第13話
文字数 2,985文字
「まさか地下にそんな空間があったとはな」
ボウマンが立ち上がり、背を向ける。
目の前で地面に額をつけながら話をしていた男は、慌てて顔を上げた。
「ボウマン様! 私は全て話しました! 約束通り私をガーディアンに引き上げてください!」
地下室で部屋の隅に居た住民の一人である。
ウィルたちが地下へと招き入れられてすぐ、ここへ走ってきたのだ。
ボウマンは心底興味無さそうに男を見ると鷹揚 に頷 き、下がるようにと手を振った。
「見せしめに殺そうと考えただけの小者が、地下の隠れ家まで見つけてくれるとはな。……私はついている」
男が下がると、ボウマンは独りほくそ笑む。
ガーディアンの一人がボウマンのそばに寄り、口を開いた。
「先ほどの男はどうなさるので?」
「……お前は一度裏切った男を信用できるか?」
「……いえ」
「ならばそれなりに扱ってやれ。……おい貴様ら! グランドブレイカーを出せ! 納税の義務を果たさん不届きものを……処刑する!」
大声で叫ぶボウマンの声に、二つの大きなエンジン音が答える。
この街の守護者たる黒塗りのグランドブレイカーが、双眸 に光をたたえてそびえ立った。
双子のように同じ姿のグランドブレイカーは、右肩に「01」「02」のペイントがなされ、全身は黒いのに頭だけが赤と緑に塗り分けられている。
赤い頭部の「01」は、右腕の掘削機を二三度唸らせ調子を確かめた。
『久しぶりにいくぜ、ゼロツー!』
『ああ、俺たち2機のコンビネーションは最強だって、ゴミどもに思い出させてやる!』
緑の頭部の「02」も同じように掘削機を振りかざし、グランドブレイカーは手近にあった貧民街の建物を、肩慣らし代わりに破壊する。
瓦礫を踏み越え、情報にあった地下への入り口に迫ると、01の操縦者 はスピーカーの音量を最大にして叫んだ。
『貧民街の住人ども! 今すぐ反逆者を差し出せ! さもなければこの薄汚い住居ごと破壊するぞ!』
住人の反応はもちろんない。
ビョウビョウと言う風の音だけが街に響き、イライラとした01は周囲の建物の壁に意味もなく穴をあけた。
『ゼロワン、ボウマン様から許可は出てるんだ。めんどくせぇからやっちまおうぜ!』
『……それもそうだな』
その返事が終わるより早く、二機のグランドブレイカーは同時に周囲の建物を破壊する。
土煙を上げ、瓦礫の山と化した建物に蹴りを入れて吹き飛ばし、エンジン音を響かせた二機は、次々と建物を瓦礫に変え始めた。
『こりゃあいい!』
『気晴らしにゃもってこいだな!』
『お、見ろ! ゼロツー!』
このグランドブレイカーは大半の機体がそうであるように、モニターシステムが既に用をなさない。
そのためパイロットは目視で周囲を探っている。
その視線の端、土煙の中で小さなか影が動いた。
赤髪の影と黒髪の影。
2つの影はグランドブレイカーの足元を通り抜け、真っ直ぐファウンテンへと向かい、走った。
『見つけたぜ!』
『見失うなよ!』
二足歩行のマシンである。
戦車などの車両と違い、小回りが利く。
グランドブレイカーはその場で180度回頭すると、ウィルたちを追いかけた。
目の前にはウィルのバギー。
しかし、そこには当然数人のガーディアンが待ち構えている。
多勢に無勢だ。手柄が向こうからやってきたとでも言うようにニヤリと笑ったガーディアンは、しかし、次の瞬間、肩から血を吹き出し、吹き飛んだ。
「ごめんなさいガーディアンさん! どいて! モーターガンだよ!」
精緻な装飾の施された銃を手に、クロエが叫ぶ。
グランドブレイカーと共に珍重される、太古の技術の結晶とも言えるモーターガンの威力に、ガーディアンたちはクロエの進む道の上から体を投げ出し、道を開けた。
「いいぞクロエ! 上等だ!」
叫びざま、ウィルはバギーの運転席に残っていた最後のガーディアンの顔面に、体当たりのように肘を打ち込み、血を吹いた男を引き摺り下ろす。
エンジンをかけたバギーにクロエも飛び乗り、バギーは正門に向かって急発進した。
「ええい! ガキ二人に何をやっている! きさまら全員バギー引きにされたいか!」
叫ぶボウマンの背後の壁がはじけ、一瞬の後、彼の頬から血が噴き出す。
走りゆくバギーの上、揺れる荷台でモーターガンを構えたクロエとボウマンの視線が合った。
クロエの表情は、今までにないほど厳しいものだった。
「……っひ……ひぃっ?!」
ボウマンは頬を押さえ、手近に居たガーディアンの陰に隠れる。
クロエはそれ以上モーターガンを撃つことはせず、助手席に座った。
「……びっくりしたぁ。当たったかと思った……」
「当てりゃあよかったのによ」
「何言ってるの?! 頭に当たったら死んじゃうんだよ?!」
「……とりあえず口閉じとけ、舌噛むぞ!」
道の横から、建物を粉砕して赤い頭のグランドブレイカーが姿を現す。
ウィルはバギーのハンドルを切り、タイヤをスライドさせて瓦礫を避けた。
後方、別の建物を粉砕し、土煙の中から緑の頭のグランドブレイカーが、転びそうになりながら大通りに現れる。
オートバランスで体勢を立て直した02は、01と共にバギーを追った。
「さすが腐ってもグランドブレイカー! 速ぇな!」
「ウィル! 前!」
背後に迫るグランドブレイカーに気をとられていたウィルは、クロエの言葉に正面へと視線を向ける。
そこにあったのは巨大な正門。
連絡を受けたガーディアンにより、ウィルたちを逃がさないためにぴったりと閉じられた、巨大な鉄格子だった。
ウィルはハンドルを切り、地面をスライドしながら門を回避する。
しかし、急ハンドルを切りすぎた車体はコントロールを失い、門を大きくそれて壁際で止まった。
『ボウズども! 年貢の納め時だ!』
目の前に迫ったゼロワンからガーディアンの声が響く。
ウィルに不安げな視線を向けたクロエは、赤髪の友人の顔に不敵な笑みが上るのを見た。
少し遅れて到着したゼロツーのエンジンが一つ大きく唸る。
二機のグランドブレイカーのエンジン音がアイドル状態になった街に、もう一つの大きなエンジン音が近づいた。
『なんだ? このでかいエンジン音は?』
『……近づいてくる』
「だいたい計算通りだぜ」
ガーディアンたちの声とは真逆の、落ち着いたウィルの声。
鉄格子の向こう、砂漠の彼方から、もうもうと土煙を上げたグランドキャリアが、速度も落とさずにまっすぐ突っ込んでくるのが全員の目によく見えた。
「ウィル! 門がしまって――」
「――耳ふさげ!」
ウィルはバギーの上でクロエに覆いかぶさる。
大地が裂けたかのような轟音を響き渡らせ、ウィルのグランドキャリアは、一本一本がクロエの腕ほどの太さもある鉄格子にまっすぐ突っ込み、簡単に吹き飛ばした。
吹き飛んだ鉄の塊は、眼前に迫っていた02を直撃する。
門の前の広場で停止したグランドキャリアは、プログラム通り荷台のドアを解放した。
ボウマンが立ち上がり、背を向ける。
目の前で地面に額をつけながら話をしていた男は、慌てて顔を上げた。
「ボウマン様! 私は全て話しました! 約束通り私をガーディアンに引き上げてください!」
地下室で部屋の隅に居た住民の一人である。
ウィルたちが地下へと招き入れられてすぐ、ここへ走ってきたのだ。
ボウマンは心底興味無さそうに男を見ると
「見せしめに殺そうと考えただけの小者が、地下の隠れ家まで見つけてくれるとはな。……私はついている」
男が下がると、ボウマンは独りほくそ笑む。
ガーディアンの一人がボウマンのそばに寄り、口を開いた。
「先ほどの男はどうなさるので?」
「……お前は一度裏切った男を信用できるか?」
「……いえ」
「ならばそれなりに扱ってやれ。……おい貴様ら! グランドブレイカーを出せ! 納税の義務を果たさん不届きものを……処刑する!」
大声で叫ぶボウマンの声に、二つの大きなエンジン音が答える。
この街の守護者たる黒塗りのグランドブレイカーが、
双子のように同じ姿のグランドブレイカーは、右肩に「01」「02」のペイントがなされ、全身は黒いのに頭だけが赤と緑に塗り分けられている。
赤い頭部の「01」は、右腕の掘削機を二三度唸らせ調子を確かめた。
『久しぶりにいくぜ、ゼロツー!』
『ああ、俺たち2機のコンビネーションは最強だって、ゴミどもに思い出させてやる!』
緑の頭部の「02」も同じように掘削機を振りかざし、グランドブレイカーは手近にあった貧民街の建物を、肩慣らし代わりに破壊する。
瓦礫を踏み越え、情報にあった地下への入り口に迫ると、01の
『貧民街の住人ども! 今すぐ反逆者を差し出せ! さもなければこの薄汚い住居ごと破壊するぞ!』
住人の反応はもちろんない。
ビョウビョウと言う風の音だけが街に響き、イライラとした01は周囲の建物の壁に意味もなく穴をあけた。
『ゼロワン、ボウマン様から許可は出てるんだ。めんどくせぇからやっちまおうぜ!』
『……それもそうだな』
その返事が終わるより早く、二機のグランドブレイカーは同時に周囲の建物を破壊する。
土煙を上げ、瓦礫の山と化した建物に蹴りを入れて吹き飛ばし、エンジン音を響かせた二機は、次々と建物を瓦礫に変え始めた。
『こりゃあいい!』
『気晴らしにゃもってこいだな!』
『お、見ろ! ゼロツー!』
このグランドブレイカーは大半の機体がそうであるように、モニターシステムが既に用をなさない。
そのためパイロットは目視で周囲を探っている。
その視線の端、土煙の中で小さなか影が動いた。
赤髪の影と黒髪の影。
2つの影はグランドブレイカーの足元を通り抜け、真っ直ぐファウンテンへと向かい、走った。
『見つけたぜ!』
『見失うなよ!』
二足歩行のマシンである。
戦車などの車両と違い、小回りが利く。
グランドブレイカーはその場で180度回頭すると、ウィルたちを追いかけた。
目の前にはウィルのバギー。
しかし、そこには当然数人のガーディアンが待ち構えている。
多勢に無勢だ。手柄が向こうからやってきたとでも言うようにニヤリと笑ったガーディアンは、しかし、次の瞬間、肩から血を吹き出し、吹き飛んだ。
「ごめんなさいガーディアンさん! どいて! モーターガンだよ!」
精緻な装飾の施された銃を手に、クロエが叫ぶ。
グランドブレイカーと共に珍重される、太古の技術の結晶とも言えるモーターガンの威力に、ガーディアンたちはクロエの進む道の上から体を投げ出し、道を開けた。
「いいぞクロエ! 上等だ!」
叫びざま、ウィルはバギーの運転席に残っていた最後のガーディアンの顔面に、体当たりのように肘を打ち込み、血を吹いた男を引き摺り下ろす。
エンジンをかけたバギーにクロエも飛び乗り、バギーは正門に向かって急発進した。
「ええい! ガキ二人に何をやっている! きさまら全員バギー引きにされたいか!」
叫ぶボウマンの背後の壁がはじけ、一瞬の後、彼の頬から血が噴き出す。
走りゆくバギーの上、揺れる荷台でモーターガンを構えたクロエとボウマンの視線が合った。
クロエの表情は、今までにないほど厳しいものだった。
「……っひ……ひぃっ?!」
ボウマンは頬を押さえ、手近に居たガーディアンの陰に隠れる。
クロエはそれ以上モーターガンを撃つことはせず、助手席に座った。
「……びっくりしたぁ。当たったかと思った……」
「当てりゃあよかったのによ」
「何言ってるの?! 頭に当たったら死んじゃうんだよ?!」
「……とりあえず口閉じとけ、舌噛むぞ!」
道の横から、建物を粉砕して赤い頭のグランドブレイカーが姿を現す。
ウィルはバギーのハンドルを切り、タイヤをスライドさせて瓦礫を避けた。
後方、別の建物を粉砕し、土煙の中から緑の頭のグランドブレイカーが、転びそうになりながら大通りに現れる。
オートバランスで体勢を立て直した02は、01と共にバギーを追った。
「さすが腐ってもグランドブレイカー! 速ぇな!」
「ウィル! 前!」
背後に迫るグランドブレイカーに気をとられていたウィルは、クロエの言葉に正面へと視線を向ける。
そこにあったのは巨大な正門。
連絡を受けたガーディアンにより、ウィルたちを逃がさないためにぴったりと閉じられた、巨大な鉄格子だった。
ウィルはハンドルを切り、地面をスライドしながら門を回避する。
しかし、急ハンドルを切りすぎた車体はコントロールを失い、門を大きくそれて壁際で止まった。
『ボウズども! 年貢の納め時だ!』
目の前に迫ったゼロワンからガーディアンの声が響く。
ウィルに不安げな視線を向けたクロエは、赤髪の友人の顔に不敵な笑みが上るのを見た。
少し遅れて到着したゼロツーのエンジンが一つ大きく唸る。
二機のグランドブレイカーのエンジン音がアイドル状態になった街に、もう一つの大きなエンジン音が近づいた。
『なんだ? このでかいエンジン音は?』
『……近づいてくる』
「だいたい計算通りだぜ」
ガーディアンたちの声とは真逆の、落ち着いたウィルの声。
鉄格子の向こう、砂漠の彼方から、もうもうと土煙を上げたグランドキャリアが、速度も落とさずにまっすぐ突っ込んでくるのが全員の目によく見えた。
「ウィル! 門がしまって――」
「――耳ふさげ!」
ウィルはバギーの上でクロエに覆いかぶさる。
大地が裂けたかのような轟音を響き渡らせ、ウィルのグランドキャリアは、一本一本がクロエの腕ほどの太さもある鉄格子にまっすぐ突っ込み、簡単に吹き飛ばした。
吹き飛んだ鉄の塊は、眼前に迫っていた02を直撃する。
門の前の広場で停止したグランドキャリアは、プログラム通り荷台のドアを解放した。