早速、いい年になりましたね

文字数 996文字

 大みそかの深夜、華やかな歌番組が終わり、除夜の鐘を延々流し続ける某公共放送の番組が始まる。
 この番組が始まってから終わるまで、それともう少し、だいたい深夜二十四時五十分までが一年で一番好きだ。

 だって、今でもこの音を聞くと、あの瞬間を鮮明に思い出せるから――。



 例年に引き続き、俺たちはコタツにこもってこの番組を眺めていた。

「……年、明けるな」
「そうだね」
「この、ぼーんって音、何となく厳かな気がしない?」
「しないでもない」
「どっち?」
「どっちでもいい」
「確かに!」
 十年来の親友は除夜の鐘みたいにぼんやりと笑った。

「そう言えばこの番組、最後まで見たことがない気がする」
「確かに!」
「なんていうか、何回か聞いたら満足しちゃうよね」
「確かに!」
「で、年明け前のテンションと共にお笑い番組に変更する」
「確かに!」
「実は、十年前からずっと好きでした」
「確かに……ってまじかおい!」
「とりあえずこっちの話を聞いていないことは分かった」
「ごめんなさい」
 笑ってない笑顔が恐ろしくて、俺は素直に謝った。

「あー、つまり、最後まで見たことないって話だよな」
「うん、最後ってどう終わるんだろうって」
「ちょっと調べてみる」
「見ればいいじゃん……」
「どうやらアナウンサーさんが『今年もいい年になりますように』っていい感じに締めてくれるらしい」
「ネタバレじゃん、最悪」
「待てって、番組変えんなよ」
「どうせ今年もアナウンサーさんがいい感じに締めるんでしょ」
「今年は分からないぞ、もしかしたらどんでん返しがあるかもしれない」
「例えば?」
「最後に『残念、大晦日は昨日でした!』って言ってくるとか」
「年明けしたら既に昨日は大晦日だけど?」
「……なあ、戻していいだろ」
「やだよ、お笑い見ようよ」
「じゃあ、年明けの瞬間、ジャンプしない?」
「しない」
「年の終わりと始めくらい重力に逆らってみない?」
「みない」
「お笑い見ない?」
「見ない――あっ、ズルい!」
「別に何だっていいだろ?」
 そのまま番組争いをしていると、そのまま、いい感じにアナウンサーさんに締められてしまった。

「終わったな」
「やっぱり、どんでん返しはなかったね」
「当たり前だ。公共放送だぞ?」
「自分から言い出したんじゃん……でも、まあ、今年も年の終わりと始めに陸と一緒にいられてよかったよ」
「……今年も、よろしくな、楓」
「うん」

「……俺たち、付き合おっか?」
「うん」
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