第7話

文字数 2,369文字

やっぱりあいつだけではなかったか。俺たちの目の前には兵士が待ち構えていた。


「やっぱりシェーマスだけではどうにもならなかったか。が、ここから出すわけにはいかないぞ、禁書の少女よ」





「人の仲間のくせにずいぶんダサいニックネームじゃねぇか。お前たちも念のために聞くが、龍の攻撃に加勢しなくていいのか?」





「その必要はない。もしその必要が出ればこの王都は5回は滅んでいることになる。龍の襲撃には慣れつつあるんだ。心配ご無用だよ」





 さすがに素直に言葉を聞いてくれるはずもないか。とはいえまずいな。この人数だと全員に囲まれたまま、シミルごと......


 いや、ヘンな考えはよそう。現実として現れてきちまいそうだ。剣を構え対峙する。



「剣舞・流星!」





 青い衝撃波が俺たちに襲い掛かる。困ったことにそれを何発も打てる。攻撃を弾こうにも剣は今にもどこかに吹き飛んでしまいそうな気がした。俺にも同じ力が使えれば......いや、無理か。





「禁忌召喚(タブーコール)! キグロック!」





「ゴォオオオオ!」





 見慣れた城壁色の巨人。目の前には飛び降りた悪魔の姿があった。





「バキリア! お前ドラゴンを召喚したんじゃないのか?」





「そんなことできるわけないでしょ? あいつら魔法阻害(マジックプリベント)で禁忌召喚の素材にしたくてもできないのよ。彼女は?」





「寝ているだけだ。心配ない」





「そ、じゃあ頑張って」





 彼女はそういうなりシミルを奪い取り空を舞った。


 おい嘘だろ! 俺も連れていけよ!


 彼女が戻って来る様子はなかった。



「どうやら撃ち落とす必要があるみたいだね」





「そんなことさせるわけねぇだ......」





 俺の顔の半分が吹き飛んだ。





「悪魔が。お前の言葉などもう必要ない」





 そっちが本性かよ。わかったよ。戦ってやるよ。ただし後悔すんなよ。俺の顔が治ったとき、そいつは驚きを見せた。


 衝撃波が襲い掛かる。キグロックってやつは意外にも固く簡単に貫通されることはなかった。彼は怒り狂ったように何度も衝撃波を放った。


 俺には関係ない。能力をふんだんに使わせてもらう。キグロックの体を借りて城外に飛び上がる。


 誰だか名前は知らないけど、やり合うのはまた今度だな。じゃあな。

 





「逃がすかっ!」





 衝撃波がキグロックを砕き、破片が俺の腹を貫いた。痛みはない。もう慣れたもの勝ちだ。


 俺が駆け出しても兵士との距離は増えない。城の壁など気にもせず、ただ俺を、その先のシミルを狙い駆けてくる。


 今更思いついたが、これだと俺はシミルに一生会えないんじゃ......


 それは最悪だ。1人ではいろいろと不便が多すぎる。ここで何としてでもこいつを倒すか。


 駆ける足を止め、顔を合わせる。息切れの俺に対してそっちはまったく冷静だった。うらやましい。もっと前から肉体強化しとけばよかった。



「お前の能力、厄介ではあるが攻撃はできないようだな。剣舞・劉冷!」





 俺の身体が危機を伝えた。シミルと同じ氷の効果。力の少ない俺には死と同じようなものだ。ナイフを構え鎧の受け付ける位置を狙い定める。いや、ここは顔面を狙うか。


 体を踊るように動かし攻撃を留めない彼に、俺は効果が付加される前の剣に飛びかかった。体に冷たさは走らなかった。



「これで終わりだあぁっ!」





「グッ......」





 ナイフを目に無理やり押し込む。感触は最悪だが、敵は後退し片手で目を押さえた。





「攻撃ができない? 冗談はお前の片目だけにしてくれよ」





 心は震えていた。当然目をくりぬいたことなんてない。が、目の前の熱を爆発させた彼に俺は笑っていた。俺でもこんなやつに、勝ち組の一員になれるのだと。





「貴様ぁああ!」





『おい......っておる!』



 彼の剣の動きが止まった。耳元で何やら話声がかすかに聞こえてくる。誰かと電話をしているのか? 俺が取った行動は合流だった。


 奴の追って来る様子はない。都合がいい。これでようやくシミルに会える。うれしい。



「遅いわよ、どこで命売ってたのよ?」





「大げさだ。執念深いやつがいてな。そいつのせいで少し遅れた」





「倫也さん、無事ですか?」





「ああ。といっても俺の傷は全部消えるから、無事以外あり得ないんだけどな」





 彼女はハンカチで俺が受けた血をぬぐってくれた。一体誰がやったか知らないが、この騒動に乗じないわけにはいかない。俺たちは王都の外へと走り出そうと考えた。


 が、彼女が走り出した方向は真逆だった。



「どこに行くんだシミル!」





「倫也さん、1つ確かめたいことがあるんです。私の本当のお父様がここにいたかもしれないんです!」





「なんだって!」





 シミルの言葉を疑いたくなった。もしそうだとしても、その親がいたとして会いたいと思うか? 捨てられたのだろう? それとも何も告げられていないか。


 残酷な現実が先か。夢が続くか。俺ならどうする?



「わかった、戻ろう。けど無茶な戦いはなしだ。誰かを人質に取って情報を得る。それでいいな?」





「好きな方法ではないですけど、構いません。ありがとうございます、倫也さん」





「やれやれ、せっかくここまでたどりついたっていうのに本当に人間は呑気ね。まぁ倫也はある意味でゾンビだけどね」





「誰がゾンビだ! 俺は腐ってねぇよ!」





 そう、この感覚だ。俺たちは駆け出し城を目指す。シミルの情報が正しいかどうか、見せてもらおう。


 俺なんてこの世界ではまだまだ赤ちゃんだからな。

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