第2話
文字数 658文字
奈津はメイクをすませて玄関を出た。夏の匂いが鼻腔をくすぐったが、肌に刺す暑さはだいぶ和らいでいる。
きょう、2人のバイト代で初めて旅行に行く。リョウが無言でがっちりした腕を差し出し、奈津の鞄を荷台に載せた。行き先は北関東の温泉街、車で1時間半の距離だ。
「よし、出るぞ」
リョウは明るく言った。エンジンが、安っぽいうなり声を上げた。
その少年は、2人がチェックインしている宿のカウンターの奥から顔をのぞかせた。
「いらっしゃいませー」
声の細い、華奢な男の子だった。中学生くらいだろう。暖簾をかき上げる腕が白く、長めの黒髪が耳にかかっている。間のびした語尾がかわいらしかった。
「あれ、お子さんですか」
女将にリョウが尋ねると、「えぇ」とつつましい返事がかえってきた。
「でも、体が弱くて。運動もしてませんから、彼氏さんみたいなガッシリした方が羨ましいですわ」
女将がリョウと奈津の交互にほほ笑みかけた。本心なんだろう。リョウははにかんで応じた。
「ようこそお越しくださいました。ゆっくりしてください」
少年がカウンターの前であいさつした。礼儀正しい子だ。
「どうもありがとう。名前は?」
「水田シュウと言います。優秀の、秀です」
お辞儀をして笑う。血色の薄い唇から、きれいに並んだ歯がのぞいた。
「シュウくん、よろしくね」
奈津はあいさつを返した。こういうやりとり一つでも、旅に来た感じがして高揚する。2人はシュウの案内で部屋に通された。和室が二つ並んだ間取りで、深緑の木々が窓の景色いっぱいを覆い尽くしていた。
きょう、2人のバイト代で初めて旅行に行く。リョウが無言でがっちりした腕を差し出し、奈津の鞄を荷台に載せた。行き先は北関東の温泉街、車で1時間半の距離だ。
「よし、出るぞ」
リョウは明るく言った。エンジンが、安っぽいうなり声を上げた。
その少年は、2人がチェックインしている宿のカウンターの奥から顔をのぞかせた。
「いらっしゃいませー」
声の細い、華奢な男の子だった。中学生くらいだろう。暖簾をかき上げる腕が白く、長めの黒髪が耳にかかっている。間のびした語尾がかわいらしかった。
「あれ、お子さんですか」
女将にリョウが尋ねると、「えぇ」とつつましい返事がかえってきた。
「でも、体が弱くて。運動もしてませんから、彼氏さんみたいなガッシリした方が羨ましいですわ」
女将がリョウと奈津の交互にほほ笑みかけた。本心なんだろう。リョウははにかんで応じた。
「ようこそお越しくださいました。ゆっくりしてください」
少年がカウンターの前であいさつした。礼儀正しい子だ。
「どうもありがとう。名前は?」
「水田シュウと言います。優秀の、秀です」
お辞儀をして笑う。血色の薄い唇から、きれいに並んだ歯がのぞいた。
「シュウくん、よろしくね」
奈津はあいさつを返した。こういうやりとり一つでも、旅に来た感じがして高揚する。2人はシュウの案内で部屋に通された。和室が二つ並んだ間取りで、深緑の木々が窓の景色いっぱいを覆い尽くしていた。