商鞅の変法(改革・爵制)

文字数 1,748文字

「この木をうつしただけでそんなに金がもらえるなんて、いったいどうしてだ」

「まあ、その前に聞けよ、この衛鞅(えいおう)様はだな、他にも様々な命令を下されているんだ」

「ほう、どんな命令だ?」

「孝公様に取り立てられてだな、まずは爵ってものをお決めになった」

「爵ってのは、なんだい?」

「まあ、待てやい、俺もそんなに正確にはしっているわけでねえ、まあ、こんなもんだと思って聞いてくれ」

 男はゆっくり続けました

「これまで秦の属していた(しゅう)の国は、天子様の部下の六卿や大夫や士というものが中心になって政治や軍事を治めていたんだ。

 上国、次国などの国の大きさによりそれらの制度は分かれているが、この国を治めておられる周の天子様が卿や大夫などを任命されることに名目上はなっている。しかし最近では、その国を治める領主が、自分の家族をその地位に任命し、権力を固めることが多い。

 六卿や大夫や士は国にいては俸給を与えられて自給自足し、敵が現れれば将校として軍隊を率いて戦った。

 周の前の前の()の国の王様の(けい)という人が、有扈(ゆうこ)氏という氏族を伐つときに、『六卿と大夫を召して将とした』なんて記録が残っているが、ともかく内政では卿や大夫であったものが、軍事では大将になって戦ったわけよ

 整理すると、卿・大夫・士などの内政の官が、戦争になると大将に代わる。具体的に言うと、内政では比長(ひちょう)閭胥(りょしょ)族師(ぞくし)(とう)州長(しゅうちょう)大夫(たいふ)(けい)のような官や、まあ位というか、単位についていたものが、それぞれ、()(そつ)司馬(しば)將軍(しょうぐん)などの官や位、単位に対応するわけだ。大夫、卿が、それぞれ司馬、將軍になるっていう具合にな

 秦のその内政・軍政の制度のうち軍制を、衛鞅様は少し整理されたのだ、これを爵についての改革という。

 周の国でも国君について、公や侯、伯や子、男のような位があったが、秦の国では軍事で功績のあったものは爵が昇進される。これまでは、卿、大夫、士のようなもの、上卿、上大夫、下大夫のような上層の階級を中心としたものだったが、今度はもっとより詳しくするらしい」

「どうして?」

 興味深く聞いていた男が口をはさんだ。

「まあ、軍功を明確にすることで、民の戦いへの意欲を増進させるのが目的らしい。つまり軍事で功績をあげれば、次々と昇進していくことができるようになるわけだ

 ふつう、戦いというのは、戦車でする。四頭の馬に曳かれた戦車に、三人の勇士が乗り、さらに歩卒が七二人つく。三人が乗った戦車と、その左右に七二人の歩卒が広がって、合計七五人の小隊で戦う。通常、戦車には、大夫(指揮者)が左に乗り、御者は馬をあやつるため真ん中に乗り、勇士は右に乗る。

 一爵の公士(こうし)という者は、最下位の步卒の爵があるものだ。三爵からやや身分が高くなって造士(ぞうし)という。二爵の(しん)・褭(この字は『奴』と『鳥』の音の合体と辞書にはあるようである、ニョウ(nu+tyou→n+you)とでも発音するのだろうか、筆者の力ではわからない)というのは、馬を御する御者だ。(にょう)というのは昔の名馬で馬を意味する、四頭の馬を御するその形が(かんざし)に似ているから簪褭(しんにょう)という。四爵は不更(ふこう)という。不更は車右、つまり戦車の右に乗る勇士だ。これらは七五人のうち、左に乗るたった一人の大将の部下たちだ。

 五爵を大夫という。大夫は車の左に乗るもの、大将だ。以降の大夫も同じだ。六爵が官大夫、七爵が公大夫、八爵が公乘、九爵が五大夫、皆、大夫に当たり、軍吏(部将)だ。

 十爵が左庶長、十一爵が右庶長、十二爵が左更(さこう)、十三爵が中更(ちゅうこう)、十四爵が右更(うこう)、十五爵が少上造、十六爵が大上造、十七爵が駟車庶長(ししゃしょちょう)、十八爵が大庶長、ここまでがいわゆるこれまでの卿を分けたもので、皆軍隊の將軍だ」

(『資治通鑑(しじつがん)』の胡三省(こさんせい)という人の注釈では、これより上に、関内侯(かんだいこう)などの爵が二つあったようだが、この時点では秦がそこまでの爵を備えていたとは考えにくい、したがってそれらを割愛する)

「一等以上から四等の不更に至るまでは士の身分だ。大夫から五大夫までの五等は大夫の身分だ。左庶長から大庶長までは卿の身分だ。」

「だいたいを(士)、大夫、卿という周の国の朝廷の位と対応させているが、軍事の功績に基づいて身分や役職が昇進することができる、とされたのだ。軍事に重きを置いているのだよ、この国は」
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