息を漏らす十兵衛の腰に脚を回した撫子は、少し尻を浮かせてずらし十兵衛の摩羅の頭を ほと口へと付けた。
すると、腰から背を通り首筋へ、痺れるような感覚に襲われて、十兵衛は歯を食いしばる。
「十兵衛さまぁ、そのように意地悪をなさらないで……。お早く、くだされまし」
「しかし……、その……」
躊躇(ためら)う十兵衛の腰を撫子が脚で引き寄せ、唇を尖らせて見せた。
「そうだな。意地悪はいかんな」
十兵衛は片えくぼを彫ってフッと息を吐くと、撫子の額に己の額をコツンと付けて そのまま蜜で満たされた ほとの中へ、摩羅を(うず)める。
「ぅう、ん……はぁ……」
甘い息を漏らして受け入れる撫子の蜜壷は、歓喜に震えるように(うごめ)きながら十兵衛の摩羅を呑み込み、(ひだ)の一つ一つが(こす)り上げるようにまとわりついた。
十兵衛の方は先ほどとは打って変わり、ゆっくりと奥まで進めて こつぼ口に鈴口を優しく押し付けるように動きながら、耳に、首筋に、乳に舌を這わせる。そのたびに撫子の鳴き声は甘えるような響きを帯びて高くなり、絡めた脚を閉じるように締め付けてきて こつぼ口が吐精をねだるように鈴口に吸い付いた。
「あぁ、っんっ、んんっ、目のなかぁ、お星様が、ぁぁ、あっ、あ……」
きゅっと目をつぶった撫子の ほとが搾るように狭くなり、ヒクヒクと痙攣するのが十兵衛の摩羅に伝わる。
「は……っ、撫子、……イッたな?おれも、もう……」
摩羅を引き抜いて女割れのスジを開き、そこに挟み込んだ摩羅の裏筋に固くなった さねを擦り付けながら撫子のヘソ回りに精を吐き出した。
「やっ、十兵衛さま、どうして中にくださりませんの……?」
上体を起こして その様子を見た撫子は、切なげに問う。
「すまん。中に出すとな、後が、帰りの道行(みちゆ)きが大変だからのう」
「あ……」
「だから、これだけで 堪えてくれ」
十兵衛は撫子に軽く口づけ、()だ精汁の(したた)る鈴口もそのままに、硬さの残る摩羅を再び ほとの中へと戻した。
「ふぅ、ん!……あぁあ……」
思わず のけ反った拍子に腹から女割れへ流れた精汁を十兵衛が指で すくい取り、撫子の唇に塗り付けるようにすると、口取りをするように指を吸い唇を舐めて夢でも見ているかのようにウットリと十兵衛を見つめたのだった。

盆屋を出た二人は、指を絡めて手を繋いで歩いた。外は まだ昼間で互いに情事の余韻が残る照れを感じつつも、花街の中では何憚(なにはばかる)る必要も無い。
「十兵衛さま、また、お外で お逢いしてくださりますか?」
「ん?何を……」
撫子を見ると、(うつむ)いて顔を赤らめている。
ー『ああ、そうか。そういう事か』ー
己を慕ってくれる十九歳の可愛い妻は、何も恋人らしい事をしてやらぬままに嫁いでくれたのだ。
「そうだな。次は誘いの文を書こう」
十兵衛の言葉に、撫子は顔を上げて花のほころぶような笑みを浮かべた。
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登場人物紹介

柳生十兵衛三巌

主人公

剣豪として知られる柳生家当主で少し助平なイケおじ


河原 撫子

ヒロイン

美人で爆乳で淫らな十兵衛の嫁

柳生但馬守宗矩

故人

主人公・十兵衛の父

助平ジジイ

河原 市朗

ヒロイン・撫子の父

幼少の頃の十兵衛の傅役だった

イケオジィ

河原 すず

ヒロイン・撫子の母

若い頃、十兵衛の母・おりんの方様の侍女だった

ばあや

撫子のばあや

撫子が生まれる前は、すずの侍女だった

徳川家光

三代将軍


お藤

宗矩の側室

六丸の母

柳生 六丸

十兵衛の末弟

宗矩と お藤の子


お蔦

茶店の娘

撫子の幼なじみ


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