580円のパイナップルが買えないのはなぜなのか

文字数 1,658文字


580円のパイナップルが買えない。

生活習慣のひとつとして、スーパーやコンビニには並ばないものを、ときどき買い出しに行く。
デパ地下の鮮魚は立派で、三枚おろしを頼むこともできる。ちょっと珍しいドレッシングに、コーヒー豆や輸入食材、チョコレートにスイーツ。我が家の定番をそろえていく。
スイーツは今ちょうど、レモンとマンゴー、ミントにメロンと、ショーケースには私の好物ばかりが並んでいる。
大ぶりのメロンがスポンジに二段もサンドされたショートケーキを買わずに帰ることなんてできない。とろりんと常温でいい状態まっさかりのチョコレートを買い置きしないなんて考えられない。
そうやって次々と必要なものをそろえていく。
好きなものばっかりを得る買い出しの、なんと幸せなことか!
ときどきの買い出しだからだろうか、あとから考えたら、ちょっと余計かな、と思うものや、買い過ぎたけどまあいいか、と思うものもあるのだけれど、私は月に数回、こんな風な買い物をしている。

ところで、買い物後の紙もの問題は、なんとかならないものだろうか。
キャッシュレス生活が加速して、もらうレシートが増えた。通常のレシートに電子マネーを使用したことによるレシート、ポイントカードのレシートに、なにやらキャンペーン応募用のレシートが加わることもある。
しかも最近のレシートはいわゆるザ・レシートな形だけではなく、妙に幅広だったり、長かったりするものが混在している。これらをカードケースに収めると、スリムなはずのケースは膨らみ、カードが取り出しにくくなる。結果、カードを生で持ち、いただいた紙ものは無造作にエコバックに放り込まれることになる。
控えに紙なんてもらわなくっても控えられるサービスをキャッシュレス制度に付属させてほしい。領収証のように、欲しい人だけが申告する方式にしてもらったらどうだろう。できぬ相談ではないと思うだけれど。。。

話がそれた。。
私はときどき買い出しに行き、紙ものをいっぱいもらって困惑するくらいに買い物をする。
先日も幸せな気持ちで買い出しをし、ついでに地元のスーパーにも立ち寄った。ちょっとした食材を買っていくつもりで買い物かごを持ち、生鮮食品売り場で甘い匂いに吸い寄せられる。
そこにはりっぱなパイナップルが山積みされていた。大きな台湾パイナップルだ。ちょうど旬だし、私も旦那さまもパイナップルが好きだ。買っちゃおうかな、そう思って見た値札には580円と書かれている。消費税を入れたら640円くらいだ。
うーむ。私は悩んだ。ちょっと高いかも。去年よく食べたパイナップルは税込みで500円いかなかったんじゃないかな。甘い香りから急に気持ちが引きはがされる。あれは台湾パイナップルじゃなかったからかな。うーむ、うーむ。
そう広くない売り場にいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。でもどうしょう。悩んだ挙句、結論を出せないまま、私はその場を離れた。
パイナップルは買えなかった。

帰宅後、バッグの中の幸せの元を冷蔵庫に収めた。そうするとバッグの底には紙ものだけが無残な姿で残っている。
がっとつかみ、パッと目に入った金額にハッとする。ほんのこぶし大のパッケージに入った大好きなチョコレートは二千円ちょっとした。ついさっき、スーパーでは580円に悩み、決断できなかったのに、チョコレートは即決購入していた。
それだけじゃなかったな。ケーキとプリンを買った店のレシートを探すと、それもまた三千円近い金額が書かれている。スーパーでは580円に悩んだというのに。
なにかがおかしい。私は580円のパイナップルが買えなかった。お財布に580円がないわけではないのに買えない。買えないのだ。

翌日、旦那さまとスーパーに行き、パイナップルの前に立った。ううむ、と動きは止まる。新作ケーキを一度にいくつも購入するタイプの旦那さまも、パイナップルが買えなかった。
おかしい。なにかがおかしい。
580円のパイナップルが買えないのはなぜなのか。自分の中のおかしな基準に、私は首をひねるばかりだ。
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