あなたに読む物語

文字数 1,163文字


  あなたに読む物語

「おう、廣畑。たまには外で遊ぼうや」
 顔を上げると、白い歯にまず目が行った。逆光、という訳ではないが、それほど楽しげにその肌は日焼けしていた。
「何読んでんの? げ。平家物語・・・・・・」
 その人は眉をひそめると、本の表紙から私の顔に視線を移した。ものめずらしげ、と言うよりかは気持ち悪がっている。私はというと、この人の「立場にそぐわない」反応に白い目を向ける。
「『よっぴいてひょうと放つ』のか?」
 ひそめた眉の向こう側が、少しだけ好奇の色に染まる。目の奥がキラキラし始める。なんとなく、嫌な予感がした。
「何、何、誰に? 誰に?」
 私はため息をついた。

「おう、廣畑。たまには外で遊ぼうや」
 顔を上げると、鼻の頭にまず目が行った。立体の最たる場所だから、という訳ではないが、それほど楽しげにその鼻の頭は赤くなっていた。
「違う。寝てる間に蚊にくわれたの。で、今日は何読んでんの? げ。雨月物語・・・・・・」
 その人は眉をひそめると、本の表紙から私の顔に視線を移した。ものめずらしげ、と言うよりかは気持ち悪がっている。私はというと、この人の「立場にそぐわない」反応に白い目を向ける。
「・・・・・・。・・・・・・あれだろ? 旦那が稼ぎに出ちゃって、その間に嫁さん死んじゃうの」
 なんというつまみ方だ。だしをとった後のにぼしのような哀愁が漂う。
「ダメだぞ、待ってるだけじゃ。行け。行け。・・・・・・おう、何だー。行く行く」
 クラスの女子が呼ぶ声がした。その人はそっちを向くと「じゃな、」と言ってひょいひょいと机の間をすり抜けて行った。
私はため息をついた。

「おう、廣畑。たまには外で遊ぼうや」
 顔を上げると、髪にまず目が行った。特に短くなった、という訳ではないが、それほど楽しげにその色は明るくなっていた。
「紫外線って怖いよねー。丸一日外にいただけで、すぐ痛んじゃうの。ほら、俺の髪って細くて繊細だから」
 曰く「痛ん」だ髪は、もはや金髪に近い。
「で、今日は何読んで・・・・・・げ。源氏物語・・・・・・」
 その人は眉をひそめると、本の表紙から私の顔に視線を移した。ものめずらしげ、と言うよりかは気持ち悪がっている。私はというと、この人の「立場にそぐわない」反応に白い目を向ける。
「いいか、恋は現実でするものだ。本の中でもいいが、やっぱりたまには外出て遊んだ方が」
「公共の人を想っての嫉妬は」
 ぎゅっと手のひらを握り締める。この人は、何も分かってない。
「やり場のない不満に変わるから、嫌なんです」
「外に行こう」と言うのなら、傷つく可能性のある場所へ連れ出そうと言うのなら、
 最後まで責任とってよ。途中で手を離したりなんかしないで。ねえ、
「先生」





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み