第8話 山谷堀のお龍

文字数 1,041文字

○東京台東区南千住、日本堤

深夜0:30AM

はーっ、すっかり遅うなってしまったわ。このコロナ禍の最中、大阪から東京に出張って、第二波が恐ろしいわ。とりあえずこのへんは安宿があるって聞いたんやけどな。
チョロチョロ、

サラサラ(水の音)

あれっ、こんな所に掘りが?

そんなアホな、携帯の地図には無かったで。


辺りには、濃霧が立ち込める。

目抜き通りには、ずらりと並ぶ小料理屋と置屋。

立看板を見つける関西の営業マン。
何っ?泪橋に三谷堀って、なんやねんな。

とりあえず、腹も減ったし何か食べよう。

赤提灯「お龍」に入る営業マン。
ガラッ
(女将)いらっしゃい。
夜分遅くにすんません。まだ看板じゃないやろね。
うちは、丑三つ時までやってるさ。
じゃ、とりあえずおすすめで。
刺身を出された漢。
うーん、美味い。せやけど、何や川魚みたいな感じやな。
鯉のアライだよ。イキがいいから、美味いだろ。
えっ、養殖かいな。どこでとれるんや、そんなもん。
隅田川の千本杭の辺りで、いくらでもとれるじゃないか。
千本杭?いつの時代の話してんねんな、護岸工事でとっくの昔になくなってるやろ。
醤油は、今朝河岸に着いた銚子の地醤油だよ。ひと味違うだろ。
知ってるで、キットコーマンやろ。関西でいうたら、おたふくソースみたいなもんやな。
キットコーマン?全く漢ってのは、東西を問わず変わらないね。腹がくちくなれば、次は女って。
さんざん飲み食いして二時間後、丑三つ時。
そろそろ暖簾だよ。お客さんも、もう眠たいだろ。
せやな、じゃ勘定してもらおうか。ナンボなんや。
あんた大阪から来たらしいからまけとくよ。330文でいいよ。
(330文って、何の冗談や)

現金の持ち合わせがないからな、paypayで払うわ。ICOCAでもええで。

お客さん、銭がないんなら主人を呼ぶよ。

おーい、アンタ!

態度が急変する女将。
主人登場。
お客さんっ、銭がないんなら置屋の牛漢(下働き)でもやって返してもらわんと。
客の襟首を掴み引き連れる主人。
牛漢ってなんなん?ワイはネズミトシやで、星座は蟹座だけどな。せやっ、Visaはどうや、ゴッツイ払えるでえ。出る所に出たってええんや、今時電子マネーが使えんて、東京も遅れてるで。知事の小瀧友理恵はんも鈍臭いな。
自身番は、吉原大門の中だっ!明け六つまで開かんわっ!
自身番ってなんや?関東大震災の寝ずの番かいな、それにしてもアンタ不細工な割に自信まんまんやな。
とりあえず日頃世話になってる万戸楼にぶちこんでやるわいなっ。
万戸楼はんっ?喜んでいいんやろか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色